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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第4章 高千穂

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第7話:天照大神

2025.7.11 夜明け前/宮崎工科大ロケット発射試験場



 誰かが言った。夜明けの前が、最も暗いと。

 眼下に見える街は寝静まり、時折思い出したように車のヘッドライトが移動している。


 立ち会うのは今回のプロジェクトに関わった面々。真理 (アマテラス)と桐生、高千穂の西野宮司、宮崎工科大の楠・真田両教授に初音と学生達。そして真悟。


 桐生がアマテラスに、“コトノハノ鏡”を使うべきか尋ねたところ、


「既に門は開いておる。今回出番は無いよ」


 と言われたので、純粋に発射実験を見守っている。


 最終のセッティングと調整が行われ、カウントダウンの時が近づいて来た。プログラムの責任者を担っていた学生がアマテラスを手招きする。


「今回僕たちは、あなたのおかげでここまで辿り着くことが出来ました。発射のキーを是非押していただきたいのですが、お受けいただけますか?」


「その栄誉は其方達のものであろう。妾が横取りする手合いのものではないよ」


「しかし、それでは僕たちの気が済みません。どうか、お願いします」


「……総長、こう言ってるし、いっそ一緒に押すのはどうです?」


 桐生が助け舟を出す。


「ふむ……ならばそれで良しとしよう。共に参ろうぞ」


「はい、ありがとうございます!」


「準備オッケーでーす!カウントダウン入りまーす!」


 全員に緊張が走る。


「10、9、8、7、6……」


 ロケットの内部から見えない“力”を感じる。誰かが、固唾を飲んだ。


「3、2、1……点火!」


 アマテラスと学生が同時にボタンを押す。ロケットは勢いよく、天を目指して打ち上がる。


「高度1000突破、……2000、3000……」


 順調に上昇している。


「7000……8000突破!」


 歓声が上がる。まずは、1年前の自分たちを超えた。楠もガッツポーズを取っている。既に噴射口は小さな点となり、肉眼で追うことが難しくなっていた。モニターの高度は尚も上昇を告げる。


「……9500、10000!超えました!」


 信じられない、と誰もが頭を抱えた。見えない上空で、まさに今奇跡が起こっている。


「……ここから先は、燃料の理論限界値まで行けるかどうかです。そこで“傘”を開きます!」


 “傘”とは初音が変換したデータだ。ロケットが達しうる、最も“天に近い場所”で開放される。


「間も無く最高到達点。カウント始めます!5、4、3……」


 アマテラスが天を見上げながら、そっと呟いた。


「……美シキ哉 (うつくしきかな)」


 まるで天に触れるように、右手を差し出す。


「…2、1、ゼロ!傘、開きます!」


 その声は、大気に満ちるように全員の心に響いた。



 “天晴 (あっぱれ)”



 傘が、開いた。それは天を覆う光のドームが出現したかのような、誰も見たことがない煌めきの奔流。中天から別れ出た光の筋は落下するにつれ、その姿を流星群のように太く、大きく様変わりさせる。煌めく流星のドームの中、人はただ口を開けて時を感じるだけだった。


 中天に今一度大きな光が溢れ、牡丹の花が開くように天を埋め尽くす。奇跡を祝福する鐘の音が、空間を支配した。誰も、息をする事さえ忘れてしまったかのように見入っている。光がゆっくりとその姿を消すまで、誰も動く事すらできなかった。



◇◇◇



2025.7.11 夜明け/宮崎工科大ロケット発射試験場



 気付けば、東の空がゆっくりと開け始めていた。夜空は白み、やがて紅の筋が天と海の境目に現れる。


 誰かが息をつき、つられるように次々と息を吐き出した後、誰からともなく拍手が湧き上がった。皆、涙を流している。


 桐生はアマテラスに近づき、そっと呟いた。


「……“宴”、終わっちゃいましたね」


「うむ、最高の宴であった。わざわざ出向いた甲斐もあろうかと言うものよ」


「……帰っちゃうんですか?」


「約束だからの。間も無く、この依代は元の持ち主に還る」


 真悟と初音が近くに来た。


「姉御、ありがとよ。最高にロッケンロールだったぜ!」


「アマテラス様、本当にありがとうございました!あの時聞けた“声”に届くよう、もっともっと高い場所を目指します!」


 止まらない涙を拭いながら、初音が決意を告げる。


「そうじゃの。いつかお主の“声”が、妾に届く日を待っておるよ」


 言うと初音を優しく抱きしめた。



◇◇◇



「さて、そろそろ行くかの」


 アマテラスがうーん、と伸びをする。


「また、会えますか?」


 桐生が少し寂しそうな顔で尋ねる。アマテラスは見慣れた、少し悪戯っぽい笑顔で答える。


「……妾はいつも、どこにでもおるよ。日の本におる限り、“人が歩けば妾に当たる”と言われておるぐらいじゃからの」


「何すか、その微妙なカルタみたいなの」


 笑っているが、桐生の目からも涙が止まらない。


「日の本のどんなに小さな街、村にも必ず妾はおる。会いたくば、少し目を凝らせ。いつでも、会えるのじゃ」


 アマテラスが、優しく桐生に語りかける。


「その時、一つだけお願いがあるのじゃ。妾と共に刻まれておる、他の神々にもちょっと目を向けて欲しいのじゃ」


 桐生の目を見ながら続ける。


「八百万の神、には実に小さな神も含まれておる。その土地で、その場所でだけ知られておるような小さな、小さな神じゃ。彼らはお主らの知る“歴史書”に出てくる事はない。しかし、確かにおるのじゃ」


 アマテラスの姿が、徐々に薄れていく。


「見つけたら、心の中で名前を呼んでおくれ。お主らが忘れぬ限り、神は生き続ける」


 桐生は目を逸らす事なく、アマテラスに告げた。


「約束するよ。八百万の神、そして日の本の主神、天照大神に」


 アマテラスが笑った。それは人には成し得ない、“神々しい笑み”。桐生は弾かれたように頭を垂れる。


 やがてアマテラスの気配は去り、真理はガクッと倒れ込んだ。桐生は支えながら、心の中で最後の悪態をつく。


「……やられた。最後の最後で本気見せやがった。あんなもん、人間が直視できるはずがない」


 既に朝日は高く、金色の光が奇跡の余韻を照らし出していた。



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