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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第5章 京都

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第6話:扉の向こう側

2025.7.26 夜/竜宮庵2階・廊下



 静まり返った廊下を進む一つの影。周りを伺いながら、慎重に歩を進める。背負ったリュックが衣擦れの音を立てるたび、ビクッと後ろを振り返る。


 真理は今、今朝見た夢と全く同じ廊下に立っていた。磨き上げられた床は黒く夜を映し、侵入者を無言で誘う。


 はやる気持ちを抑えながら廊下を進み、突き当たりを左へ。夢と同じ、重々しい木の扉。これを開けると、後には戻れない。真理は意を決してドアノブに手をかける。鍵は……かかっていない!心臓が早鐘を打つ。扉が、わずかに軋んだ。


 不意に背後から声がする。


「……おイタは、そこまでにしときましょか」


 気配も感じさせず、いつの間にか背後に立っていた人物。顔を恐怖に引き攣らせながら振り返ったその先で真理を見据える顔は……京極!


「こんな時間に、何をしてはりますんかいな?」


 いつものスローな感じは消え、能面のような顔から切長の目が威圧するように真理を見下ろしている。


「……この先に、用事がありまして」


 目を逸らせながら苦しい言い訳をする。


「この先は、関係者……うち以外は立ち入り禁止どす。分かったら、さっさと戻りなはれ」


「そ、そうなんですけどね、ほら、何ていうか……」


 真理の不審な言動に京極が何かを察したようだった。


「……ひょっとして、“夢”を見はったんかいな?」


 真理が肯定とも否定とも取れる表情で俯く。京極はふっと表情を緩め、揶揄うように続けた。


「おたくが今晩、ここに来ることは分かってましてん。で、わざわざここを目指す、いう事はもう知ってはるんやろ?」


 無言の真理を押し除け、京極がドアノブに手をかける。


「まあ、今更見せてどうという事もあらしませんし。おいでやす」


 初日にフロントで見せた笑顔をそのままに、京極が真理を部屋に招き入れる。そこは建物の外観からは想像できない、電子の要塞。無数のコードが床を這い、壁面のモニター群には波打つ光の脈動が映し出されている。


 部屋の中央には、要塞の主であるかのように鎮座する端末が一機。巨大なモニターに、複数の波形が表示されていた。


「……これをお探しでしたんやろ?夢を司るAI…“AEON (イオン)”」


 京極の言葉に応えるように、波形がドクンと鼓動を打った。



◇◇◇



2025.7.26 夜/竜宮庵2階・京極の部屋



 部屋を埋め尽くす機器が低いブーン、と言う唸り声を上げて休む事なく動いている。壁面のモニターに刻まれた201、202などの番号が無機質な個性を訴えかける。言葉を失ったままの真理に京極が得意げな顔で告げる。


「どこまで知ってはるかは知らんけど……まあ、滅多に見れるもんでもないから説明してあげるわ。AEONは“時”を司る。言うても、時間を早めたり遅らせたりするわけやおまへん。人が見る“夢”に干渉して、あたかも未来に起こる出来事を見てるかのような気分にさせる、言う方が正しいねえ」


「……それは人の夢を強制的に上書きする、と言う事?」


「そんなイケズな言い方しはらんでもよろしいやん。見たい夢を見せたげる、良心的や思いまへんか?」


「ただ夢を見せる、と言うだけなく、それが未来の現実につながると言う事は……そのAIは“人間の頭の中を覗いてる”のかしら?」


「さすがAIの専門家はん、察しが良うおますなあ。詳しいことは企業秘密やから言われへんけど、概ねその通りどす」


「……色んな意味で問題ね。こんな事が、倫理的にも許されるはずがない」


「そうは言わはりますけど、元々うちの宿はAEONを入れる前から“予知夢”で有名なんどすえ?それこそ千年単位で。AIでその精度を上げたからて、何が問題ですのん?」


「人の心を勝手に覗くな、って言ってるの。まして未来の行動をAIが決めるなんて。人間はAIの奴隷じゃない」


「せやけど、実際おたくもそのおかげでここにいてはるんやろ?」


「それはそれ、これはこれ」


 京極が少し呆れたように続ける。


「皆さん、同じですねん。地位が高かろうが低かろうが、若かろうが歳いってはろうが。みーんな、明日が不安ですねん。都合のええ夢見て、それがほんまになって、誰か損しますの?」


「テストの答えを先に教えて、それで満点取らせてあげました。僕すごいでしょ、って言ってるようにしか聞こえないわ」


「こら手厳しいなあ。一本取られましたわ。で、さっきの質問ですわ。それで誰か損してますの?」


「そうね。本来自分で掴み取るはずだった経験を知らないうちに奪われた。それは全ての人にとって平等な機会損失じゃない?」


「やっぱりおたく面白いわ。今のとこ辞めてうちに来まへん?」


「謹んでお断りするわ。それよりも、私がここに来た目的は分かっているんでしょ?」


「“竜宮の夢”からあの娘さんを連れ戻すため、どすな?」


「分かってるなら話が早いわ。AEONで恵さんの“夢”に干渉して、こちら側に戻して欲しいの」


「そら、無理な相談どすなあ」


「どうして?出来ない理由でもあるの?」


「はいな。元々全ては、あの娘を“常世”に送るため。それ以外の誰かの夢がどうのこうのとか、おまけみたいなもんどす」


「どう言う事?」


「“常世の神”……元々この宿で予知夢を見せてた神が、あの娘を希望したんどす。今月に入って、うちの夢で言わはった。近く、“御堂真理”と言う名前で泊まりにくる客がいてる。それが来たら、全てに優先して泊めるように、と。予約のもんにはおたくの名前を伝えて、もし問い合わせがあったらすぐうちに知らせるよう伝えてましてん」


「それで、すぐに予約が取れたのね」


「後は、AEONの効果が一番高い部屋に泊めたげるだけ。気づいてはる?この真下が、おたくらの部屋やって」


「……!」


「初めはおたくかな、思てましてん。せやけど、どうもそれらしい痕跡が見当たらへん。AEONの出力を上げたけど、次の日も訳のわからん夢をあの男はんが見はっただけ。それが、ようやく今朝方になってあの娘さんがそうやった、って分かりましてん」


 京極がいかにも嬉しそうに笑う。


「恵さんは……既に“常世の神”に捧げられたって事?」


「はい!捧げられましたー!今頃はもう、“常世の住人”。長い間、お待たせし続けてきた“常世の神”のご約束を、ようやく果たすことができましたー!これ以上素晴らしい事や、ありまへーん!」


 京極は両手を広げ、狂気じみた声で高笑いする。真理の視線が部屋のドアをチラッと捉える。


「……ごめん、あんま賛同できないっす」


 一瞬信じられない、という表情を見せた京極に桐生が一発お見舞いする。京極は倒れ、うーんと気を失った。


「……こんな感じで、いかがでしょう?」


 執事のように畏まる桐生に真理が満面の笑みで答えた。


「よっ、千両役者!」



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