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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第4章 高千穂

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第6話:役者は揃った

2025.7.10 午後/宮崎工科大ロケット発射試験場



 大学のある日向市内から山中に向かうと、程なく採石場の跡地が見えてくる。巡らされる金網には


 “宮崎工科大ロケットプロジェクト発射試験場 関係者以外の立ち入りを禁ず”


 と警告板が連なっている。桐生はしばし金網に沿ってハイエースを走らせ、有刺鉄線が出迎えるゲートに到着した。守衛にパスを見せ、中へと通される。入り口からすぐにある通称“管制室”。プレハブの年季が入った建物であるが、宇宙を目指す学生からは“聖地”と呼ばれている。


 その聖地前に、まるで軍隊を思わせる一団が整然と陣取っていた。工科大のツナギは青味がかったグレーのはずであるが、何故か皆黒い上着を羽織っている。そこはかとなく嫌な予感を覚えながら、建物の正面へ。そこには腕組みをして得意げな顔のアマテラスと、直立不動で後ろ手を組んだ慎吾の姿。車を降りるなり、野太い歓声(?)が出迎えてくれた。


「「「お帰りなさい、桐生の兄貴」」」


 何だここは何の事務所だ。顔を引き攣らせる桐生にアマテラスが声をかける。


「思ったよりも早かったではないか。遠路御苦労である」


「「「御苦労様です!」」」


「え〜っと、とりあえずどこから突っ込んだらいいっすか?」


「「「不敬である!」」」


 黒い一団が一斉に桐生に向き、殺気を迸らせる。


「良い。皆の者、此奴の振る舞いは全て不問である」


「「「了解であります!」」」


 全員が一糸乱れずアマテラスに向き直る。真悟がツカツカと歩み寄り、桐生の腕を掴んでアマテラスの横に引きずって行った。アマテラスが正面を見据えて宣告する。


「これで役者は全て揃った!後は明日の本番に備えるのみ!」


 オオーッ!と歓声が上がる。桐生はこの期に及んで状況が理解できない。


「はっはっは、驚いたであろう?男子三日会わざれば刮目せよ、という言葉がある。十日もあれば羊も餓狼となる」


「変わるにも程があるでしょう……一体何やらかしたんですか?」


「桐生さん、お久しぶりです」


「初音ちゃん!良かった!君は変わらないんだね!」


「えっと……私は研究室で作業することが多かったので、変わっていないといえば変わっていないと思います」


 初音が困ったように笑いながら答える。


「初音殿、其奴に例のものを見せてやれ」


「は、はい、分かりました!桐生さん、これをご覧ください」


 初音が差し出したのはノートパソコン。動画ファイルに“真理至天 日向部隊の奇跡”と名が付けられている。チラッとアマテラスを見ると“さあ見るが良い”とばかりの顔をしている。桐生は諦めて再生スイッチを押した。タイトルロゴが浮かび上がる。


 “真理至天 日向部隊の奇跡”

 −学生たちの十日間戦争−


 画面が切り替わり、白い文字が浮かび上がる。



 “壱日目”


「全ての始まりは、清めることなのじゃ!お主らを取り巻く全てに感謝し、心を込めて磨き上げるのじゃ!」


 アマテラスの声。学生たちはめいめい掃除用具を手に取り、“聖地”の掃除を始める。


「そこ、手を抜くでない!隅々まで、キッチリと仕上げるのじゃ!」


 アマテラスの辞書に妥協という言葉は無い。それを体現するかのような厳しい檄が飛ぶ。不満げな顔をみせる学生のところには真悟がツカツカと歩み寄り、有無を言わさず道具を奪い取りキッチリ仕上げる。ニカっと笑い道具を返す真悟に、学生も毒気を抜かれる。


 古いながらも小綺麗に仕上がった“聖地”を眺める学生の表情は汗にまみれながらも清々しい。



 “弍日目”


 これまでのデータを検証しながら、テストロケットを飛ばす学生たち。予定の高度が出ず、失望の色を隠せない。アマテラスの檄が飛ぶ。


「これが現在位置じゃ。そしてここから何を成すか、戦いは今より始まるのじゃ!面を上げよ!悩んでいる暇などない!」


 学生たちは気持ちを切り替え、喧々諤諤意見を戦わせる。試作提案は多岐に及び、設計チームと制作チームが競うように作業を進める。


 真悟は縁の下の力持ちとばかりに走り回り、嫌な顔一つ見せず黙々と雑用をこなす。柱の影からそっと見つめる初音。



 “参日目”


 設計チームと制作チームの間に亀裂が入る。


「何でこんだけの事が出来ねえんだ!」


「だったらお前が作ってみろよ!」


「上等だ、やってやるよ!」


「はっ、出来もしねえのに偉そうに」


 胸ぐらを掴み合い、一触即発の空気。周りの学生たちが止めに入るが、お互い一歩も譲らない。アマテラスの妙にワクワクしたナレーションが入る。


「互いの意見がぶつかり、それはやがて本当の戦いに発展してしまう。一体、どうなってしまうのか?」


 ナレーションの後、場面は再び巻き戻り、先ほどの口論シーンへ。


 桐生は繰り返される煽りシーンとナレーションに既視感を覚えていた。



 “肆日目”


