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第9話 『彼の力になりたい』


 冷たい風が肌を撫でる秋の夜、私はふと不思議な胸騒ぎを覚えて、しばらく一人で庭を歩いていた。


 王宮での生活も慣れてきてはいたけれど、婚約者であるアルノルトに対する気持ちは、日に日に大きくなっているのを感じる。


 彼が私を守ってくれた数々の瞬間が、今でも鮮明に思い出されるたびに、胸が温かくなるのだ。


 けれど、アルノルトは多くを語らない。冷たく無愛想な彼が、私に対して優しさを見せてくれるのは稀なことだ。


 その中で彼がどれだけ多くのものを抱えているのか、想像がつかないことがもどかしかった。


 そんな時、ふと聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。


 身を隠すようにして覗くと、アルノルトが数人の騎士団員たちと話をしているのが見えた。

 彼の顔は険しく、厳しい表情で話し合っている様子から、ただならぬ緊張感が伝わってくる。


「王国を揺るがす陰謀が動き始めていると報告を受けた。俺たちには、敵を探し出し阻止する責任がある」


 その言葉に、私は思わず息を呑んだ。王国を揺るがす陰謀──。


 彼の鋭い瞳には、明らかな決意が宿っている。

 彼はずっと、この王国の安全のために戦い続けてきたのだろう。


 普段、私の前では冷静な態度を崩さない彼が、ここではひたむきな覚悟と強い信念を持っているのがわかった。


「……殿下を狙う動きがある以上、俺たちも慎重に行動せねばならん。些細な動きも見逃さず、常に備えろ」


 彼の厳しい言葉が、静かな夜の庭に響く。


 こうして見ると、彼はただの騎士団長ではなく、この国の未来を背負う存在なのだと改めて実感した。


 いつもは言葉少なで冷たく見える彼が、実は誰よりも王国を守るために献身していたのだと気づいた時、胸がぎゅっと締めつけられるような感情が湧き上がってきた。


 その夜、私はアルノルト様のことを考え続けていた。


 普段、冷静、そして冷淡に見えても、彼が実はどれだけの犠牲と責任を背負いながら生きているか、その一端に触れたような気がしてならない。


 そして、私は彼の支えになりたいと思うようになった。

 彼が王国のために戦い続けるその姿に、私も少しでも力になれたら、と思わずにはいられなかった。




 


 ******




 


 翌朝、私はメイドの案内で書庫へと向かい、王国の歴史や政治について調べることにした。


 私にはまだ多くのことがわからないけれど、少しでもこの国や人々について知ることで、彼を支えるための第一歩になるのではないかと思ったのだ。


 しばらく書物を読み漁っていると、ふと背後から声をかけられた。


「リリア、こんなところで何をしている?」


 振り返ると、そこには驚いた顔のアルノルト様が立っていた。

 彼の冷静な表情は変わらないものの、目には微かな驚きが浮かんでいる。


「……アルノルト様」


 私は一瞬戸惑ったが、ここで引き下がっては自分の気持ちが伝わらないと思い、正直に答えた。


「私、アルノルト様の力になりたくて。王国についてもっと知ろうと思ったのです」


 その言葉に、アルノルト様はしばらく黙り込んだ。


 そして、いつもの無愛想な表情を浮かべつつも、どこか微笑んでいるようにも見える表情で言った。


「お前は、本当に変わっているな」


「変わっている……でしょうか」


「俺のような冷酷な男のために、わざわざこんなことをするとはな」


 彼はそう言いながらも、どこか温かい目で私を見ているようだった。

 その瞳に宿る微かな優しさに、私の胸は再び高鳴る。

 私はアルノルト様に何か返事をしようとしたが、彼の視線に圧倒され、ただ頷くことしかできなかった。


「だが……お前の気持ちは、ありがたい」


 その言葉に、私は心からの嬉しさが込み上げてきた。


 彼が今、ほんの少しでも私を認めてくれていると感じられたからだ。

 こんな風に言葉をかけてもらえるなんて、まるで夢のようだった。


 その後、アルノルト様と一緒に王国について話す機会が増え、私は次第に彼の過去や覚悟についても理解を深めていった。


 彼は王国を守るために、これまで多くの人を犠牲にしなければならなかったことを私に少しずつ打ち明けてくれた。

 そして、それを背負いながらも、今もまた新たな陰謀に立ち向かおうとしている。


 そんな彼の姿が、私にはとても誇らしく、そして頼もしく思えた。


 彼は確かに冷酷な騎士団長だが、それ以上に、優れた戦士であり、この王国を誰よりも愛している人なのだと心から感じた。


 そして、私は心の中で決意した。


 どんな陰謀や困難があろうとも、彼の隣で共に戦っていこう。


 彼が背負ってきたものの重さは私には到底わからないかもしれないけれど、それでも彼の力になりたいという気持ちは揺るがない。

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