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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第3章 出雲

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第10話:第3章終幕

2025.6.11 夜/八重垣神社・鏡の池



 6月の雨は止む気配もなく、しとしとと降り続けている。どうやら本格的に梅雨入りをしたようだ。


「鏡の池」に至る門は固く閉ざされている。防犯のため、普段から夜間は閉じられている。が、今日はその奥にある小さな池の辺りに傘をさした一団が陣取っていた。


「……“天叢雲剣”ってのは」


 鐘巻が続ける。


「八岐大蛇の頭上に、いつも雲がかかってた事が由来らしい。こいつが出てきてから、晴れた試しがねえ」


 布に包まれた“天叢雲剣”に視線を送る。


「また、銅の中に隠したら晴れますかね?」


 桐生の問いに鐘巻がいやいや、と首を振る。


「あくまで俗説だ。たまたま梅雨にぶつかっただけだろ」


「自分で振っといて、夢のない答えっすね。それにしても止む気配がない……先生、これ大丈夫なんすか?」


 不安そうに尋ねる。


「“門”の発現条件として“満月か新月の時”、っていうのは間違ってないはず。で、重要なのは物理的な“見える・見えない”じゃないと思うのよね。まあダメだったら、その時考えましょ」


「りょ。こっちオッケーです」


 準備を終えた桐生が真理に告げる。


「こちらも準備OK。真悟君は、行けそう?」


「おう、いつでも“捧げる”ぜ!」


 残りの七本が包まれた布を前に、真悟が勢いよく返す。


 少し離れたところで見守るのは鷹村。前回の経緯を話したところ、


「そうでしたか。不思議な事もあるものですね」


 と一切動じず、今日も快く同行してくれている。


「じゃあ、始めるわよ!」


 真理の声に、全員の緊張が走った。


 SOPHIAが起動し、画面のステータスは前回と変わらぬ結果を示した。真理は鐘巻と真悟の方を向き、一つ頷く。

 二人は手早く包みを開け、池の淵の石畳に八本の剣を並べる。柄を池の方に向け、神に捧げるように。空気の密度が変わった。



 –来た。



 前回より重く、深い振動。幾重にも重なる波は力強く、振動が可視化されたように感じられる。間違いない。本物の“声なき声”。手が離せない真理に変わり、桐生が“コトノハノ鏡”を掲げる。鏡と剣が共鳴し、剣が光を放つ。


 突如、一本の剣が弾かれたように浮かび上がり、光の粒となって飛び去った。

 また一本。

 また一本。

 光は次々と夜空に消え、最後に“天叢雲剣”がこれまでにない輝きを放つ。やがて剣は光の粒となり、目の前の池に吸い込まれた。


 水面は金色に輝き、蓮の花が咲くような波紋が八つ、互いに抱き合うように花開く。体の奥が震え、一瞬遅れて鐘のような響きが聴覚と空間を支配した。


「……すげえ……」


 真悟が呟く。重なる波紋の上に、光る人影のようなものが現れた。大和の民とは違う、見た事もない古代の装束を纏っている。影は、真悟に語りかけた。


 “ありがとう、断ち切る者よ。我らの宿願は今、果たされた”


「あんたは……スサノオとその家族を守る、八人のうちの一人なのか?」


 “我らは守る者”


「あんたらは、神様なのか?」


 “我らは天上に戻る。しかし、まだ神の座には至らず”


「どういう事だ?」


 “長い年月の間に、誰の記憶からも我々の名は失われてしまった。その名が蘇る時、我らも神の座に戻る”


「……あんたらの名前を教えてくれ。俺が、蘇らせてやる!」


 “断ち切るものよ、それは我らが名乗るものではない。人間が、我らに触れた時自然と生まれ出るものなのだ”


