第6話:職人技
2025.8.23 午前/島の東部・“聖域”の社
破壊の衝撃が残る社の中で、西園寺は興世に向けていた視線をデロリアンに移し悲壮なため息を吐く。
「私の可愛いデロリアン……」
ガックリと項垂れる西園寺に、ヨロヨロと立ち上がった佐々木が銃を構える。白いスーツは埃にまみれ、見る影もない。
「貴様……余計な事を!」
パン、パン。
乾いた銃声が鳴り響き、西園寺の胸に二つの穴が開く。
「……あんた、何してんの!」
助手席から飛び出した真理が佐々木に飛びかかり、ハイキックで銃を吹き飛ばす。手首を押さえようとした佐々木の頬に勢いそのままの回し蹴りが炸裂し、佐々木は壁に吹っ飛ばされた。
ぐったりとした佐々木を見下ろす真理の背後から、佐々木の手下が殴りかかろうと振りかぶる。瞬間、男は白目を剥いてその場にうずくまった。
「……思ったより早かったわね」
「ま、それなりに。もうちょい遅くても問題なかったかな?」
渡嘉敷の視線の先には、男の鳩尾に突き刺さる真理の肘があった。
「……うちの桐生君は?」
「あいつ?さあ、どっかで落としたみたいだな。気付いたらいなかったよ」
「決めきれないのが桐生君よね……」
残っていた佐々木の部下たちが、わっと社の外に逃げ出す。そこに待ち構えていたのは“隠密”の面々だった。
「さて、お礼をさせてもらわないとな……」
隠密たちによる“狩り”が始まった。
真理が視線を戻すと、興世が倒れた西園寺の横で体をゆすってる。
「起きろ……起きろ!何やってんだお前!“聖域”を見るんじゃなかったのか!」
涙を流しながら懸命に揺さぶる。
「やっと……やっとお前に見せてもいい、と思ったのに……」
興世が泣き崩れる。真理と渡嘉敷も鎮痛な面持ちでそれを眺めていた。
「……言ったな?」
突然聞こえてきた声に誰もが呆気に取られる。
「言ったな?今、見せてやってもいいと言ったな?」
西園寺が起き上がり、今度は逆に興世を揺さぶる。
「お前……何で?撃たれたはずじゃ……?」
興世が西園寺の体に空いた二つの穴を信じられない表情で見ている。西園寺は無言で上着を開いた。そこには分厚い本が鎧のように体を守っている。
「……昨日病院で寝てた時、妙にリアルな夢を見てな。撃たれる場所が分かってたから、念の為仕込んどいて正解だった」
真理のポケットでSOPHIAの端末が点滅している。メッセージに真理は立ちくらみを起こしそうになった。
[AEON起動済。私に感謝するよう、その男に伝えなさい?]
◇◇◇
2025.8.23 午後/島の東部・“聖域”の社(の破壊跡)
駐在さんと消防が到着し、佐々木たちは仲良く連行されていった。これで無茶なリゾート計画も白紙になるだろう。
レッカー車で運び出されるデロリアンを哀愁と共に眺める西園寺の隣に興世が並ぶ。
「お前、思い切った事したなあ」
「40年だぞ、40年。我が子のように大切にしてきたのに……」
「形あるものはいつか失われる。お前にとってたまたま今日がその日だった、というだけの話だ」
「で、お前の大事にしていた“形のないもの”も失われる日が来たと?」
興世がかぶりを振る。
「我々が守ってきたものはそんな事では失われないよ。“聖域”より大切なものもある。同じぐらい、大事にしてやればいいだけの話だ」
「えらく柔軟になったな。頭でも打ったか?」
「お前みたいな偏屈にだけは言われたくない」
二人がどちらともなく笑う。
「おじいちゃん……」
初音が泣きそうな顔をしながら興世の前に立つ。
「……おいで、初音ちゃん。怖かったろう」
初音は泣きながら興世の胸に飛び込んだ。
「おじいちゃん、いっぱいひどい事言ってごめんね!おじいいちゃんは、全然悪くなかった!」
興世が初音の頭を撫でながら優しく伝える。
「……初音ちゃんが無事だったんなら、おじいちゃんはそれでいいんだ。板挟みになって苦しかったろう?もう、我慢しなくてもいいんだよ」
大声でワンワン泣きながら興世にしがみつく初音。ちょっともらい泣きをしている真理のところに桐生がフラフラとやって来た。
「……今いいとこなのに。随分早いご到着ね?」
桐生は痛そうに腰を抑えている。
「ちょっと寄り道を。……あの野郎、絶対分かってやりやがった……」
どうやら渡嘉敷にうまく放り出されたらしい。
「まあ、万事めでたしめでたし、って事で」
「で、“聖域”って結局どうなったんすか?」
「あ……」
「先生、当初の目的忘れてたでしょ?」
「そ、そんなはずないじゃない。やあねえ、もう!」
真理が桐生の腰をバン、と叩いた。桐生が悶絶する。それを見ていた西園寺が興世の方を向いた。
「じゃ、そろそろ“聖域”を見せてもらおうか」
西園寺の言葉に一同の雰囲気が変わる。興世は初音の頭をポン、と叩き元社があった場所に移動すると皆に告げた。
「……今から“聖域”を開放する。来て良いのは西園寺、御堂さん、桐生君、初音ちゃんと……隠密の全員」
“俺たちも?”渡嘉敷らの顔にも衝撃が走った。
「門衛さんには悪いけど、誰か入ってこないように見てもらっててよろしいですか?」
門衛さんはすごく残念そうな顔をしたあと、笑顔で敬礼した。
「では、行こうか」
興世の号令を合図に、呼ばれた全員が“聖域”に向かって歩き始めた。




