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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第7章 琉球

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第5話:聖域へ!

2025.8.23 午前/島の駐在所



 医師からもう大丈夫、と太鼓判を押され西園寺が診療所を後にしたのは昼近くの事だった。真理たちが駐在所に着くと、何やら慌ただしい雰囲気がする。


「何かあったのかな?」


 真理がひょい、と顔を覗かせると気付いた駐在さんが誇らしげな笑顔でこちらを見返した。


「おはようございます!あれから、具合はいかがですか?」


「良いとは言えんがね。で、どうしたんだね?この騒ぎは」


 駐在所の奥から出せ、俺じゃねえと騒いでいる男たちの声がする。


「あれから調べを進めまして。容疑者を勾留しています。荒い連中ですが、何とか大人しくさせましたよ。消防の連中も手伝ってくれて」


「それが今、あの奥に……?」


「はい、是非ご確認をお願いします!」


 平和な島で起きた大きな事件に駐在さんのテンションも上がっているようだ。案内された牢屋には、数名の男たちが勾留されていた。


「主犯は渡嘉敷忠男(22)。日頃からバイクを乗り回し、一緒にいる連中とつるんでいました。目撃者の証言から自宅にいたところを逮捕した、と言うわけです!」


 誇らしげな表情を一変させ、駐在さんが渡嘉敷たちに叫ぶ。


「さあ、もうこれで言い逃れはできないぞ!大人しく罪を認めて楽になれ!」


 渡嘉敷が鉄格子に張り付くほど近づき、駐在さんに言い返す。


「だから、俺たちじゃ無いって言ってるだろ!何度も言わせんじゃねえ!」


 そうだそうだ、と他の面々からも声が上がる。


「今のうちにせいぜい吠えとけ!……西園寺さん、こいつらで間違い無いでしょうか?」


 駐在さんが期待のこもった眼差しで西園寺を見つめる。


「……どうかな。ヘルメットをかぶっていたから顔が見えたわけでも無いし。あの時は逃げるのに必死で、よく覚えていない」


「そうですか……後のお二方はいかがですか?」


「私は一緒にいた女の子を庇うのに必死で、外を見る余裕はありませんでした」


「俺も、パニくってたんであんまし覚えてないっす」


 駐在さんは明らかにがっかりした表情を見せたが、すぐに気を取り直して笑顔を見せた。


「今、ドライブレコーダーの情報と照合してもらうよう所轄に依頼しているので、それが出れば万事解決ですよ!」


 駐在所の外で急ブレーキの音が響いた。タクシーのドアが乱暴に閉まる音がし、初音が髪を振り乱しながら飛び込んでくる。


「初音さん?」


「初音ちゃん?」


「真理さん、桐生さん……おじいちゃんが、おじいちゃんが!」



◇◇◇



2025.8.23 午前/島の東部・“聖域”の社



 社の中で、興世と初音が向かい合って座っていた。


 興世は目を閉じ、初音は俯いている。


「おじいちゃん……昨日のは、おじいちゃんがやったの?」


 興世は目を閉じたまま黙っている。


「あれは、ひどすぎるよ!あんな事して、誰かが死んじゃうかもしれないって思わなかったの?」


 初音がボロボロと泣きながら興世を見据える。興世はぴくりとも動かない。


「私、信じてた。おじいちゃんは外の人に厳しいところはあるけれど、絶対こんな乱暴なことはしないって……」


 興世の目が開く。初音に近づき、耳元で告げる。


「初音ちゃん、今すぐここから逃げて……」


「え?」


 訳がわからない、といった顔の初音に興世が続ける。


「ここは危ない。裏口から出て、すぐに逃げなさい」


「おじいちゃん、それって一体……」


 初音の言葉を遮るように、車と複数のバイクが入ってくる音が社の中に響く。


「……今は“隠密”もいない。お前を守ってやれない……」


 興世に押し出されるように初音は社の裏口から放り出された。


「おじいちゃん、おじいちゃん?」


 数人が社に乗り込んでくる足音が聞こえる。一人の足音がゆっくりと近づき、笑いを堪えるような男の声がした。


「……ようやくあの厄介な連中を始末できましたよ。さ、今日こそ“聖域”を明け渡してもらいましょうか」


 初音はガタガタ震えながらもつれる足で沿道に飛び出し、走ってきたタクシーに大きく手を振った。



◇◇◇



 初音ちゃんは上手く逃げただろうか。


 興世はこれから自分の身に起こることよりも、初音を気にかけていた。白いスーツに身を包んだ男が笑いを堪えながら興世を見下ろす。


「いやあ、奇跡のタイミングでしたよ。あの狂った学者先生とあんたが大声で言い合った。“隠密”の彼がここに出入りしていた事は何人もの人が知っている。昨日は、私たちが情報をリークしましたけどね。素朴な駐在さんは大喜びでしたよ。おかげで“聖域”を守るのはあなたの体一つ。実に美しい結末です」


