第1話:再会
光の先に波音が聞こえる。
真理と桐生は旅路の果てにある最後の“門”を目指し歩き始めた。
◇◇◇
2025.8.22 午前/照砂島の港
石垣島からの高速艇が着岸し、荷物を抱えた観光客がゾロゾロと桟橋を渡ってくる。その中に女性二人と男性一人のグループがいた。大きなスーツケースが一際目を引く。迎えにきていた人物を見つけ、女性の一人が声をかけた。
「おじいちゃ〜ん、ただいま〜!」
「初音ちゃ〜ん!」
呼ばれた男性は満面の笑みで駆け寄り、初音と抱擁を交わす。
「しばらく見ないうちにまた可愛くなったもんだ!」
「もう、やめてよ!あ、これはうちのおじいちゃん。おじいちゃん、こちらは電話でお話しした御堂さんと桐生さん」
「御堂です、初めまして」
「桐生です、よろしくお願いします」
「おお、あなたたちですか!初音ちゃんから話は聞きました。私は比嘉興世 (ひが・こうせい)。宮崎では初音ちゃんが世話になりました」
「いえいえこちらこそ……後半は覚えてないんですけどね……」
真理が自重気味に笑う。
「?」
「と、とにかくここでは何だし、涼しいところに移動しません?」
初音の提案で一行は興世の車に乗り、宿泊先の宿に向かった。
◇◇◇
2025.8.11 東京/研究所・真理の研究室
鳴沢氷穴では何の情報も得られなかったが、SOPHIAが六つ目の“門”を開いたことを告げていたため二人はそのまま東京に戻って来た。しかし、いくつか腑に落ちないことがある。
駐車場を出ようとしたら、入庫の日付が2日前の8月8日になっていた。首を捻りながらも後ろの車が列をなしていたので、とりあえず支払う。
東京に戻り荷物を降ろそうとしたら、見覚えのない山高帽が後部座席に鎮座していた。一瞬不気味に感じたのだが、なぜか二人ともその帽子を無碍にする事が出来ず。桐生が何となくかぶってみると、不意に涙が溢れ出した。
桐生はその帽子を大切に抱え、真理も自分の目から溢れそうになる涙に戸惑いつつ桐生を見守った。
研究室に荷物を下ろし終わり、ソファに座り込む。
「……何か、どっと疲れました……」
「そうね、心なしか体の節々が痛い……」
SOPHIAから何らかのメッセージが届いているようだったが、二人は回復を優先する事にして研究所を後にした。
◇◇◇
翌日。SOPHIAのメッセージを確認する。
[MODULE: GATE-LINK]
[LOCATION: RYUKYU]
[GATE STATUS: 7/7 INITIALIZING]
[24.223799: 124.303436]
[MESSAGE: ニライカナイは今日も還ってくる]
「最後の門は……沖縄!」
「座標確認します……出ました。石垣島の南東、“照砂島”です!」
「まんま“ニライカナイ”と言われる場所ね……それにしてもこのメッセージ、どこかで聞き覚えが……?」
「初音ちゃんです!確か工科大の研究室で初めて会った時、“宇宙の声”が喋ってた内容がこれでしたよ!」
「確かに。……初音さんは沖縄にある小さな島の出身だ、って言ってたわね。それがこの“照砂島”の事だとしたら……すぐ、連絡してみるわ!桐生君は“照砂島”についてのリサーチをお願い!」
「イエス、マアーム!」
電話はすぐに繋がった。初音の生まれ故郷は照砂島であり、昔“宇宙の声”を聞いたのは間違いなく島にある“小さな祠”であることが分かった。
初音は今沖縄本島の実家に帰省しており、来週の後半以降であれば都合がつくと言う。木曜日に宮古島で落ち合い、翌日の朝に高速艇で島に渡る事にした。島に住む初音の祖父には、予め初音から連絡を入れてもらう事にした。
「ありがとう、初音さん。それじゃ来週、宮古島で!」
電話を切った真理が桐生に向き直る。
「やっぱり初音さん、照砂島の出身だったんだって。来週向かう事になったから、それまでに集められる情報はできる限り集めましょう」
