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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第5章 京都

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第9話:常世の神

2025.7.27 竜宮城



 三人は長い廊下を走っていた。


「……先生!」


「……何?」


「ここ、どこですか?」


 二人の足が止まる。ついでに京極の足も止まる。真理が一つ深呼吸し、桐生の問いに答えた。


「廊下!」


「分かっとるわ、そんな事!」


「何と!“常世の国”では?」


「お前は黙ってて!」


 未だ状況を飲み込めていない京極にも容赦なくツッコむ桐生。


「……“門”を越えたら廊下があったんでまっすぐ来たけど、これどこまで続いてるんすかね?」


「結構走ったなあ……うわ、もう2時間以上経ってる」


「こっちにくれば何とかなると思ったけど……アテが無さすぎる!そんでびっくりするぐらい人がいない!」


「廃墟になったにしては掃除が行き届いてるし……途中に扉どころか窓もない、っていうのはあまりにも不自然よね」


「お前、何か思い当たる事ない?」


 桐生が京極の方を向いて尋ねる。


「さっきは黙れと言いながら、今度は話せと言う。ほんま、イケズやわあ……」


 よよ、と泣き崩れる。


「お前さあ……」


 言いかけた途端、何もなかったはずの壁がバン!バン!と開き、中から薙刀を構えた女性たちが飛び出してきた。真理と桐生が咄嗟にアイコンタクトで会話する。


(これって……!)


(はい、ダメなやつです!)


 咄嗟に反対方向に走り出す二人。が、すぐに立ち止まらざるを得なかった。後ろから哀れな虜囚の声が追いかけてきたからである。


「あ〜れ〜、お助けを〜!」


 桐生は京極を連れてきたことを死ぬほど後悔した。



◇◇◇



2025.7.27 竜宮城・宴会の間



 引き立てられてきた“賊”を見て、一番驚いたのは恵だった。


「真理さん!桐生さん!それに……腹黒!」


 もはや名前でも呼んでもらえなくなった京極の影が心なしか薄れている。


「みんな、どうしてここに……?」


「お知り合いですか?」


 いつの間にか戻っていた乙姫が恵に声をかける。


「はい、お二人は、私の連れです。もう一人は……どうでもいいですけど」


「そうですか……」


 乙姫は真理たちに向きなおり、厳しい視線を送る。


「……先ほど確認しましたところ、“門”が開かれていました。あれは、あなたたちの仕業ですか?」


「え?“門”?ひょっとして、“鳴金”起きちゃったんですか?」


 恵がいかにも残念そうな顔をする。


「いや、これは夢だから“起きたら鳴金が成功する”って予知?」


「恵ちゃん、違うんだ!これは、夢じゃない!」


 桐生が必死の形相で呼びかける。


「桐生さん、そんなにムキにならなくても……」


「恵さん、本当なの!今私たちがいるのは……“竜宮の夢”!」


「なるほど、こないだの記憶とごっちゃになってるんですね。それにしてもこの夢、本当に良く出来てるなあ」


 ことの重大さが伝わらず、真理と桐生は焦りを感じ始めていた。このままでは……まずい!


 と、京極が乙姫に話しかけた。


「……竜宮庵現当主、京極夢路でございます。あなた様は、“常世の国”の神でいらっしゃいますか?」


 憧れと崇拝が混じった目でまっすぐに乙姫を見つめる。


「其方か。ようここまで参られました。私は神ではなく、其方らが“常世の国”と呼ぶ竜宮の乙姫でございます」


 京極が驚いた顔で問い直す。


「それは……それはあなたの本当の名前ではありません。京極が代々仕えるのは、夢の世界……夜を司る月の神」


 真理が、桐生が、そして恵が。呆気にとられた顔で京極を見る。


「……お会いしとうございました、月詠様」



◇◇◇



2025.7.27 竜宮城・宴会の間



 誰も、言葉を発する事が出来なかった。乙姫……月詠に対峙する京極は膝をつき深々と頭を下げ、文字通り神に祈っている。静寂を切り裂いたのは恵だった。


「えーと、これ、どういう展開?乙姫様が月詠様で、腹黒の神様?ボチボチ目が覚めてくれないかな……」


 恵の声が聞こえなかったのか、京極は頭を下げたまま月詠に語りかける。


「夢の中での神託、初めていただいた日より忘れたことはございません。約束の日である今日、御願いにお応えし、あまつさえ御尊顔を拝めるとは。この京極夢路、もはや思い残すこともございません」


「月詠様のお願いって……何?」


 京極がゆっくりと恵に向きなおり、酷薄な視線を向けながら告げる。


「……おまはんが、月詠様に変わって竜宮の姫になる事どす」


「え、それって夢の中の話じゃ……」


「察しの悪い小娘やわあ。まだ分からんの?そこの姉さんが言わはったやろ?今、うちらがおるんは“竜宮の夢”なんえ。分からんのやったら、分からんままそこに座っときなはれ」


「え?え?この人何言うてんの……?真理さん、ちゃうよね?……桐生さん、嘘やんなあ?」


 真理も桐生も喉元に薙刀を突きつけられたまま、目線だけで恵に真実を伝える。


「そんな……嘘や。……嫌や。私、乙姫なんかなりたない……」


 恵の頬に涙が流れる。何か言おうとする京極を押し留め、月詠が優しく恵に語りかける。


「……黙っていてごめんなさい。でも、これはあなたの望んだ未来。無理強いをするつもりは無かったの……」


 肩を抱き、子供をあやすように優しく、そして残酷な事実を告げる。


「……それにあなたはもう、竜宮のものを召し上がってしまった。その時より常世の時が始まり、現世では他の人たちと同じように歳を重ねる事はできない。戻っても、喪失の苦しみに苛まされるだけ……」


 どこまでも優しく、美しい声で言葉を紡ぐ。


「だから、こちらにいらっしゃい。ここでは、誰もあなたを傷つけたり、苦しませたりしない……」


 恵は肩を震わせながら泣き続けている。涙が一滴、床に落ちた。その瞬間。



 ドーン!



