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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第2章 熊野

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14/67

第7話:第2章終幕

2025.5.28 夜/熊野・那智の滝



 現代の日本で「完全な闇」に覆われる場所は少ない。新月の夜でさえ街の明かりを受け、滝は朧げに白く山中にその姿を浮かべていた。


「これがライトアップの時期やったら、とんでもない人混みなんですわ」


 田辺がその時をイメージしているのか、自嘲気味に語る。山奥に観光客が集まることで地元は潤う。それはそれとして神域に対して思う所もある。痛し痒しといった所なのだろう。


 平日の夜、それも遅い時間とあって観光客の姿は見えない。この場所は午後四時半を過ぎると立ち入り禁止になるからだ。念の為、で加代が飛龍神社の鳥居で待機してくれている。


「加代さんって、ほんと過保護だよねー」


 軽口を叩く恵だが、誰も本気にしていない。他ならぬ恵自身が誰よりも加代に感謝している事は誰の目にも明らかだったからだ。今日も巫女装束で参加しているのは


「やっぱり鏡の役やりたい!」


 という本人の強い申し出によるもので、巫女装束は


「だって明らかに神事でしょ?じゃあ正装するのが礼儀ってもんですよ!」


 の一言で決まった。


 欄干の袂では真理と桐生が前回同様の機材をセッティングし、久保山は懐に入れた勾玉を押さえながら、やや緊張した面持ちでウロウロしている。


「先生、こっちはいつでもオッケーです!」


 桐生の声が響き、場に緊張が走る。真理がSOPHIAの起動を確認し、告げる。


「SOPHIA起動。シーケンス確認。データ観測。感度は良好」


 前回同様、滝の白いノイズが画面を塗りつぶした。低域は静かなまま。


「0.5〜30ヘルツ帯に有意なピークは無し。可聴〜高域は滝の白色雑音が支配的。地震計・振動・気流にも異常なし」


 前回の結果をなぞるような真理の声。ここまでは想定通りだ。


「久保山さん、お願いします!」


 久保山はややもたつきながらも、懐から“勾玉”を取り出す。手に取って以来、唸ることも光る事も無く沈黙を守るそれを滝に向け、語りかける。


「我、悟りを得たり。さらなる高み、高天原を目指す者なり。かの門、いざ開かんや」


 勾玉が怪しく光り、修験者の思念が迸る。



 −来た。



 体の奥を震わせ、胸骨の奥を軽く小突かれるような感覚。鼓膜ではなく骨が鳴る。心臓の鼓動が一瞬、外の波と同期する。それは“声なき声”だけが持つ、特異な18ヘルツの奔流。


 滝は鳴動し、大地が息を呑む。


「恵さん、お願い!」


 恵は目の前で起きる現象に驚く様子もなく、じっと滝を見つめていた。そこに浮かぶ表情は、“慈愛”。自然と紡がれた言葉は全ての音を消し、調べだけが心に染み込んでくる。


 一の滝 鳴くや闇夜の 言の葉に 永久の珠 天ぞ響かん


 コトノハノ鏡が掲げられた。水晶から放たれた光が滝の流れを金色に染め、滝壺には牡丹の花が幾重にも広がるような波紋が描き出される。重く、しかし澄んだ鐘のような音が体の奥に湧き上がり、遅れて聴覚を刺激する。


「鳴金……」


 桐生が誰に言うでもなく呟いた。真理が戻した視線の先では、SOPHIAの画面が静かに光を放つ。


 [MODULE: RESON]

 [STATUS: GOLDEN FREQUENCY DETECTED]

 [SIGNAL: 18Hz / COMPLETED]

 [GATE STATUS: 2/7 ACTIVE]


 門が、開かれた。



◇◇◇



2025.5.28 夜/熊野・社務所



 夜も更けているというのに、社務所の中はお祭り騒ぎのような高揚に包まれている。誰もが奇跡の余韻を噛み締めていた。



 時は少し遡る。


 “鳴金”が発現し、滝は金色の波に包まれた。幻想的な空間は鐘の音と共に収縮し、やがて元の静けさを取り戻す。


「……やった!」


 振り返る恵。一同から歓声が上がる。が、余韻は長く続かなかった。“鳴金”の音を聞いた観光客が、加代の制止を振り切りワラワラと滝へ向かってきたのだ。


「桐生君、速攻で撤収!」


「イエス、マアーム!」


 テキパキと機材を撤収する二人。田辺は次々と現れる観光客に


「さっきの音は何だったんですか?」


「一瞬、光りませんでした?」


 と詰め寄られている。


「ええと、今のはですねえ……」


 しどろもどろになる田辺に恵が助け舟を出す。


「夏のライトアップ企画のリハーサルです!ただ照らすんじゃなくて、音と映像が織りなす新感覚のイリュージョン!まだ詳しくは言えませんが、期待を裏切りませんよ〜!皆さん、“熊野・那智の大滝−神話と科学が織りなす奇跡のイルミネーション”にご期待くださーい!」


