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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第3章 出雲

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第7話:贋作

2025.6.8 夜/鐘巻家・空き地



 風は雲を流し、月はその影に隠れ、また現れる。いつしか蛙の声は止み、木々の擦れる音だけが夜を支配している。


 真理の“特別授業”を受けた真悟は「親分、親分!」という翔平らの介抱の甲斐あって、何とか気を取り戻した。


「……痛ってえ……」


 赤黒く染まった鳩尾を押さえながら、何とか立ち上がる。


「親分、大丈夫?」


「お腹痛い?」


「背中さすろうか?」


「ガム食べる?」


 子分たちのお節介を払いのけ、短く告げる。


「……今日はもう、解散だ」


 子分たちは顔を見合わせ、それぞれのバイクにまたがる。


「それじゃ親分、おやすみなさーい!」


「お邪魔しましたー!」


「また明日―!」


「ロッケンロール!」


 一台、また一台と門を抜け、真理と桐生、鐘巻家の親子が残された。


「ま、立ち話も何だし、入るか?」


 鐘巻が玄関のドアを開ける。真悟は肩にスカジャンを引っ掛け、俯いたままズカズカと入る。真理と桐生も鐘巻に促され、再びリビングに入る。


 ソファには不貞腐れた様子の真悟が座っていた。鐘巻は真理と桐生を座らせ、自分も真悟の横に腰掛けて真悟に問いかける。


「で、何か言うことあんじゃないの?」


「……」


「テメエで喧嘩ふっかけといて、負けてダンマリは無いよなあ……」


 真悟の頭を掴み、自分の方を向かせる。


「ケジメ、つけろや」


 鐘巻から目を背けたまま、真悟がゆっくりと真理の方に向き直る。


「……悪かった……」


「あ?聞こえねえよ!」


「……だから、悪かったよ!因縁つけて、俺が悪かった!」


 勢いよく下げられた頭がガン、とテーブルを打つ。


「御堂さんも、これでいいかい?」


「え、私は、どっちかというと加害者というか……コホン、ええと、真悟君?私、今でも分かってないんだけど君に何かした?」


 真悟がテーブルに頭をつけたまま、グッと拳を握りしめる。


「……たじゃ、ねえか」


「?」


「俺の宝物を、贋作呼ばわりしやがったじゃねえか!」


「宝物?君の?ごめん、本当に何のことか分かんない」


「知らねえとは言わせねえぞ!」


 立ち上がった真悟は勢いよく階段を駆け上がり、ドタドタという音が家の中に響く。何かをゴソゴソ探す音がして、戻って来たその手に握られているのは一振りの剣。目の前に差し出された銅剣には、何となく見覚えがある。


「……これは!」


 真理と桐生が同時に気付いた。


「「“草薙剣”!」」


 鐘巻は「あちゃ〜……」と言った顔で頭を抱えた。剣の柄にはひっそりと、だがくっきりとその“しるし”が刻まれている。


 “Made in TAIWAN”



◇◇◇



2023.7.12(2年前) 午前/研究所



 昨日までの雨が嘘のように晴れ上がり、夏を感じさせる光がガラス越しに差し込む。間も無く梅雨も終わりを告げようとしている。


 コーヒーの香りが漂う研究室には、まだ残る緊張を隠しきれないインターン三日目の桐生がぎこちなく真理の説明に耳を傾けていた。


「じゃあ今日は、ご依頼を受けたものを実際に解析していくわね」


 積み上げられた包みの中から、大きめの一つを手に取る。野球のバットぐらいのサイズに、ずっしりとした手応え。

 真理が丁寧に開封し、緩衝材に包まれた依頼物の姿が露わになる。古代を感じさせる大ぶりな青銅の剣。添えられていた手紙を開く。


 “御堂さん、初めまして。これは僕がとても大切にしている剣です。どこで手に入れたのかは言えませんが、きっと凄いものです。ひょっとすると本物の草薙剣では無いかと思います。いろいろ悩んだのですが、御堂さんならきちんと調べていただけるのでは無いかと思い切って送らせていただきました。どうかよろしくお願いします”


「差出人は、島根の鐘巻真悟さん。文面の感じから、中学生ぐらいかしら?」


「中学生ですか?鑑定料だって安くは無いのに」


「時々あるのよ。蔵に眠っていた“家宝”がどれぐらい値打ちのあるものなのか、知りたい衝動に駆られて行動しちゃう、みたいな」


「この剣もその類なんでしょうか?」


 桐生が恐る恐る剣に手を伸ばす。


「思いはかなり強いみたいだけどね。そしたら、まずは外観のチェックから。昨日までの内容を思い出して、桐生君なりに分析してみて」


「はい!」


 やや強張った面持ちで、桐生が青銅の剣を手に取る。


「……外観は弥生時代の発掘品を思わせる造形ですが、それにしても成形が甘い気がします。サイズは同じ時代のそれらと比べて一回り大きくて、持ち手も手に余る感じがします。材質の青銅は風化している……ように見えますが、追加工のわざとらしさが拭えません。柄のところに小さな傷が……って、え?マジで?」


