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【完結】REZON ー神話を解くものー  作者: 壇 瑠維
第1部 第2章 熊野

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第6話:言の葉には意味がある

2025.5.17 午後/熊野・常闇の壁



 “圧”が消え去った修行窟に座り込んだ雲龍。雫の落ちる音だけがこだまする空間を割いたのは恵の叫び声だった。


「お父ちゃーーーーーん!」


 走り寄って飛びつく。真理と桐生も続き、二人の抱擁を眺めていた。


「えっと……恵さんと雲龍さんは、親子?」


 泣き笑いの顔で恵が答える。


「はい、実の親子です」


「でも、苗字が……」


「久保山は父方の姓で、有楽は母方の姓なんです。離婚した時に母が旧姓に戻したので、私も」


「色々苦労かけてしもてね。ワシも意固地になってたから、恵もそのうちワシんとこに寄り付かんようになって。せやから、昨日来てくれた時はホンマに嬉しかったんや」


「恵ちゃん、昨日あそこに行ったの?」


 立ち直った桐生が尋ねる。


「あ……バレちゃった。えへ、心配だったんで様子を見に。そしたらお父ちゃんマジ切れしてるし、これは何とかしなきゃって」


「あれ、効いたわあ。めっちゃキツかったで」


「せやけど、ちゃんと今日来れたやろ?」


「よう出来た娘やわ」


「……もう、何言うてんの」


 恵は涙の跡を残した顔のまま、笑って父を軽く小突く。


「……恵さん、雲龍さんと話す時は関西弁になるのね。何回かそういう事があったから、気にはなってたんだけど」


「そうなんですよ。普段はこんな感じなんですけど、お父ちゃんが相手になるとどうしても……血のなせる技、ってやつですかね?」


「それだけお父さんを信頼してる、って事よ。“素”を出しても大丈夫な相手だから」


「はい!」


 恵がこれまでで一番、綺麗な笑顔で答えた。


「さて、勾玉も手に入りましたし、戻りましょうか」


「せやな、いつまでもここにおってもしゃあないし」


「いよいよ、“滝の門”を開く時が来たっすね!」


「今度こそ、うまくいくかな?」


 恵が何かを思い出したように身震いする。


「そうね、念には念を入れて……もう見落としがないか、戻って調べましょう」


 唸りが消えた山肌に、夕日が傾いていた。



◇◇◇



2025.5.17 夜/熊野・社務所



 すでに日は落ち、少し欠けた月は山裾からその姿を覗かせていた。まだ肌寒さを残す風が一陣、夜の帷を静かに撫でていく。


 社務所には連絡を受けた田辺と加代が待っていた。「ただいま!」と駆け寄った恵を抱きしめる。ふと、二人を眺める雲龍と目が合った。


「お義兄さん……」


 決まり悪そうに頭をかく雲龍。


「加代ちゃん、ごめんな。迷惑かけた……」


 返す言葉を探すように、加代は少し唇を噛んだ。


「……夢は、叶ったんですか?」


「ああ、バッチリや。恵のおかげやで」


「恵ちゃん、そうなの?」


「へへー、頑張ったのはお父ちゃんだけどね。聞きたい?」


「ええ、聞かせて」


 そこからしばし、恵による“お父ちゃん武勇伝”が繰り広げられた。田辺と加代は時に驚き、涙を堪えながら話に聞き入っている。


「それでね、最後の最後に“これがワシの悟りじゃ”って、もう、お父ちゃんカッコ良すぎ〜!」


「久保山、頑張ったなあ……」


 田辺は目頭を押さえている。見た目はいかついが、涙腺はかなり緩いようだ。


「怪しげな伝承に引っ張られた挙句、逃げるようにして怪しげな商売を始められた時は本当にどうなる事かと思いましたが……これで一つ、区切りがつきましたね。これからどうなさるんですか?」


「せやなあ。加代ちゃんは厳しいこと言わはるけど、雲龍堂も意外とええ感じに回っとるし……」


「お父ちゃん、その“雲龍”言うのやめへん?だっさいし。ご先祖様から受け継いだ“久保山晴男”っていう立派な名前があるんやから、ちゃんと大事にしぃ!」


「ださいて……お前、そんな風に思てたん?」


「多分、私だけちゃうで。みんなにも聞いてみる?」


 誰もが、それとなく雲龍から視線を逸らす。


「いや、やめとくわ……多分、勾玉の試練よりもきっつい」


「ほな、今から芸名禁止な!」


「芸名ってお前、……まあええわ。こっからは男久保山晴男、カタギに戻って仕切り直しや!」


 田辺も加代も嬉しそうに笑っている。それだけ、重いものを抱えてきたのだろう。今となっては昨日見せた加代の厳しい物言いも、これ以上恵を傷つけない為に必死で守っていたのだという事が分かる。


「さて、これからの話なんですが」


 真理が切り出す。


「雲龍……久保山さんのご協力で、門を開くために必要な那智の“声なき声”を宿す“勾玉”が手に入りました。おそらく滝と“勾玉”を共鳴させ、“コトノハノ鏡”をかざす事で“門”が開くと思われます。差し支えがなければ、今からでも実験を行いたいのですが……」


「姉ちゃん、ちょっとええか」


「どうぞ」


「言葉には、意味があんねん。特に何百年も伝わるような言葉には、絶対的な意味がある。“常闇の壁”の時、ワシは心底思うた」


 全員が久保山の言葉に聞き入っている。


「そんでや、ワシが今どないしても気になっとる言葉がある。恵、あの歌覚えてるか?滝のやつ」


「一の滝の?覚えとるよ?」


「頼むわ」


 雰囲気が少し変わった。恵は姿勢を正し、息を整えてから口を開く。


「一の滝 鳴くや闇夜の 言の葉に 永久の珠 天ぞ響かん」


 誰もが聞き惚れてしまうような耳に心地良い声。


「おおきに。さぁ、姉ちゃん、問題や。ここに重要なヒントが隠されとる。それが分からんかったら、多分何回やっても失敗する」


「ええっ、また失敗すんの?もう、勘弁してや〜」


 恵ががっくりとソファに崩れ落ちる。


「何があったんか知らんけど、多分そないなる。で、どや。何か気付かへんか?」


「そうか、分かった!」


 桐生が声を上げる。


「ほう、まさかの兄ちゃんか。聞かせてくれ」


「“闇夜”って言葉っすよ!時間はいつでもいいわけじゃない。“夜”にやる事が重要だったんだ!だから昨日も、そもそも日が昇ってる時にやったから、条件を満たしていても発現はしなかった!」


「ええ線いってんな。せやけど、それだけやったらまだ足りへん」


「“闇夜”……“闇に覆われた夜”……新月?」


「姉ちゃん、正解や。理屈は分からんけど、この歌を作ったやつは“闇夜”にだけ滝が共鳴することを知っとった。でなかったら、わざわざこんな言葉使わへん」


「今からやったとしても、“門”は開かない?」


「そうなるやろな」


「月の動きが“門”に関係する……!ということは……!」


 真理がパソコンにキーワードを打ち込む。


 “月齢表”


 推測が正しければ、“あの日”も月が関係しているはずだ。


 スクリーンに結果が表示される。真理が指定したのは“2025年5月”。月の満ち欠けがイラストと共に表示される。


「やっぱり……」


 “あの日”の月が表示されていた。2025年5月13日、諏訪湖で“門”が開いた日。月齢は15.3。“満月”の姿がそこにあった。



明日で第2章終幕です。23:50更新予定です。

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