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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第3章 出雲

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第2話:神話の残滓

2025.6.3 午後/東京・研究所



 八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を



「古事記」によると、この句は素戔嗚尊 (すさのおのみこと)が妻の櫛名田比売 (くしなだひめ)との新居について詠んだ最古の和歌である、と伝えられている。


「出雲、ってジャンルで考えると“黄泉平坂”や“因幡の白兎”、“国引き”なんかがあるんすけど、“八重垣神社”はピンポイントで“八岐大蛇”っす」


「素戔嗚と櫛名田比売の伝説から“恋愛成就”の側面もあるようだけど、今回は候補から外しても良さそうね」


「座標が神社の奥にある“鏡の池”、ってのも何か不思議な感じっす」


「これで八重垣宮司が関係してたら、運命的なものを感じるわ」


 諏訪で示されたポイントは“水鏡が淵”。今回は“鏡の池”。偶然にしては奇妙すぎる符合だ。


「調べてみたんですけど、今の宮司さんは“鷹村さん”らしいっすね。代々この神社の宮司を務めてる家系みたいっす」


「さすがに、そこまで都合良くは繋がらない、か」


 八重垣とは諏訪の件以降もちょくちょく連絡を取り合っている。熊野の田辺宮司を紹介してもらった事もあり、起こった事はメールで伝えている。


 田辺からも連絡は入っているはずであるが、今のところ音沙汰はない。


「じゃあ、“八岐大蛇”について認識を合わせましょう。時は神代、高天原を追われた素戔嗚が落とされた地上の場所が出雲の国。素戔嗚はそこで頭が8つ、胴がひとつで8つの尾を持つ“八岐大蛇”が村の若い女性を次々襲っている事を知った。


 8人目となる櫛名田比売を娶ることを条件に、策を講じて八岐大蛇を討ち取った素戔嗚。最後に切りつけた尾が剣を弾き、中から出てきたのが“天叢雲剣 (あめのむらくも)。素戔嗚はこの剣を姉の天照大神に寄進し、後に”草薙剣“として三種の神器の一つとなる」


「完璧っす。俺の認識もほぼ同じっす」


「細部の描写は異なるけど、他の伝承も大体はこの流れに沿ってるわ。神話の解釈としては、斐伊川の氾濫に対する治水の暗喩、と言うのが有力説」


「まあ、妥当じゃないっすか?濁流に飲まれる=蛇に呑まれる、は自然な解釈だと思うし」


「ギリシア神話で言うところの“ヒドラ”ね。こっちは頭が再生する、ってとこが厄介だけど」


「治水の失敗、って考えれば頷けますね」


「ただ、そこに新たな説を唱えた人物がいるの。“八岐大蛇”を全く新しい切り口で解釈しているわ」


「へえ、どこの誰さんだろ?」


「恵さんの話を覚えてる?“八岐大蛇”を題材にして、賞を取った男の子の話」


「まさか、その子が?」


「そのまさか。アーカイブを調べてるとヒットしたわ」


 モニターに映し出されたPDFファイルのタイトルに、桐生が思わず声を漏らす。


「“八岐大蛇が本当に伝えたかったこと” 松江市立奥池小学校6年、鐘巻真悟 (かねまき・しんご)君。金持ちっぽい響き……?鐘巻じゃねえか、どあほう」


「定番のボケをありがとう。研究の中身で面白いのは、彼が“八岐大蛇は怪物でも川の氾濫でもない”って結論を出しているの」


「……怪物でも、川の氾濫でもない?」


「ええ、彼の言葉を借りれば……“守ろうとした神”。じゃあ、彼の新説を見てみましょうか」



 自由研究 “八岐大蛇が本当に伝えたかったこと”

 松江市立奥池小学校6年 鐘巻真悟


 僕の住む町には、「八岐大蛇」という伝説があります。スサノオノミコトが、8つの頭を持つ大蛇をやっつけた、というものです。

 でも、僕はとても不思議に思うことがあります。胴体がひとつ、頭が8つなら「枝分かれしたのかな」と思うのですが、この大蛇は「尻尾も8本あった」と書かれています。

 頭の中で考えてみたのですが、よく分からなくなったので絵を描いてみました。すると、それは1匹の蛇ではなくて、8匹の蛇が胴体をぐるぐる巻きにされたように見えます。

 これは、スサノオノミコトに捕まえられた8人の神様を表しているのではないでしょうか?神様たちは鍛冶屋さんで、そのうちの一人が「鉄の剣」を打つことができたのだと思います。

 昔の剣は青銅で作られていたので、スサノオノミコトが切ろうとしてもうまく切れなかったんじゃないでしょうか。

 スサノオノミコトは奥さんと結婚して、八重の垣根で家を守りますが、なぜ八つも作ったのか、これも不思議に思いました。蛇は1匹なので、八つも作るのはおかしいと思います。

 これは、捕まった8人の神様がそれぞれスサノオノミコトとその奥さんを守るために、一人ずつ垣根を守っていたという事ではないでしょうか。

 そう考えると、「八岐大蛇」は怪物ではなく、斐伊川のはんらんでもなく、出雲の守り神であったということになります。それなら僕たちは、今まで「悪いもの」として伝えられてきた神様を、もう一度思い出す必要があるのではないでしょうか。

