婚約者は絶世の王太子様
王宮の広間――
大理石の床に映る光が、銀髪の王太子ジョージの瞳を鮮やかに輝かせていた。
「シャルロット嬢、ようこそ。」
低く響く声。緑の瞳は、端正な顔立ちに似合わず鋭く、そしてどこか甘い光を帯びていた。
シャルロットは一瞬緊張する。
侯爵家での礼儀作法は完璧に学んできたが、王太子の目に見つめられると、自然と背筋が伸びる。
「お招きありがとうございます王太子殿下。ご婚約のお話、光栄に存じます。」
声はしっかりしているつもりでも、頬が少し赤くなる。
しかし心の奥では、スコーンのことで頭がいっぱいだ。
広間の中央には、王宮専属の若き有望菓子職人アランが腕を振るったスコーンが並べられている。
美しい側面の割れ目の完璧な見た目
鮮やかなベリージャムと濃厚なクロテッドクリームが惜しげも無くたっぷり添えられている。
シャルロットは思わず目を輝かせた。
「これが夢にまで見た王宮のスコーン!」
目の中に迷いはない。口元には微笑が浮かぶ。
王太子はその表情に違和感を覚える。
(なぜだ!?あの瞳は俺を映しているわけではない?)
胸の奥に、嫉妬と独占欲が芽生えた。
「シャルロット嬢、貴方はどの部分がお気に召した?」
王太子の声は低く、静かだが鋭い。
シャルロットは一瞬考え込み、そして無邪気に答える。
「それはもう、焼き加減が絶妙で外はさっくり、中はふんわり。バターの香りも豊かですし、ジャムの酸味と甘さのバランスは言うに及ばず。何よりも、美味しいスコーンの証であるスコーン側面の割れ目の“狼の口”も文句なく完璧ですわ!!!」
シャルロットの心はスコーンでいっぱい。
「そうか。お茶菓子を気に召してもらえたようでよかった。で、私のことはどう思っている?」
「殿下はすべてが完璧で、理知的で、世界で一番尊いお方です。
その振る舞いも気品にあふれ、笑顔はどんな宝石よりも輝いていますし…
まあ、私の気のせいかもしれませんけれど。」
!?
……なぜだ。決して貶されているわけでなく褒められているはずなのに、全く嬉しくない。
王太子への褒め言葉は、ぎこちなく、無感情に並べられた。
シャルロットは次のスコーンを手に取り、名残惜しそうに皿を見つめる。
「ああ、あと一口でこの絶品スコーンを食べ終わってしまうわ……。」
ため息がぽろりとこぼれる。
スコーンを食べ終えてしまう名残惜しさでしかないこの行動が
王太子殿下に大きな誤解を与えていたとは露にも思わないシャルロット。
王太子のヤンデレ溺愛は静かに、しかし確実に加速していく。
スコーンをめぐる誤解と、無邪気な令嬢の愛すべき食欲が交差し、甘く騒がしい日々がここから始まるのであった。




