謁見の間
重々しい謁見の間に、王太子ジョージの声が低く響いた。
「菓子職人アラン・ドゥヴァル。この男は――我が婚約者と破廉恥な関係にあった。」
その言葉に、シャルロットは息を呑んだ。
「殿下、何を仰せに――!?」
「証拠はある。アーサー!」
王太子の命に応じ、奥の控えから諜報員アーサーが進み出た。
誇らしげに胸を張り、手に書簡を携えている。
「はっ。わたくしは殿下の命に従い、密かに二人のやり取りを記録しておりました。――その一節をご報告いたします。」
シャルロットは胸騒ぎを覚えた。
(まさか……!)
アーサーは芝居がかった仕草で、羊皮紙を広げた。
「『アランの…今日はいつもより大きいのね。一度ではお口に入り切りませんわ』。」
「な……っ!」
シャルロットの顔は真っ赤になり、次の瞬間、呆然と目を瞬いた。
アーサーは得意げに続ける。
「さらに、シャルロット様はため息まじりに、『やはり、大きい方がいいわね。』とも。殿下、これを不埒と呼ばずして何と申しましょう!」
王太子の眉はぴくりと動き、怒りとも嫉妬ともつかぬ光が宿る。
「……やはりそうか。」
「違いますわ!!!」
シャルロットは堪らず叫んだ。
その必死の声に、アランまで驚いて目を丸くする。
「殿下、これは……!これはただのスコーンのことです!アランが焼いてくださった菓子が、たまたま大きかっただけですわ!」
謁見の間は一瞬、静まり返った。
「どういう事だ!?」
ジョージが険しい表情のまま問い返す。
「本当に……お菓子の話でしてよ!」
シャルロットは真っ直ぐに王太子を見据えた。
「わたくしは殿下を裏切ったことなど一度もございません。殿下の婚約者として、この身も心も殿下に捧げております。どうか、どうか信じてくださいませ。」
王太子は言葉を失い、緑の瞳を見開いた。
アーサーは狼狽し、持っていた羊皮紙を取り落とす。
「そ、そんな……!わたくしは……。」
重苦しい沈黙の中、シャルロットの凛とした声だけが謁見の間に響いた。
「殿下、どうかご判断を。」
王太子はゆっくりと高座から立ち上がり、アランとシャルロットを見比べる。
その瞳の奥には、まだ嫉妬の炎が揺らめいていた――。