「……そうか。野暮な事聞いちまった。すまねえ。だが、俺は約束する!絶対あんたらを“神の座”に戻してみせる!」


 真悟には、影が最後に少し微笑んだように見えた。光は徐々に弱くなり、やがて水面に溶け込むように消えていった。


 いつの間にか雨は上がり、雲間から覗く満月が池に佇む人影をじっと眺めている。水面は、少し遅れてその影を映し出していた。



◇◇◇



2025.6.11 夜/鐘巻家・リビング



 テーブルを挟んで向かい合う真理・桐生と鐘巻親子。真理と桐生はデータログを解析し、鐘巻は一人祝杯を上げている。


 押し黙っていた真悟が、何かを決意したように真理に話しかけた。


「先生、よう!」


「うん?」


「俺、あんたに謝らなきゃなんねえ」


「こないだのこと?あれならもう謝ってもらったから、いいわよ」


「そうじゃねえ!俺は、全部をあんたのせいにして、ずっと逃げ続けてたんだ!本当に申し訳ねえ!」


 真悟の額が“ガン!”と机を打つ。


「自分で気付いたんなら、立派じゃない?私は気にしてないし」


「ありがてえ!恩にきるぜ!」


「大げさねえ……でも、気持ちは受け取っておくわ。ありがとう」


「それと……もう一つ、伝えてえ事がある」


「何かしら?」


「あんたは、親父と俺の夢を叶えてくれた!そんで、俺がやるべき事もハッキリした。つまり……やっぱりあんたは、俺にとっての女神だった!」


「……女神様とは光栄ね。だけど、私は普通の人間。崇拝されるようなものじゃないわ」


「それに、俺をのした時のあの体捌き……只者じゃねえ!」


「いや、あの時はほら、無我夢中って言うか……」


「だからこう呼ばせてくれ、“姐御あねご”!」


「それは嫌ーーーーーっ!」


 真理の悲鳴を無視し、真悟は騎士のように跪いて続ける。


「俺は、姐御に忠誠を捧げる!これは、俺なりのケジメだ!」


「……おいおい、側から聞いてると愛の告白みてえだぞ?」


 茶化す鐘巻。桐生が一瞬顔をしかめる。


「そんなんじゃねえよ、俺はただ……」


「真悟君」


 真理が真顔で尋ねる。


「お、おう」


「一つ、聞かせて欲しいの。あなたの言葉に嘘はない?それは、あなたの本心?」


「当たり前じゃねえか!素戔嗚に誓って、嘘は言わねえ!」


「そう…信じていいのね」


「もちろんだ!」


 真理が目を瞑り、想いを巡らせる。


「……あなたの言葉が、頭から離れない……」


「えっ?」


 これには真悟だけでなく、鐘巻も真悟も驚いた顔を見せる。


「初めてだった。あんなに情熱的に、言葉にされたのは……」


 心なしか頬は紅潮しているようだ。


「いや、姐御、そんな大したことじゃ……」


 つられてか真悟も少し顔を赤くしている。真理は夢見るような表情で進める。


「……もう一度言って欲しい、というのは私の我儘かしら?」


「そんな事はねえ!俺は、望むなら何度でも言ってやる!」


「……ありがとう、嬉しいわ。じゃ、お願いしてもいい?」


 少し潤んだ瞳が真悟を正面から捉える。


「おう!」


 真理が少し恥ずかしげな様子で目を伏せながら呟いた。


「……あなたが言ってくれた言葉……“自分で言うなこのタコ!”」


「……え?」


 真悟の目が点になる。間をおかず顔色は真っ青になり、脂汗が滝のように流れる。


「その後の言葉、痺れたわ。……ねえ、もう一度言ってくれない?」


 伏せられた状態から見上げるその目は、獲物を捉えた“捕食者”。真悟はガタガタ震えながら父親と桐生を見る。が、二人とも石のように固まったまま足元のカーペットの一点を見つめている。


「嘘じゃない、本心なのよね?何を恥ずかしがってるの?」


「いや、その……すいませんでした……」


「いいのよー、全っ然、気にしてないから!」


 明らかに気にしている怒気を纏い、トドメを刺す。


「一生忘れないけど」



 桐生は熊野での会話を思い出していた。


「……若いって、眩しいわね」


「先生も、全然若いっすよ」


 もしあの時、ふざけて「まあ、いい歳っすからね」などと口にしていようものなら……その世界線の桐生が、目の前で今にも消え入りそうに追い詰められている。今後絶対、女性に歳の話はしない。特に先生には。桐生は固く心に誓った。



「もう、その辺で許してやってくんない?」


 見かねた鐘巻が助け舟を出す。


「ふふ、冗談ですよ。あまりに持ち上げられすぎると、現実を見た時に幻滅されちゃうと思ったので。もう少し肩の力を抜いてくれると嬉しいわ」


 真理に後光を見てしまったかのような真悟。ちょっと泣いている。


 と、真理はスクリーンに集中した。SOPHIAからのメッセージだ。


「……桐生君、来たわよ」


 桐生も緊張した面持ちでメッセージを読む。


 [MODULE: RESON]

 [STATUS: GOLDEN FREQUENCY DETECTED]

 [SIGNAL: 18Hz: 8/8 COMPLETED]

 [GATE STATUS: 3/7 ACTIVE]


 メッセージは続く。


 [MODULE: GATE-LINK]

 [LOCATION: TAKACHIHO]

 [GATE STATUS: 4/7 INITIALIZING]

 [32.737226: 131.352898]


「出ました。次の場所は……宮崎県高千穂、“天岩戸”です!」

「素戔嗚尊の次は、天照大神って事ね」

 真理の視線の先、SOPHIAが続けてもう一つのメッセージを弱々しく表示する。


 [MESSAGE: Evil gods must be evil itself]


「邪神は悪であらねばならない……一体どういう事?」


 黒き雲が再び月を覆い、屋根を打つ雨音が思考の外で勢いよく弾けた。見えはしない。しかし、ハッキリとその存在を主張するかのように。



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