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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第3章 出雲

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第5話:推理

2025.6.8 夜/松江市の山中



 街灯が頼りなく照らす田舎道。どこからか響いてくる蛙の声。ハイエースの中は重苦しい雰囲気に支配されていた。流れる街灯を見ながら、真理がポツリと話しかける。


「……出雲の発掘員で、苗字が鐘巻さん……考えたくないなあ……」


「あの自由研究を読んじゃってるから、ダメージでかいっすよね……」


 鐘巻少年の最後の一文が心に重い。


 “なので、僕はこれから一生懸命勉強して、お父さんのような発掘家になり、いつか本物の剣を見つけたいと思います”


「……いや、子供に罪はないんだけどね……」


「真面目な感じの子だから、ショックで引きこもってたりするかも……でも、どうしてその鐘巻さんちに行く流れなんっすか?偽物の銅剣を見ても仕方ないっしょ?」


「……どうしても一つ、確かめたいことがあるの。それが思ってるのと違ってたら……笑って誤魔化すわ」


「滝の時の恵ちゃんみたいにならないでくださいよ」


「あれは、私も反省してる」



◇◇◇



「……着きました」


 ハイエースを降り、門の中へ。広い空き地のような敷地には農機具を入れるためだろうか、大きなトタンの小屋があり、母屋に隣接している。家の電気は点いているようだ。呼び鈴を押す。返事がない。もう一度押す。奥からドン、ドンと調子外れの音が近づいてきて、玄関の扉が開く。


「……はい、どちらさん?」


 出てきた男は薄汚れた白いタンクトップに、古びた作業ズボン姿。髪とヒゲは伸び放題で、目の下には深い隈が刻まれている。


「こんばんは。夜分恐れ入ります。鐘巻、一路さんでいらっしゃいますか?」


「……誰?新聞?保険?どっちもいらねえ……」


 ドアを閉めようとする鐘巻を慌てて制する。プン、と酒の匂いがした。


「すいません、新聞でも保険でもなくて私こういうものです」


 真理が名刺を鐘巻の手に捩じ込む。


「……“先端AI開発研究所”……何してる人?」


「AIを使って、歴史的な遺物や象徴の研究をしています」


「……はあ、そんで、何の用?」


 真理が一つ、深呼吸して続ける。


「今日お伺いしたのは、3年前に出土した八本の剣についてです」


 鐘巻の顔色が明らかに変わる。


「……あなたの贋作、見せてください、ってか?ふざけんな!」


 力づくでドアを閉めようとする鐘巻。真理も負けていない。


「違います!どうしてもあなたに確認したいことがあって!」


「そっちにあってもこっちには無え!」


「いいえ、あります!今から言うことを聞いて、それでもあなたの考えが変わらなければ諦めます!」


「何を言っても一緒だ!しつこいぞ!」


「私が知りたいのは……」


 真理は息を飲み、言葉を放った。


「出土した八本の剣……正確には七本の銅剣と、一本の鉄剣についてです!」


「あんた、どうしてそれを……!」


 鐘巻の力が緩まる。真理は乱れた息を整えるように背筋を伸ばし、目に力を込めて伝えた。


「お話を、聞かせていただけますか?」


 月が、流れるように雲を纏った。



◇◇◇



2025.6.8 夜/鐘巻家・リビング



 雲が解け、月が姿を現す。蛙の鳴き声はやや遠く、空には届きそうもない。


 散らかったリビングでは、真理と桐生に向き合うように鐘巻が片膝を立てて座っている。テーブルの上には先程まで飲んでいたであろう、アルコール度の強い酎ハイの缶が転がっている。


 睨むように視線を合わせながら、鐘巻が探るように尋ねた。


「……で、さっきの話だけど、何でそう思ったのか教えてもらえる?」


「パズルを当てはめると、必然的にそうなったんです」


「……良く分かんねえな」


「高杉館長の態度と言葉、小谷さんの証言から考えられる可能性は二つ。


 一つ、あなたが贋作を持ち込み、発掘を捏造した。


 二つ、あなたは発見した剣を“何らかの理由で”隠さなければならなかった。


 もし一つ目が正しいのであれば、話はここで終わりです。笑って誤魔化すので、お互い何も無かったことにして今夜のことは忘れましょう。」


「……何か、酔った勢いで一晩過ごしちゃった後の会話みたい……」


 真理が桐生の頭をベシッと叩き、話を続ける。


「二つ目が正しいのであれば、それはあなたの正義感が裏目に出た、と解釈します。もしそうであれば、私たちにとって極めて重要な情報になります」


「……俺が2つ目、って嘘をつく可能性は?」


「実物を見せていただければいずれ分かることです。そしてあなたはそれが分からないほど馬鹿ではない。それが出来るぐらいなら、小谷さんにももっと気の利いた答えができたはず、というのもあります」


「……参った。降参」


「潔くて助かります」


「で、もう一つ聞きたいんだけど。何で最後の一本が鉄だ、って思ったの?」


「あなたが隠さなくてはならない理由を考えました。それは“そこにあってはいけないもの”だから。小谷さんの発言からそれは目撃された銅剣と同じなのに、違う素材……それも極めて状態の良い鉄である可能性が高いと考えました」


「俺が小谷のおっさんから隠した理由は?」


「弥生時代の遺跡から完全な状態の鉄剣が発掘される事はあり得ない。もしそれが公になってしまうと、今回だけではなくこれまでの発掘実績も捏造を疑われてしまう。あなたにはそれが耐えられなかった」


「……すげえな。こんな奴もいるんだな……」


 鐘巻が飲みかけの酎ハイを一口煽り、続ける。


「ご指摘の通りだ。俺はあの日、八本の剣が固まってるのを発見した。これでようやくお役に立てた、と喜んだもんさ」


 自嘲気味な表情。


「だけど、すぐに気づいた。一本だけ明らかに鉄でできた剣が混ざってる。錆びても朽ちてもいない、漆黒の剣が。身体中から血の気が引いたよ。

 どっちに転んでも俺は疑われる。誰かが埋めた、って言い張ってもその誰かが“俺”ではない事を証明できない。普段から銅剣のレプリカなんか作ってたから、言い逃れる自信もない。せめてこの鉄の剣がなければ、と咄嗟に懐に入れたところを小谷の爺さんに見られた、ってわけだ」


「それで、今その剣はどこに?」


「見せてやりたいのは山々なんだけど、ちょっと事情があってな」


「事情?それはどんな……」


 真理の言葉に被せるように近づいてくる重低音。それは咆哮のように、金属的な響きを纏いながら山を震わせ近づいてくる。


「え?何?何の音?」


 狼狽える桐生の言葉を飲み込むように、爆音は激しさを増す。音は空き地で止まり、一瞬の静寂が戻る。鐘巻が頭を抱えながら呟いた。


「……馬鹿息子のお帰りだ……」



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