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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第6章 富士

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第6話:王と騎士

2025.8.9 夜/地下都市シャンドラ・王宮



 晩餐会は正に“贅を尽くした”の一言に尽きる。磨き上げられた銀食器には湯気をたてる見た事もない料理が所狭しと並び、グラスには輝くフレッシュダイヤとそれから作られたと思わしき酒精。レオクセスを囲むようにして円卓についた真理たちは未知の料理に目を奪われていた。


「遠慮せず、心ゆくまで堪能するが良い」


 レオクセスに促され、晩餐が始まった。レオクセスは朝の謁見で言っていたように、“太陽と月の国”について色々と知りたがった。


「なるほど。客人らの世界では天井の苔が光るのではなく、太陽に照らされた“空”というものが様変わりするのだな」


「それで、夜になると“月”が昇って参ります。“月”は常に同じではなく、15日を一つの周期としてその姿を隠し、やがてまた15日を使って元の丸い形に戻ります」


「……不思議なものだな。夜の明かりがそれだけ不安定では、不便を感じるものではないのか?」


「生まれた時からそういうもんなんで、今更気にはならないっすね」


 桐生が料理をかきこみながら無作法に答える。


「そういうものか。住む世界が変わると、捉え方も異なるものであるな」


 ひとしきり食べ終えた頃、インディーが口を開いた。


「ところで国王様、俺からも聞いてみたいことがある。いいかい?」


「良い。話せ」


「まずはこの……シャンドラについてだ。ここはどれぐらい昔からある場所なんだ?」


「シャンドラは神聖なるアイオノスが拓かれてより今に至る。人の歴史では到底及ばぬ古来からここにある」


「ここは、“太陽と月の国”の色んなとこに繋がってるのかい?」


「シャンドラへの道は“太陽と月の国”の至る所にあり、どこにも無い」


「禅問答みたいだな。じゃあ次の質問だ。シャンドラの“出口”はどこにある?」


 レオクセスの眉がピクリと上がり、カヒムの表情が少し強張った。


「それを知って何とする?」


 レオクセスが表情を変えずに問い返した。


「いや、俺はその謎を解くためにここまでやって来たんでね。こいつがどこからどうやって、はるか離れた場所にたどり着いたのかを知りたいんだ」


 インディーがポケットから“白い帽子”を取り出した。


「……シャンドラに至るものは少なく、去る者は更に少ない」


「それはもう聞き飽きた。少ないけど“いる”んだろ?その出口がどこに繋がってるのか、俺はそれを知りたいんだ!」


 カヒムが剣の柄に手を掛け、立ち上がる。レオクセスが片手でそれを制する。


「……良い。ならば教えてやろう。ついてくるが良い」


 レオクセスが気だるく立ち上がり、アーチの奥へ歩き始めた。



◇◇◇



2025.8.9 夜/地下都市シャンドラ・王宮の奥



 そこは、不思議な空間だった。


 一面黒の大理石で覆われ、天井はどこにあるのか見えない。


 緑色の炎がゆらめく祭壇と、その先に灼熱のマグマを思わせる紅い炎が渦巻く断崖が口を開けている。


「……ここから、“太陽と月の国”に行くことが出来る。シャンドラの中で、外に繋がっているのはこの場所だけだ」


「こいつは昔、そこから一緒に送られたって事か?」


 インディーが白い帽子を見せる。


「……そのような事があったかも知れぬ。宿る意思は常に本来あるべき場所を目指す……」


 レオクセスが無感情に告げる。


「シャンドラを出るためには“儀式”を必要とする。そして無事“太陽と月の国”に帰れたとしても、その者はシャンドラとそこに至るまでの記憶を全て失う。きっかけとなる出来事、人物、それら全てを」


「私たちはインディーを、インディーは私たちを忘れてしまうって事?」


「それがシャンドラへの鍵となるのであればな」


 レオクセスの言葉に真理が少なからぬ衝撃を受ける。


「それだけなのか?」


 インディーの言葉にレオクセスが答える。


「……一度シャンドラを出たものは、永久に戻ることは出来ない……」


 レオクセスが三人に向き直る。


「カヒムからも聞いたであろう。シャンドラにある限り、客人らの未来は保証される。それでも尚……という事であれば戻ってくるが良い」


 レオクセスは三人に背を向け、後ろ手に揺れる篝火を眺め続けていた。



◇◇◇



2025.8.9 夜/地下都市シャンドラ・真理たちの部屋



 王宮から戻ってきた真理たちは一様に黙り込み、壁の光苔だけが柔らかく室内を照らしている。沈黙を破ったのはインディーだった。


「……お前たち、この国をどう思う?」


 突然の質問に戸惑う真理と桐生。


「俺は、正直違和感しかない。美しい街並み、溢れんばかりの食べ物、訓練が行き届いた兵士に立派な王様。あまりにも出来すぎている」


 インディーは調度品の一つを手に取りながら呟く。


「これ一つ作るにも、とんでもない労力がかかっているはずなんだ。しかし、この街のどこにも、そんな気配がない。不自然なんだ」


 言われてみれば、今日案内された城下町には下町やスラムといった負の面が一切顔を見せていない。


「……理由は分からん。しかし、何かがおかしい。とは言え、俺の目的はこの国の闇を暴く事じゃない。あくまでこいつから始まった……この冒険の結末をどうしても自分の目で見たい」


 インディーが白い帽子をクルクルと手の上で回す。


「インディー……」


「“儀式”とやらが何の事かは分からんが、地上に戻るまでが俺の旅だ。二人が残りたい、って言うんなら止めない。このコーヒーを飲んだら、俺は出ていくよ」


「……キャンピングカーの時と逆のパターンね」


 真理が少しおかしそうにインディーを見た。


「確かに面白いとこっすけど、俺らもやるべき事は済ませたんで。ここいらが潮時でしょ」


 桐生も気にする風でもなく、飄々と答える。


「じゃ……決まりだな!」


 力強く目を合わせ、部屋を出たその時。


「……それは困りますね」


 金色の鎧が剣を構え、行く手を塞ぐ。


「あなた方には、残っていただく」


 カヒムの目が冷たくインディーを捉えていた。



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