 8人の中で一番強い神様が持っていた鉄の剣。これが見つかったら、僕の説は正しかったんじゃないかと思います。

 なので、僕はこれから一生懸命勉強して、お父さんのような発掘家になり、いつか本物の剣を見つけたいと思います。



「……これ、小学生が書いたんっすか?すげえな……」


「着眼点がすごいわよね。私もこれを読むまで、尻尾が8本あるって記述は流してたし、八重垣も“奥さん大事にしてたのね”ぐらいにしか考えていなかったもの」


「さすが、恵ちゃんとタメ張るだけあるなあ……」


「写真で見る限りは大人しそうな男の子ね。ここから6年、どんな風に成長したのかも気になるところだけど、今はそれどころじゃないかな」


「“鏡の池”に関する伝承が見つかるといいんすけどね。今のところ“櫛名田比売が八岐大蛇から隠れてた場所”とか“縁占いの場所”で、“門”や“鳴金”に繋がりそうなものは無いっす」


「現地の文献調査かなあ。由緒ある場所だし、それなりの量がありそう」


「前回ので慣れたし、今回はもっとサクサク読んじゃいますよ!」


「頼りにしてるわ」


 微笑みながら返す真理。と、来客を告げるインターホンが鳴った。


「誰だろう?こんな時間に。アポ入ってたかな?」


 真理がスマホのスケジュールを確認しながら受話器を取る。


「はい、御堂研究室です。え?……はい、すぐお迎えに上がります」


 一瞬、真理の表情が変わった。


「誰っすか?」


 桐生が手を動かしながら真理に尋ねる。


「待ち人来たる、よ」


 研究室のドアを開けながら真理が答える。


「諏訪の、八重垣宮司が来られたわ」



◇◇◇



 曇り空は雨雲になり、パラパラとその雫を地上に振り撒き始めた。濃い水の匂いが嗅覚を刺激し、見えない雨を脳裏に映し出す。


「突然お邪魔してすみません、ちょうどこちらに来る用事があったもので」


 白装束ではなく、スーツに身を包んだ八重垣が研究室のドアをくぐる。知的な雰囲気と相まって、神職というよりはどこかの大学で教授をしている、と言った方がしっくりくる。


「いえいえとんでもない。こちらこそメールでの連絡ばかりになって恐縮です」


 八重垣を来客用のソファに促し、真理が尋ねる。


「コーヒーで宜しいですか?それとも、お茶やお水の方が?」


「いえ、コーヒーで結構です。頂戴します」


 桐生が立ち上がり、真理を制して来客用のコップを準備する。真理は八重垣の正面に座り、言葉を待つ。


「今日お伺いしましたのは、出雲の八重垣神社についてです」


 真理の表情に緊張が走る。コーヒーを淹れている桐生も僅かに反応する。


「どういった内容のお話でしょうか?」


 八重垣が出されたコーヒーに口をつけ、優雅にカップを戻す。桐生は真理と自分のカップをテーブルに置き、真理の隣に座って八重垣の話に耳を傾けた。


「田辺からも電話があったのですが、私は八重垣神社と直接の関係はありません。あそこは代々鷹村家が宮司を務めておりますので」


 ここまでは既に知っている情報だ。


「しかし、八重垣家には古くからの言い伝えがあります。何度か本家の場所も変わったようなので、それが出雲の八重垣神社の事を指しているのかは定かで無いのですが……」


「是非、お聞かせ下さい」


「……承知しました。言い伝えには古の神が出てきます。彼らは天上の国を追われ、地に堕ちて牢獄に繋がれていると。いつかその鎖を断ち切り、天に帰る日を待ち続けており、曰く、 


“剣を捧げよ。それをもって再び天上の民とならん”


……そして私ども八重垣の一族は、その末裔であると伝えられています。この言い伝えが諏訪の神話に出てくる“天と地”を何となく想起させたので、お伝えするために伺った次第です」


「そのためにわざわざ……本当にありがとうございます」


「いえいえ、先ほども申しましたが東京に来る用事があったもので。これは文書などにしたためる類のものでは無いので、厚かましくもお伺いさせていただいた次第です」


「本当にありがとうございます。ちなみに言い伝えの中にある“剣”については何か具体的な特徴などがあったりしますか?」


「具体的な事は語られていません。が……」


「が?」


「……鎖を断ち切れる、という事は普通の剣ではないのだろう、と推測します」


 八重垣の言葉の後、研究室に静寂が落ちた。外の雨音が、ゆっくりとその沈黙を埋めていく。


「それは日本神話に出てくる“草薙剣”を連想させるのですが、どう思われますか?」


「そんな由緒ある剣であるならば、光栄な事ですね。しかし、ご存知だと思われますが“草薙剣”は現在愛知県の熱田神宮に奉納されており、宮司はおろか天皇陛下でさえもご覧になる事が出来ません」


「ですよね……すみません、妄想が一人歩きしてしまいました」


「いえいえ、私も似たようなことを考えていた時期があったものです。つまらぬ話でしたが、何かのご参考になれば幸いです」


「こちらこそ、本当にありがとうございました」


 その後熊野の話でひとしきり盛り上がった後、八重垣は丁寧に礼を述べて帰っていった。



◇◇◇



「……先生、今の話どう思われます?」


「……短絡的に飛びつくのはあまり感心しないけど……心には留めておきましょう」


「ボチボチ情報も出揃いましたし、出雲のアサイン始めましょうか?候補は八重垣神社、出雲大社あたりを中心に」


「もう1箇所、増やして欲しい場所があるの」


「どこっすか?」


「島根県立古代出雲史博物館。歴史を揺るがせた青銅の剣が収められているわ」



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