 何事も無かったかのように和やかな学生たち。昨日取っ組み合いをしかけた二人の学生はそれぞれ頭に包帯と、頬にガーゼを貼っている。照れくさそうに握手する二人。アマテラスの声が重なる。


「どんな葛藤があったのか、それは彼らにしか分からない。しかし、雨が降って地が固まるように、彼らの絆は一層強くなったのだ」


 ……何だこの三文芝居。俺は一体、何を見せられているんだ。



 “伍日目”


 黒板を埋め尽くす数式の前で一人の学生が頭を抱えている。何度やってもシミュレーションの結果は“Error”としか表示されない。数人の学生がああでもないこうでもないと頭を捻るが、一向に解決の手がかりはない。アマテラスの声が入る。


「木の葉ではない、森を見よ。数式ではなく、飛翔する未来を見よ。自ずと答えは明らかになる」


「やってるんですよ!でも、何度やっても結果が変わらない!僕には無理だったんだ!」


 錯乱する学生。画面にアマテラスの手が出現し、黒板の数式に一文を書き足す。


「……妾がしてやれるのはここまでじゃ。諦めるな。自分で掴み取る答えにこそ、魂は宿る」


 半信半疑で再計算を行う学生。見る見る目の色が、表情が変わっていく。


「そうか、ここをこうすれば……行ける、行けるぞ!」


 興奮収まらぬ学生たち。新たな計算を基に起こされた図面が、次々と現場に運ばれる。現場では驚きの声と共に、図面を立体に起こすべく奮起する学生たち。



 “陸日目”


 初音がテスト版の音声変換データを携えてやって来た。元の音源を確認するアマテラス。


「……どうでしょうか?神様に相応しく、クラシックの名作をまとめてみました」


 アマテラスの声が答える。


「なっとらん。こんなもので歌い踊れるか!このまま安らかに天に召されてしまうわ!神なのに!ええい、妾自らリストアップしてくれる!そこで待っておれ!」


 涙を一杯に浮かべる初音。アマテラスの指がスマホの曲名を伝い、JPOPで構成された楽曲リストが瞬く間に生成される。


「これをデータに変換するのじゃ!一曲漏らさず!」


 リストにはゆうに100を超える曲名が並んでいた。


「これを、全部……ですか?」


「四日やる。桐生殿が帰ってくるまでに、何としても仕上げるのじゃ!」


 折れそうになった初音だが、寸前で踏みとどまりキッとアマテラスを見返す。


「……分かりました。必ず、仕上げて見せます!」


「その意気じゃ。お主なら出来る!自分を信じるのじゃ!」


 送信されたデータリストを胸に、初音は走り出した。



 “柒日目”


 試験機のテスト飛行。前回を上回る高度に到達したが、燃料が尽きる前に空中で分解してしまう。悔しさに拳を叩きつける学生たち。


「よし、もっかい作んぞ」


 真悟は真っ直ぐに立ち、揺るぎのない表情で淡々と告げる。


「……また1からやり直し、か」


「そうだ。1からだ。だけど同じ1じゃねえ。テメエらが魂込めて作った機体がドーンと支えてくれる、土台の上に成り立つ最強の1だ。散ったアイツを徒花にしねえためにも、俺たちに立ち止まってる時間はねえ!」


「「「親分!」」」


 全員の声が揃う。


「な、親分て、テメエら……ふっ、仕方がねえ。受けてやる。いいか、よく聞け!テメエらを率いているのは恐れ多くも天照大神の化身、そして現代に蘇った女神!あのお方の言葉は神託に等しい!疑うな、信じ抜け!その時テメエらは、晴れて“真理至天・日向部隊となる!」


 おお〜っ、と一際高い歓声が上がる。アマテラスのナレーションが入る。


「かくして、伝説の“真理至天・日向部隊”が生まれた。彼らが奇跡を起こすまで、あと四日」



 “捌日目”


 一日が終わり、焚き火を囲んで輪になる学生たち。真悟がぐるりと見回しながら、ポツポツと切り出した。


「テメエら、よく諦めずにここまで食らいついてるよ。俺ぁ、もっと早くに折れたり逃げ出したり、って事があってもおかしくねえと思ってた」


 パチパチ、と焚き火が音を立てる。


「テメエらは俺より歳も上で、頭もいい。宇宙に行くんだって、凄え夢も持ってる。そんなテメエらが、力を貸してくれた事、本当に感謝する」


 真悟が地につかんばかりの勢いで頭を下げる。


「親分、やめてくれ!俺たちは誰一人、あんたの事を下だなんて思ってない!俺たちが挫けそうな時、必ず背を押してくれたのはあんただった!」


「俺も、正直逃げようかと思った時があったけど、親分はちゃんと話を聞いてくれた。そんで、行くも戻るもテメエで決めろ、って言ってくれた。“行く”って決めた時、“そうか、俺ぁ嬉しいなあ”って笑ってくれたから、俺は今ここにいるんだ!」