「了解っす。今ざっと調べただけでも、結構な数が出て来ますね。このサイトの情報がよくまとまってて分かりやすいっす」
桐生が一つのまとめサイトを表示した。
“照砂島 (てるすなしま)
宮古島の南東に位置し、古来より“現世のニライカナイ”と呼ばれている。
経緯には諸説あるが、島の北西部に位置する古代遺跡とその信仰によるところが大きいというのが最有力説だ。
最近の調査では少なくとも紀元前千年には文明が興っており、大陸との交流があったとされる。透き通ったエメラルドグリーンの遠浅が多く見られ、リゾート地としての人気も高い。東部は多くが絶壁に囲まれており、“聖域”として島外の人間が立ち入りを禁止されている区域が数多く存在する。近年、警告を無視して立ち入る観光客の増加からより厳しい監視の目が光るようになった。
アクセスは宮古島からの高速艇があり、1日6便があるが夕方前には最終便が出るので事前のチェックが必要。“
「……この古代遺跡って、よくテレビの特集とかでも出てくるやつですね」
「確かバリ島にあるような石造りの門が有名よね」
「一般の観光客が立ち入れるエリアは限定的みたいなんですが、奥にはそれなりのものが眠ってるみたいっす」
「そんな時は……現実的な神にお願いするのが妥当よね」
真理は迷わず所長の内線番号をプッシュした。
◇◇◇
2025.8.22 午前/照砂島の宿・ラウンジ
荷物を下ろし、真理たちは宿のラウンジで初音たちと合流した。
「お待たせしました!」
「いやいや構わないよ。それよりさっきの話、この島の遺跡を調査したい、ということだったね?」
真理は道中の車の中でこれまでの経緯を興世に伝えていた。
「はい、SOPHIAの言う“ニライカナイは今日も還ってくる”が何を指すのか分かりませんが、まずはそこと……あと、前に初音さんが“声”を聞いたという“小さな祠”にも伺ってみたいと思っています」
初音と興世がキョトンとした顔で真理を眺める。
「……私、何か変な事言いました?」
初音と興世は顔を見合わせて笑い、初音が答える。
「真理さんが行こうとされている遺跡が“小さな祠”なんです。同じ場所ですよ」
「そうなの?」
桐生が驚いた表情で尋ねる。
「ええ、地元の人はみんなあの場所を“小さな祠”って呼んでます」
「……この島の人たちのスケール感が分からない……」
初音が笑いながら続ける。
「私も島から出て一般的な“祠”を見た時はカルチャーショックでしたから」
「所変われば、ってやつか」
なるほど、と頷く桐生。
「では、早速行きますか?」
興世に促され、一行は島の北西部にある遺跡に向かった。
◇◇◇
バリ島の遺跡を思わせる厚みのある岩で作られた乳白色の門。傍には入場券の販売所とゲートがあり、結構な観光客が集まっている。
「じゃあ入り口で特別エリアへの立ち入り申請を出してくるから、みんなはここで待ってて!」
真理がバッグを抱え、一人券売所がある建物に向かう。
「……しっかりした娘さんだねえ」
「ええ、真理さんは素敵な女性ですから!」
初音がエヘン、と胸を張る。桐生は思い出した。そういえばこの子は、真悟に負けないぐらいの真理信者だった。
“真理至天日向部隊 特攻隊長”
頭をよぎった不穏な二つ名を払拭しようと頭を振る。
「……桐生さん、どうしたんですか?」
初音がいたいけな瞳で聞いてくる。桐生は微妙な笑顔で何でもない、と答えながら思った。そうだ、こんな純粋な初音ちゃんに限ってそんなはずがない。
しかし桐生は知らなかった。初音の部屋に大切にしまわれている黒いジャンパーの存在と、一人だけ特別にアマテラスから授与され、肩に刻まれた称号の事を。
「お待たせしました!」
真理が合流し、四人は他の観光客に混じって遺跡の中を目指した。