「何か見つかった?」


「先生、これ、このままの意味に捉えていいんでしょうか?」


 差し出された剣の柄に目をやる。小さな傷か、装飾の一部にも見えるそれは、古代日本の文字とは違う書体で自分の存在を主張していた。


「“Made in TAIWAN”……ものすごく善意解釈をすると、後年に誰かが悪戯で刻印した、という可能性もなくは無いけど……」


 受け取った剣を眺める。


「……外観からの評価は、さっき桐生君が言ってくれた事と私のそれに正直大きな差はないわ。強いていうなら、大きさに対して少し軽く感じるぐらい」


「……どうするんですか?」


「いただいたご依頼だから、すべきはきちんとする。桐生君の勉強にもなるし、始めましょうか。まずは素材の年代を測定して、終わったらSOPHIAに見てもらおう……うっ、それはそうだけど……」


 真理が嫌そうに顔を顰める。


「どうしたんですか?」


 真理がははは、と渇いた笑いをしながら右耳につけたイヤホンを指さす。


「SOPHIAからちょっとお小言。“こんな贋作を解析する暇があるなら、自分の睡眠ログを解析しろ”って。まあ、いつものことだし気にせず続けるわよ!」



◇◇◇



2025.6.8 夜/鐘巻家・リビング



「……ありましたねえ……」


「……あったわねえ……」


 真理と桐生が、揃って遠い目でリビングの天井を眺めながら呟く。


「ようやく思い出したか、この野郎!」


「……そっか、君だったんだ」


 真悟がもう一方の手に握られていた紙の束を見せつける。


「これにも、見覚えあんだろ!」


 “ご依頼の件につき、鑑定と解析の結果をお知らせします。

 ・製作年代は令和初期。今から3年以内と推定

 ・材質は青銅。不純物の混入が見られる

 ・加工は流し込み成形。モナカ形状のパーティングラインに研磨機による作業痕あり

 ・サイズと重量のバランスから、芯材として鋼に類するものが使用されている可能性大

 ・意匠に象徴的または宗教的な意味は無く純粋な装飾

 ・刻印は後付けのため明瞭な線が見られる

 上記により、この剣は古代の出土品ではなく、近年作られたレプリカである可能性が極めて高いと判断されます“


「何だ、この身も蓋もねえ結果は!ふざけんじゃねえぞ!」


「……私としては真剣に向き合った結果を正確に伝えたつもりなんだけど」


「いいや、テメエは間違ってる!」


「……もういい、真悟。そこらへんにしとけ」


「親父!」


「……やっぱりお前が持ち出してたんだな。何となくそんな気はしてたけど……」


「どういう事っすか?」


 桐生が尋ねる。


「2年前、か。俺の部屋からこれが無くなったの。こいつに聞いても知らねえ、の一点張りだし。ま、害があるもんじゃないからいいか、ってほっといたんだけど、まさか御堂さんに依頼してたとはねえ……」


 鑑定結果を呆れたように見ている。


「親父からも言ってやれよ、デタラメな事言うなって!」


 鐘巻の目が真理のレポートを走り、少し違う色が目の中に浮かぶ。


「……いや、デタラメどころか完璧な結果だよ、これ」


「あんだと……?」


「鐘巻さん」


 真理が思い詰めた表情で語りかける。


「何?」


「……あなたですよね、これを作ったの」


 鐘巻の表情は変わらない。桐生と真悟は「え?」といった顔で二人を眺めている。鐘巻は観念したように頭をかき、真理の問いに答えた。


「……ご名答」



◇◇◇



 沈黙のリビング。時計の秒針が刻む規則的な音だけが耳に響く。


「テメエが作った?これを?何のために?おかしいじゃねえか!」


 真悟が鐘巻に掴みかかる。


「これは……特別なもんだ!そのはずだ!」


「……お前がそう思うの勝手だけどさ、違うって言ってんじゃん?てか、もう分かってんだろ?いつまで御堂さんのせいにしてんの?」


「違う、違う……」


 真悟の手が弱々しく下がっていく。


「もういいよ、真悟。俺のためだったんだろ?」


 真悟がハッとした顔で鐘巻を見る。真っ直ぐ、正面から受け止める視線。酷い隈に覆われているが、眼差しは優しかった。


「親父……」


「良かったら、話してくれない?これまでの事」


 真理の問いかけに真悟は力なくソファに崩れ込み、ポツリと話し始めた。


「あの時の、あれさえなければ……」



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