 そうだそうだ、と声が上がる。真悟は言葉を噛み締めているようだ。


「……ありがとうよ、テメエら。やっぱ、最高だぜ。姉御、俺ぁもういいと思うぜ」


 アマテラスの声が入る。


「うむ、“時”が来たようじゃ。お主から授けてやるが良い」


「おう。テメエらは今、紛れもなく女神の寵愛を受けた。今から、その証をくれてやる。一人ずつ、俺の前に来い!」


 何やら段ボールを取り出してきた真悟が学生たちに告げる。一人目が、真悟の前に進み出た。


「これが、“証”だ!心して受け取れ!」


 取り出したのは漆黒のジャンパー。背中には白い文字で“真理至天・日向部隊”の文字。


 学生が、感激した顔で受け取る。一人、また一人と真悟から受け取り、宝物のように手にとって眺めている。


「全員行き渡ったな。よし、じゃあ気合い入れて背負え。テメエらは日向最強で、最高のメンツだ!」


 一斉にジャンパーを羽織る。漆黒の部隊が名実ともに誕生した。



 玖日目


 実機を使っての最終テスト。前回の高度を遥かに上回り、燃料の限界まで飛行を続けた。歓声が上がる。しかし、データ計算を行っている学生の表情が芳しくない。


「どうした、浮かない顔だな」


 真悟が話しかける。


「親分、確かに今算出される条件下では最大の結果と言っても良いんです」


「じゃあ、万々歳じゃねえのか?」


「機体の強度から考えると、さらに高高度まで狙うことが出来るはずなんです」


「何が問題なんだ?」


「燃料です。手持ちの燃料が出せる性能限界がここ、になっているので、今更どうしようもない部分ではあるのですが……」


「なまじ結果が出たもんで、欲が出ちまったか」


「具体的に何かができる、という訳でもないので歯がゆいところですが……」


「その燃料ってのは、そこら辺で買えるもんじゃねえんだろ?」


「そうですね。NASAとは言わないまでも、JAXAが使用しているレベルの燃料であれば……」


「そりゃ流石に無理だな。まあ、今あるやつでどこまで行けるかもがいてみようぜ」


 アマテラスのナレーションが入る。


「遂に自分たちの限界を乗り越えた男たち。しかし、更なる高みが目の前に見えている。彼らは果たして、この壁を乗り越える奇跡を手にすることが出来るのか?」



 “拾日目”


 夜明けとともに、彼女はやって来た。


 目の下には隈が出来、肌のツヤも失われている。初音はアマテラスにフラフラと立ち寄り、PCのデータファイルを見せる。


「……やり遂げましたよ。全156曲。完璧に、変換しました」


 画面の向こうでカメラを見つめる初音。アマテラスがファイルを確認し、満足げな声を漏らす。


「これじゃ。これこそ妾が求めておったものじゃ!」


 初音は安心したように笑い、そのまま意識を失った。アマテラスの声が響く。


「誰か、誰かおらぬか!初音殿を、寝所へ!」


 画面が揺れ、一旦ブラックアウトする。


 映像が再開し、最後の調整を行う学生達。シミュレーション組も連動実験を行いながら詰めを行っている。


 と、どこからか轟音が近づいてきた。バラバラバラ、という音は次第に近づき、山の影から1機のヘリコプターが現れる。唖然とする学生を横目に、ヘリは敷地内に着陸した。機体に輝くのは星条旗。アマテラスがカメラを持ったまま近づく。


「あなた、マリさんですか?」


 司令官と思わしき男が流暢な日本語で話しかける。


「うむ、妾じゃ!」


「大統領から、言伝です。日本の未来と、若者の夢に奇跡あれ!」


 屈強な米兵が何かの荷物を下ろし、ヘリは来たときと同じぐらい唐突に去っていった。


「姉御、今のは……?」


「救う神、現る、じゃな」


 荷物は木箱だった。そこには送り主の名がくっきりと刻まれていた。


 “NASA”


 アマテラスのナレーションが締めくくる。


「全ては、出揃った。後は神に祈ろう。若者達に、最高の奇跡が訪れる事を」



◇◇◇



 映像が終わった。桐生はしばし言葉を忘れ、やがて全員の目が自分を見ている事に気づいた。


「どうじゃ、妾監修の会心作は?」


 悪戯っぽい表情でアマテラスが聞いてくる。


「何と言うか、率直に言うと感動しました。みんな、本当に頑張ったんだな」


 誇らしげな表情が夕日に浮かぶ。桐生にも、アマテラスにも、学生達にも。


「そして最後の最後で、やりやがりましたね。まさか本当に神通力使うとは……」


「何の事かの?親切な誰かが、我らの頑張りをどこかで見ておったのかも知れぬぞ」


「では、そう言う事にしておきましょう。では総長、最後に一言お願いします」


「うむ。皆、聞けい!」


 全員がアマテラスに向き直る。


「人事は尽くした。後は天命を待つのみ。決戦は明日、最高の花火を打ち上げるぞ!」


 全員が合唱した。桐生も、拳を振り上げて吠えた。


 日が沈み、山々は翌日に待つ奇跡を待ち侘びるように稜線を夜空に映していた。



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