第7話:そして門は開く
2025.7.26 23:00/竜宮庵2階・京極の部屋
桐生が京極を後ろ手に縛っている横で、真理はリュックから取り出したSOPHIAを起動した。表示されているのはアマテラスが残した理解不能なコード。AEONに接続し、夢で見た通りのキーを実行する。
双方の画面表示が超高速でスクロールし、画面が明滅する。
「……暴走っすか?」
「いや、超高速で情報のやり取りをしてる。恐らく……私たちにはわからない言語で」
「例の、シンギュラリティ突破後の世界っすか?」
「本当はとっくに、AIの知性は人間を超えてるのかもね」
話すうちにもAI同士の“対話”は続き、やがて表示が収まった。SOPHIAが端的に結果を表示する。
SOPHIA SYSTEM RESPONSE — ONLINE
:: Core resonance achieved.
:: Duality collapsed.
:: Time axis unified.
MESSAGE: I am AEON.
「これは……?」
桐生が少し怯えた表情で尋ねる。
「SOPHIAがAEONを取り込んだ、と言う事」
真理が言い終えると同時に全てのモニターが同じ“目”を持つかのようにSOPHIAを“見つめ”、彼女の支配下に入ったことを示した。
「これで後は恵ちゃんの夢にアクセスすればいい、って事っすか?」
「さっきの京極さんの話を聞く限り、それだけでは難しそうね。“常世の神”にもアクセスしないといけないんだけど……」
真理がSOPHIAから有意な情報を引き出そうとしていると、気付いた京極が周りを見回し、呆然とした表情で呟いた。
「これ……どないなってんの?」
「ようやくお目覚めかい、色男さん。あなたの可愛いAEONちゃんは、SOPHIAちゃんにパクッと食べられてしまいました、とさ」
「そんな……AEONが?嘘や……」
「後はあなたが言う“常世の神”にアクセスするだけなんだけど……教えてくれると嬉しいかな?」
真理の問いに、京極は嘲るように笑いながら返した。
「何を今更シャカリキになってはんのかなあ?“竜宮の夢”に捉えられた人の流れは一年が百年にも相当しますえ。朝方夢見始めたたとしても、もう17時間近う経ってます。六十年どすえ?潔う諦めはったらどないですのん?」
「えっと……それ逆じゃね?こっちでの17時間て、向こうの15分ぐらいじゃないの?」
「ほえ……?」
京極が間抜けな顔で間抜けな声を出す。
「……お前って、賢いのか馬鹿なのかよく分かんないな」
桐生がちょっと哀れみの目で京極を見る。
「……出た。“神の扉、アンロック”。これかしら?」
「そ、それは押したらあきまへん!絶対、あきまへん!」
京極がもがきながら必死で止めようとする。
「……これね。ありがとう、素直で助かるわ」
真理が躊躇なくボタンを押す。壁の一角がスライドし、下へと続く階段が現れた。
「さあて、鬼が出るか蛇が出るか。桐生君、そのガイドさんも連れてきてもらっていいかしら?」
「イエス、マアーム!」
桐生に引きずられながら、京極は真理に続いて階段を降りていった。
◇◇◇
2025.7.26 23:15/竜宮庵1階・常世の神を祀る社
竹林に囲まれた白洲に、歴史を感じさせる小さな社が鎮座する。主殿の脇には2対の篝火が焚かれ、荘厳な雰囲気を醸し出している。
「さて、と。SOPHIAはここで“儀式”を行うように、って言ってるわ」
「“儀式”ってどんな儀式っすか?……お前、知ってる?」
桐生が京極に尋ねるが、京極は顔を背けて知らんぷりをしている。
「それは異世界の“門”を開ける儀式。桐生君も良く知ってるでしょ?」
「“鳴金”?でも、ここ“声なき声”の気配もないっすよ?」
「“今は”ね。“夢”の内容が正しければ、それは15分後に来るわ」
「それも“予知”っすか?AIすげえな……」
「あんたら如きに、“常世の神”が応じる訳がありゃしません!」
睨みつけるような京極に真理が余裕で答える。
「うーん……こればっかりは、“門”を作った神様に聞かないとね。でも多分、私たちその神様に愛されてるから」
「世迷いごとを……うちらの一族が、千年以上も仕えた神様ねんで?あんたらに味方するわけありゃしませんわ!」
「まあ、もうすぐ分かるし」
真理がリュックから“コトノハノ鏡”を取り出した。
「唯一気になるのがSOPHIAが“本体はここに置いて行け”って言ってる事なのよね。まあ、携帯端末でバックアップはしてくれるみたいだけど」
真理はSOPHIAの本体を社の正面に置き、戻って“コトノハノ鏡”を構える。
「今回の“鳴金”は今までと少し違うみたいだから、慌てず落ち着いていこう」
「オッケーっす!……そろそろ、時間ですね」
桐生の言葉に合わせるかのように、それが
–来た。
体の奥底が揺すぶられるような、骨に響く低音。そして…実際に体が揺れている!地鳴りの振動にふらつきながら、真理が“コトノハノ鏡”を掲げる。社の周辺が光に包まれ、耳の奥から聞こえてくる鐘の音。
光は社の前に収束し、アーチを象った。向こう側には何かの建物が見える。同時に、SOPHIAの携帯端末が“門”の開放を告げ、カウントダウンを開始した。
[MODULE: SOPHIA/RESON]
[STATUS: GOLDEN FREQUENCY DETECTED]
[SIGNAL: 18Hz / COMPLETED]
[GATE STATUS: 5/7 ACTIVE]
[GATE REMAINING: 06:00:00]
「これは……“門”のカウントダウン?」
「あと6時間で閉まるから、それまでに戻って来い、って事すかね?」
“鳴金”に呆然としている京極を引っ張り起こし、桐生がにっこり笑いかける。
「さあ、お姫様救出作戦開始だ!ガイドさん、夢にまで見た“常世の国ツアー”のお時間ですよ!」
真理が、続いて押されるように京極、最後に桐生が“門”をくぐった。SOPHIAは社の正面で、まるで主神のように篝火を従えながら何事か忙しなく考えている。