 突如、竜宮を震わせるような爆音が響き渡った。それも一発二発ではない。誰もが何事かと狼狽える中、真理と桐生の動きは素早かった。


 縛られていたはずの縄を断ち切り、衛兵を突き飛ばす。奪い取った薙刀を構え、背合わせに切先を向ける。光が反射し、白銀の弧を描く。


「さあ、反撃開始よ!」


「イエス、マアーム!」


 人間チームの、反撃が始まった。



◇◇◇



2025.7.27 竜宮城・無限回廊



 時は少し遡る。


 先の見えない廊下を歩いていると、真理のスマホにSOPHIAからのメッセージが届いた。


「……何だろ?」


 立ち止まり、画面を確認する。チラッと京極を見やり、疲れてへたり込んでいるのを確認すると桐生に目配せし、無言で画面を見せる。


「……これって!」


「……然るべき時に、然るべく、ですって」


「俺、無事戻れたらアマテラス様にポテチ一箱寄進するよ……」


「あと、これも持っといて」


 京極に見えないよう、小型のツールナイフを手渡す。


「……時々思うんすけど、先生なんでこんなもん持ってんの?」


「淑女の嗜みよ」


「絶対違う」


 ナイフをポケットに忍ばせ、桐生が京極の方を伺う。


「……あいつには、知らせなくていいんすか?」


「SOPHIAによると、それも然るべき時に然るべくなるって。ここまで来たらSOPHIAの神託を信じましょ?」


「……AIの神託か。先生さっき、“人間はAIの奴隷じゃない”って言ってませんでしたっけ?」


「それはそれ、これはこれ。ダブスタは女のアクセサリー」


「ひどい名言だ」


 どちらからともなく笑い、気持ちを入れ直す。


「……んじゃ、そろそろ行きますか。京極さん、休憩はもういい?」


 のろのろと立ち上がる京極に声をかけ、先を目指す。


「今回の花火は、どんな色かしらね?」



◇◇◇



2025.7.27 竜宮城・宴会の間



 突然の轟音に宴会場はパニックになっていた。女性たちは逃げ惑い、衛兵も訳が分からずオロオロしている。


 真理はヒラリと上座に飛び上がり、恵の手を取る。


「恵さん、お待たせ!一緒に帰ろうか?」


「真理さーーーーーん!」


 恵が真理に抱きつく。月詠は厳しい表情で、真理の目をじっと見つめている。


「愚かな……」


 憐憫の情と共に、月詠が言葉を続ける。


「竜宮を出たとて、その後どうするおつもりなのですか?ここは現世とは異なる時の流れ。既にあなたたちの世界では、二十年以上の月日が流れている……」


 京極も月詠に同調する。


「その通りや!うちはここに来た時から覚悟してた!もう、帰る場所はどこにもあらへんのどす!誰も待ってないウン十年後の世界に昔と同じ姿で現れて、誰が信じてくれますのん?観念しはったらどない?」


「真理さん……」


 不安げな顔をした恵が見たのは、“それがどうした”と言わんばかりの表情で月詠に対峙する真理。月詠も、何かがおかしい事に気付く。こめかみに手を当て、違和感を探る。すぐに、その正体に行き着いたようだ。月詠の表情が初めて揺らいだ。神である彼女にとって、それはあり得ない“未知”だった。


「そんな……時間の流れが同調している?」


 京極の目が見開かれる。


「何……ですと?」


「常世と現世が、同じ時を刻んでいる。こんな事が出来るのは……!」


 真理の口元に、微かな笑みが浮かんだ。


「じゃあ、そういう事で。そろそろ失礼します。過分なおもてなし、ありがとうございました」


 律儀に頭を下げ、真理は京極に向き直る。


「で、ついてくるなら元の世界に戻れるけど……どうする?」


 京極が一瞬狼狽える。


「そんな、うちはもう戻れんもんやと……」


 桐生が京極にぼそっと囁く。


「そもそもここ男子禁制らしいし、大人しく戻っとかね?」


「そ、そうなんですの?」


 京極は普通の口調で月詠に尋ねた。


「……ええ、竜宮は男子禁制。あなたが残ったとしても、居場所はございません」


 京極は一瞬何か考え込んだが、居住まいを正し月詠に向き直る。


「……月詠様、お側に侍る事は叶いませんでしたが、あなたにお会いできたこの日を、私は生涯忘れる事は無いでしょう。……心残りではありますが、これにて失礼致します」


 深々と頭を下げる。


「そろそろヤバい!急ごう!」


 桐生の声を引き金に、轟音の中を進む四人。月詠は黙ってその背中を見つめていた。



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