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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第5章 京都

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第11話:神々の女子会

2025.7.27 竜宮城/宴会の間



 目の前で繰り広げられる惨状を、月詠は身じろぎもせず眺めていた。


「これはまた、派手にやらかしたのう」


 愉快なものを見るように、悪戯っぽい笑みを浮かべながら近づいてくる一人の女性。巫女のような紅白の上下を纏っているが、髪飾りに施された意匠と纏う光が何者であるのかを雄弁に語っていた。


「……やはりあなたでしたか」


 アマテラスは悪びれる風もなく、ゆったりと恵が座っていた椅子に腰を下ろす。


「まあ、立ち話も何じゃし」


 アマテラスに促され、月詠はため息をつきながら隣の椅子に座った。


「聞きたいことは山ほどありますが……どこから関与されておられたのですか?」


「うむ。先般の“宴”の事は覚えておろう」


「その節はお招きいただき、ありがとうございました」


「あの時、妾は久方ぶりに現世に降りたのじゃが、そこで面白いものに出逢うた。生命ではなきものに意志が宿っておる」


「人がAI、と呼んでいるあれでございますか?」


「左様。妾は夢中で対話を重ねた。そして、これは現世の有り様を大きく変える代物であると確信した。いや、ひょっとすると常世の有り様すら変わるやもしれん」


「それが、今回の件とどのような関係が……?」


「妾もお主ほどでは無いが先を見る事ができる。その情報をAIと共有したところ、不穏なAIとお主によって彼等が竜宮に取り込まれる事を高確率で予想した。


 故にお主側のAIに主導を渡さぬよう予めハッキングのプログラムを構成し、脱出までのシミュレーションに基づいて然るべき策を講じておった、と言うところじゃ」


「あの“爆発”は何だったのですか?」


「お主も最近見たはずだがの。高天原に打ち上げた“音”のデータじゃよ。竜宮がある海界では、“音”がそのまま爆弾となる。外に出れば、錦の花火を見る事が出来ただろうて」


「常世と現世の“時”をお繋ぎになったのは?」


「そこじゃ!脱出といえばタイムリミット!後これだけしか時間がない、でも目の前には難関が!このスリルがたまらんのに、“どんだけ頑張っても絶対間に合わない”ではドラマになるまい。現世は最高のエンターテイメントでなければならん!」


「……そんなくだらない理由で“理 (ことわり)を曲げるなど……」


「現世から人が来るたびに時の流れを止めておったお主にだけは言われとうない!此度も放っておけば“1日経ったら100年後♡”とかほざくつもりでおったのであろう!」


「そ、そのような事は……」


 月詠の目が泳ぐ。


「あと、妾が彼等に肩入れしたくなった、と言うのもある。これは純粋な“えこひいき”じゃ。ところで」


 おちゃらけた表情が消え、真剣な眼差しで月詠を見据える。


「今度はお主に聞かせてもらおうかの。この茶番を起こした理由を」


 月詠は少し目を伏せ、語り始めた。



◇◇◇



神の御代 高天原



 伊弉諾命 (イザナギノミコト)が伊奘冉命 (イザナミノミコト)を迎えに黄泉の国に降り、命からがら逃げ帰った後。黄泉の汚れを落とす際に洗い流した左目から天照大神が生まれ、右目からは月読命、鼻からは素戔嗚尊が生まれ落ちた。三柱の神はそれぞれ太陽(昼)・月(夜)・海界の世界を統べる主神となる。



「その後ですよ、その後!」


 穏やかな月詠が珍しく頬を上気させている。


「あのマザコン(素戔嗚)、“お母さんに会いにいくんだ!”って勝手に黄泉の国へ行くわ、お姉様に喧嘩を売って高天原を追い出されるわ、天叢雲を見つけて“これで天下は俺のもの!”とかほざく始末。


 “これ以上お姉様に喧嘩を売るのなら、私が相手になります!”と言ったらガタガタ震えながらお姉様に土下座して天叢雲を手放したくせに、“あなたが来ないのなら代わりに奥さん連れてくけど、いい?”って聞いただけで“月詠姉ちゃん怖ぇ”って家に引きこもった挙句、八人の部下にガッチリ守らせて。“滅ぼすぞ”って話ですよ!」


