第5話:僕と君とかわいい弟
「ただいまー」
「お邪魔しまーす!」
本当に連れてきてしまった。でも本人とお母さんがOKしてるなら大丈夫…だよね。
「おかえりなさーい!」
そう走りながら大きな声で駆け寄ってくれたのは末っ子であり僕の弟の拓真だった。
何だこの可愛い生き物は。僕はいつの間にか拓真を抱きしめていた。
「お兄ちゃんは1ヶ月経っても変わらないね!」
何を隠そう、僕は拓真のことを抱きしめるのが好きだ。これが末っ子のかわいさなのだと僕は自分に暗示をかける。
「お兄ちゃん、この人だぁれ?」
そこで僕は正気に戻る。そうだ、楓さんが居たんだった。
「ごめん楓さん。」
「いいよ、家族仲良いんだね。」
「そうだよー!」
廊下を走りながら朱里がやってくる。危ないからやめろと言いたいところだが。朱里も中1だし心配する年でもないだろう。
「で、家に来たはいいものの、何をするんだ?」
「え?」
「ん?」
「…何も考えてなかった…」
嘘だろ、と思った僕はその言葉をのみ何をするか考える。
「じゃあさ、とりあえず一くんの部屋に案内してよ!」
「えぇ…」
内心嫌だった僕はそんな言葉をもらしてしまう。
「嫌なの?」
「嫌じゃないけど。」
いや普通に嫌だよ?
「じゃあ行こ!」
そう言って1人で行こうとした楓さんは振り返って
「…部屋どこ?」
分かるはずもないのに1人で行ってしまう楓さんは天然なのだろうかと1人で思ってしまう。
そして僕の部屋に着いた僕は
「あのさ、事故のことまだ教えてくれないの?」
「まだダメだよ。そのときが来たら言うから。」
一体その時とはいつなのだろうか。その時の僕はまだ知る由もなかった。