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第7話 『俺が決めることだ』


 アルノルトが助けに現れた時、私の胸は恐怖と安堵が入り混じり、混乱していた。


 逃げ去る男たちの背中を睨みつける彼の横顔は冷徹で、普段よりも遥かに怒りを含んでいた。


「……大丈夫か?」


 彼が静かに私に尋ねてきた。

 震える声で「はい」と答えようとするが、胸が高鳴ってうまく声が出なかった。


 無理に平静を装いながら、


 「はい、アルノルト様が助けてくださったおかげで……」


 と、なんとか言葉を紡ぐ。


 彼はじっと私を見つめ、私の肩にそっと手を置いた。


 思いがけないその温かさに、涙が止められず、瞳から溢れてしまう。

 アルノルトは驚いたように目を見開いたが、優しく私を抱きしめてくれた。


「よく頑張ったな」


 彼の囁きに、胸がじんと温かくなる。

 これまで冷たく無表情だった彼が、こんな風に私を励ましてくれるなんて、夢にも思っていなかった。


 日々鍛えられたがっしりとした彼の腕の中で少しずつ安堵が広がり、恐怖が消えていくのを感じる。


「アルノルト様……私、どうしても怖くて……」


 彼の胸に顔を埋めると、彼の手がそっと私の頭に置かれる。

 その温もりが心に染みて、次第に震えが収まってきた。


「お前にこんな思いをさせるなど……許されることではない」


 アルノルトが静かに言い、私を包み込む腕の力を少しだけ強める。

 まるで「もう離さない」とでも言うように。


 その強さに、私はどこか安心を覚え、胸の奥が温かくなるのを感じていた。


 彼が少しだけ身体を離して、私の顔をのぞき込む。彼の厳しい視線が私の瞳を捉え、次の言葉をゆっくりと告げた。


「誰であろうと、俺の婚約者に手を出すことは許さない。わかっているな?だからお前も気をつけるんだぞ」


 その言葉に、胸が高鳴る。


 彼が「婚約者」として私を守ってくれている。

 形だけの関係だと思っていたけれど、今、彼がこうして本気で私を守ろうとしてくれていることが、ひしひしと伝わってくる。


「……ありがとうございます、アルノルト様」


 私の感謝の言葉に、彼は少しだけ目を細めた。彼の瞳に浮かぶ表情は、冷たさが和らいでいて、どこか優しさすら感じさせる。


 もしかして、彼も少しだけ心を開いてくれているのだろうか?


 ──その時、再びセシリア様の冷たい声が私たちの背後から響いた。

 先程一度去ったように見えたがまだそこにいたらしい。


「──アルノルト様、どうしてそんな娘を守られるのですか? 彼女はあなたにふさわしくないと、私が申し上げているのですよ」


 その言葉に、アルノルトの表情が一瞬険しくなった。

 彼は私の肩を離し、ゆっくりとセシリア様に向き直る。


「なんだセシリアまだ居たのか。セシリア、お前の気持ちは聞いていない。それに、リリアが俺にふさわしいかどうかは俺が決めることだ」


 彼の冷たい言葉に、セシリア様は怒りと屈辱で顔を赤らめ、悔しそうに唇を噛みしめていた。

 アルノルト様が私を「リリア」と名指ししてくれるのを聞くたびに、胸が熱くなるのを感じる。


「ですが……!」


 まだ反抗しようとするセシリアをアルノルトはバッサリと切り捨てる。


「お前にリリアをどうこう言う権利はない」


 アルノルトの鋭い声に、セシリア様は押し黙った。


 彼女がどれだけ私に怒りや嫉妬を抱いていても、アルノルトがそれを全く意に介していないのがはっきりとわかる。


「アルノルト様、でも私は……」


 セシリア様が必死に食い下がるが、彼はそれを無視して私に振り返り、再び優しく問いかけるような目を向けた。


「……リリア、帰ろう」


 その一言に、私は無意識に微笑んで頷いた。


 彼が私を守ってくれていることが伝わり、その胸に安心感が広がっていく。

 セシリア様は悔しそうに見つめていたが、アルノルト様が私の方を向くたびに私の心は満たされていくのを感じた。


 二人で並んで歩きながら、私はアルノルトに小さな声で話しかけた。


「アルノルト様、私、正直言って少し怖かったんです。セシリア様は……私があなたの婚約者であることを気に入らないようで」


 すると、アルノルトは少しだけ肩をすくめ、冷たい笑みを浮かべた。


「そんなことはお前が気にすることではない。お前は俺の婚約者だ。その立場を気にする必要も、恐れる必要もない」


 彼の言葉が胸に染み渡る。

 アルノルト様が、ここまで私を守ろうとしてくれている。その事実が嬉しくて、言葉にならない想いが心の中で広がっていった。


「……ありがとうございます」


 私の小さな感謝の言葉に、彼は少しだけ微笑んだ。


 彼の表情が柔らかく見えるのは、私にとって特別な意味を持っている気がする。

 冷酷無比と噂される彼が、私にだけ見せてくれるこの優しさ──それがとても愛おしく感じられる。


 こうして私たちは、穏やかな沈黙の中で並んで歩きながら、少しずつ距離を縮めていった。

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