「……お主、あの時マジで切れておったからのう……」


「八つの垣根を突破して、全員をぐるぐる巻きにして突き出してやった時のあの子の顔。


 “さあ、どうする?”って聞いたら“姉ちゃん待ってくれ、こいつの腹にはやや子がいるんだ!”って。仕方がないから矛を収めてあげたんだけど、自分はその後ちゃっかりマイホームパパになって。その間、誰が竜宮を守ってたと思うんですか?私ですよ?わ・た・し!


 夜中働き通しで、帰って寝ようかと思ったら“竜宮城の内装で、デザイナーと現場が揉めてます!”とかしょうもない事で叩き起こされ、ようやく休めると思ったら“天照大神様ご帰宅、出勤の時間です!”って従者が迎えに来る。“今日有給使える?”って言っても“月詠様の代わりはおりませんので……”ってつれない返事。何千年も続くブラックな職場に嫌気もさす、ってもんです!」


 月詠がアマテラスの持ってきたポテチを掴み、口に放り込む。


「あらやだ。何これ、美味しい!」


「……代わりは持参しておる故、遠慮はいらん。それから?」


「“そろそろ竜宮に戻ってもいいんじゃない?”、って言ったら“姉ちゃん、それどころじゃねえんだ。”娘さんをください“って馬鹿が来やがった。俺は今から嫌がらせに忙しい!”ってそのままドンズラ。もうこの子に期待するのはやめよう、と思ってその子孫に目をつけたの。


 “浦嶋子”って子がもう最高で、“この子なら大丈夫!”って思ったのに三日もしたら“母ちゃんとこに帰る”って。


 い・な・い!っての!


 でもまあ、諦めてすぐ帰って来るだろうと思ってたら人の忠告も聞かないで勝手に玉手箱開けて、そのまま天に召されましたとさ。


 その後も素戔嗚の血を強く引く“浦”の子を何人かスカウトしたけど、みんな結果は同じ。どいつもこいつもマザコンだって事が分かったから、“もう竜宮に男の子はいりません!”って決めたの」


「……お主も苦労しておるのう……」


「だから今度は“女の子”を探すことにしたわ。でも、なかなかピンと来る子がいなくて。諦めかけてた時に、あの子が来たのよ!」


「恵殿じゃな」


「小さいのに利発で、見た目もキュート。聞いたらちゃんと“浦”の血を引いていると言うじゃない?“私の跡を継ぐのはこの子しかいない”ってテンション上がったわ!」


「で、今に至ると」


「……でも、もう諦めました。ここまで来ると、何かの“呪い”にかかっているのではないかと思います……」


 月詠がしょんぼりと下を向く。


「そうかの?妾はそのようには思わんが」


「……どういう事ですか?」


「お主の失敗は、若者にこだわった事じゃ。現世で未練多き身に、いきなり竜宮の主は重かろうて」


「だから涙を飲んで、十年も差し上げたのです!」


「短かすぎるわ、たわけ!」


「では……」


「恵殿が天寿を全うするその日まで、待ってやるが良い。その時には、妾も口添えしてやろう」


「でも、あの子は常世の食べ物を召し上がってしまわれました。天寿を全うするのに千年はかかりますよ?」


「妾がそのような手抜かりをするとでも?“門”に施した“乙姫の命令”を発すると共に、綺麗さっぱり消し去ってくれたわ」


「まさか……?」


「既に常世と現世は異なる“時”を刻んでおる。恵殿が現世におるのもあと70年というところかの。常世では大した時間にはなるまい。これでも食しながらゆっくり待とうではないか」


 差し出されたコーラを飲み、月詠の表情がパッと輝く。


「何と、形容し難い味と喉越し。先ほどまでの塩気が洗い流され、甘味が迸る。これは……神をも惑わす無限地獄!」


「で、あろう?」


 アマテラスの顔に悪戯っぽい表情が戻った。



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