「何が美しいものか。人の命を危険に晒しておいて、どの口が言う!」


「必要悪ですよ。古代の神も生贄を求めた、と言うでしょう?それと同じですよ。いつまでも古臭い伝統だの儀式だのにしがみついてどうなります?あなたのお子さんもお孫さんも、結局島を出て行ったんでしょう?」


「止まるか去るかは本人が決めればいい。その結果誰もいなくなったとして、それがあるべき姿であるなら胸を張って受け止めればいい」


「何と綺麗事を仰る。この島で生まれ、未来を紡ぎたいと思った私の気持ちはどうなりますか?過去の遺物を資源として再活用し、人が溢れる島にする!それが私の夢であり、我がミラクルリゾート開発の理念なのです!」


「西園寺らを襲ったのが誰かなど、すぐにでも明らかになる!お前らの思い通りになるものか!」


「分かってないですねえ。聖域が“公開”される事に意味があるのですよ。これまで守られてきた神秘が白日の元に晒される。そんな娯楽の前では、些細な事件などすぐに忘れ去られます。私も手荒なことはしたくないんですけどねえ……大人しく、“聖域”を明け渡して一緒に夢を見ませんか?」


「“聖域”と“神”を見せ物にする安い未来に興味は無い!」


「なら、仕方ありませんね。役に立たない“遺物”には消えてもらうとしましょうか」


 佐々木の懐から拳銃が取り出され、銃口が興世に向けられる。


「“不幸な事故”はどこでも起こるものですから。あなたは“聖域”を見回っている際、足を滑らせて崖から落ちてしまった。運が良ければ誰かが死体を見つけてくれるかもしれませんね」


 興世が観念したように目を閉じる。こんな事になるなら、あの阿呆に一度ぐらい“聖域”を見せてやっても良かったかもしれない。佐々木の指が引き金にかかる。


 キキーッ!


 社の外で音がした。何事か、と振り向いた佐々木たちの目に飛び込んできたのは白っぽい塊が社に飛び込んでくるところだった。佐々木たちは横っ飛びでそれを避けるが、破壊音が鳴り響き社の瓦礫が身体中に降り注ぐ。興世は呆気に取られ、腰を抜かした。


 シルバーのボディに特徴的な四つのヘッドライト。近未来的なフォルムの車は興世を守るように佇み、運転席のドアがゆっくりと上に跳ね上がる。デロリアンから姿を現したのは、頭に包帯を巻いた西園寺。


「お前……」


 興世の理解が追いつかない。西園寺は興世に顔を向け、ニヤリと笑った。


「失礼。どうしても“聖域”を拝みたくなってね」



◇◇◇



2025.8.23 午前/島の駐在所


 飛び込んできた初音から何人かの男たちが無防備な“聖域”に押しかけてきた事、興世が危険に晒されている事を聞いた西園寺は即座に決断を下した。


「御堂さんは私と一緒に!桐生君は初音さんについてあげて!」


 西園寺と真理は駐在所を飛び出し、西園寺が乗ってきたデロリアンに乗り込んだ。


「博士、乗せていただけるんですか?」


「非常事態だ。やむを得ん!」


 西園寺のコレクションで最も有名だったのがこのデロリアンだった。常に磨き上げられた車体は美しく、西園寺は自分以外の人間が乗ることを決して許さなかった。


「じゃ、失礼します!」


 真理が胸の高鳴りと共にガルウイングを上げ、助手席に乗り込む。キーが回り、エンジンが咆哮を響かせる。


「急ぐぞ!」


 派手なホイルスピンを撒き散らしながら、デロリアンは飛ぶように“聖域”を目指した。



◇◇◇



 西園寺たちを見送る桐生と初音。と、駐在さんが慌てて飛び出してきた。


「い、今所轄から連絡がありまして。皆さんを襲った襲撃グループは、あいつらとは別人だって!」


「て事は……」


 桐生は動揺している駐在さんを中に引っ張り込み、渡嘉敷たちが入っている牢屋の前に連れてきた。


「今は一人でも多くの力がいる……こいつらをとっとと釈放してくれ!」


 駐在さんは混乱しながら鍵を開ける。渡嘉敷たちが飛び出してきた。


「俺のバイクは……無いわな。駐在さん、これ借りるぜ!」


 カブのキーを手に取り、渡嘉敷が走り出す。桐生が後に続いた。


「あ?何だお前?」


「俺も連れて行け!」


「あん?」


「時間がないんだろ!さっさと連れてけ!」


「……振り落とされんなよ」


「初音ちゃん、また後で!」



 前輪を上げながら走り去るカブを見送っていた初音と隠密たちだが、急に気付いたように皆走り出した。


 “聖域へ!”



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