 おお〜っ、と拍手が湧き上がる。恵はどうも、どうもと愛想を振り撒きながらスタコラその場を立ち去る。あっけに取られる田辺と久保山の手を引き、真理と桐生も恵に続いてその場を後にした。


「恵ちゃん、って」


 桐生が真理にだけ聞こえる声で囁く。


「只者じゃ無いっすね」


 真理が呆れた顔で返す。


「……何を今更」



◇◇◇



 そして今に至る。じわじわと喜びが込み上げてきた。


「改めて、やったー!」


 恵が喜びを爆発させる。


「いや、凄かったで!ドーンと震えた後、ガーッと光ってゴーン、やもんなあ!」


「めっちゃ綺麗かった!」


「長いこと神社におるけど、あんなもん見れるとはなあ」


「勾玉光った時、マジで震えたわ。それまで大人しいしとったさかい、このまま黙っとったらどないしよ、思て」


「滝が鳴いて、天が響く。あの歌の通りやったなあ」


「そう言えばあの時、恵さんは凄く落ち着いていたわね。あれは何か理由があったの?」


 真理の質問にそう言えば、と一同の視線が恵に向く。


「あの時ですか?う〜ん、上手く言えないんですけど“心が見えた”って言うか」


「心?」


「お父ちゃんが勾玉を出したでしょ?で、その時頭に入ってきたのが、ずーっと長い間、この瞬間だけを待ち続けてた天雲上人の“やっと辿り着いた!”っていう感激と安堵の感情。


それは激しいと言うよりも、子供が人混みの中で母親の姿を見つけた時の無邪気な安心感に近くて。もう、“門”が開くことは分かってたみたい。後は、どうしたらいいかが自然と浮かんできたんで、そのまま流れに身を任せた感じです!」


「……天雲上人って鎌倉時代の人だから、“千年の願いが叶った”ってとこか」


 桐生の目が遥か遠くを見ている。


「私は直接それを見ることは出来なかったんですが」


 加代が口を開く。


「でも、体を震わせる音と滝が光るのを見ました。これも、記録には残らないのでしょう。でも、私の“記憶”には確かに残りました。超常現象の全てが正しい、とは今でも思いませんが、“そんな事も起こりうるんだ”と言う事は否定しません」


「加代さん、固い〜!凄い事が起こったら、一言“凄い!”って言えばいいんだよ!」


「……そうね、そこは恵ちゃんを見習わないとね」


 加代が柔らかく微笑む。


「ほんで自分ら、これからどないすんの?」


 久保山が光を失った勾玉を手の中で転がしながら尋ねる。


「前回は、現象の後しばらくしてSOPHIAからメッセージが届いたんです。もうそろそろ、届く頃かと待っているんですが……」


 真理の言葉を待っていたかのように、SOPHIAがメッセージを映し出した


 [MODULE: GATE-LINK]

 [LOCATION: IZUMO]

 [GATE STATUS: 3/7 INITIALIZING]

 [35.4290289: 133.0722801]


「来た!場所は……出雲。桐生君、座標確認して!」


「ピン打ち完了!……出ました!奥出雲、八重垣神社っす!」


「出雲!島根か!またえらい遠いとこやなあ」


「八重垣……まさか、諏訪の八重垣宮司と関係無いわよね?」


「あいつ、確か山陰の出身やったような……聞いとこか?」


「ありがとうございます。助かります!」


「出雲って何の伝説が有名でしたっけ?」


「ありすぎて困るぐらいよ。一旦東京に戻って、じっくりと調べましょう」


「出雲って言えば」


 恵が口を挟む。


「私が小学生の時に自由研究で賞をもらったんですけど、一緒に表彰されてた男の子が八岐大蛇を題材にしてて、結構凄かったのを覚えてます。あの子がそのまま育ってたら、真理さんたちの力になってくれるんじゃないかなあ?」


「出雲版の恵さん、ね。頼りになりそう。名前とかは覚えてる?」


「何て言ったかなあ……金持ち君?みたいな響きだったような……忘れちゃいました!」


「恵さんらしいわね。まあ、縁があればどこかで繋がるでしょう」


「宴たけなわやけど、そろそろええ時間になったし、今日はもうお開きにしよか」


 田辺に促され、めいめい帰り支度を始める。真理もパソコンを閉じ、桐生と玄関に向かった。



 鞄の奥。閉じられたノートパソコンのランプが一瞬点滅した。スクリーンの深部に、見えないメッセージが赤く点滅する。


 [WARNING: UNKNOWN SIGNAL DETECTED]

 [SOURCE: WITHIN DEVICE]




第2章終幕。第3章は明日23:50開始予定です。

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