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第6話 『罠、そして救出』


 その日、王宮で開かれた舞踏会に参加していた私は、豪華な装飾と賑やかな音楽に心が躍っていた。


 異世界の社交界はどこか神秘的で、華やかさに圧倒されると同時に興味深かった。


 こうして貴族の令嬢として人々と交流することも、この世界での新しい日常なのだと思うと、少しでも楽しみたい気持ちになる。


 ……しかし、周囲の視線が私に集中していることに気づき、心に少し重さを感じていた。


 アルノルト様と婚約者になって以来、特に女性たちから冷たい視線を感じることが増えていたからだ。

 中でも公爵令嬢のセシリア様は、何かと私に対して牽制してくる存在だった。


 その日も、彼女は私に近づいてきて、見下すような目で微笑んだ。


「リリア様、今日はとてもお美しいですね」


「ありがとうございます、セシリア様もとても素敵です」


 彼女の目には、褒め言葉とは裏腹に冷たい光が宿っていた。


 私はそれに気づきながらも、精一杯の笑顔で応じる。だが、彼女は私の様子を楽しむかのように、さらに言葉を続けた。


「そういえば、リリア様。少しお話ししたいことがあるのです。少しこちらへいらっしゃいませんか?」


 怪しい誘いだと感じつつ、私は断るべきか迷った。


 しかし、セシリア様の言葉には妙な圧力があり、無下に断ることも難しかった。

 周囲の視線を感じる中、私は仕方なく彼女についていくことにした。


 セシリア様に案内されたのは、舞踏会の会場から少し離れた王宮の奥まった庭園だった。


 辺りは人影もなく、昼間の賑やかさとは打って変わり、月明かりが寂しく照らす静寂に包まれている。


「セシリア様、こんなところで一体何をお話ししたいのですか?」


 私が問いかけると、彼女は冷ややかに笑みを浮かべ、私に一歩近づいてきた。


「──リリア様。貴女がアルノルト様と婚約していること、私はどうしても納得がいかないのです」


 その言葉に私は息を呑む。

 彼女の瞳には怒りと嫉妬がはっきりと見て取れた。


「アルノルト様は冷酷で有名な騎士団長。貴女のような平凡な令嬢が、彼の隣に立つにふさわしいと思いますか?」


 セシリア様の声には冷たい侮蔑が込められていた。私が返事に困っていると、彼女はさらに言葉を続ける。


「貴女さえいなければ……私がアルノルト様のお傍に立てたはずですのに」


 その言葉に、私の胸は一瞬締め付けられるような痛みを感じた。


 確かに、彼が私を婚約者として選んだ理由は、侯爵家の娘という立場からのものだ。

 彼の周りには、セシリア様のようにアルノルト様を慕う貴族令嬢もたくさんいる。

 そう考えると、自分がここにいることが正しいのか、少し不安が頭をよぎる。


 しかし、私がどれだけ動揺しているかも気にせず、セシリア様は冷たい視線を向けてくる。


「アルノルト様には、もっとふさわしい相手がいるべきだと、そう思いませんか?」


「……そうかもしれません。でも、私は彼の婚約者としてここにいるのです」


 勇気を振り絞ってそう答えると、セシリア様の顔に一瞬驚きが浮かんだが、すぐに嘲笑に変わった。


「──ふふ、そうですが……ならば、貴女にふさわしい場所に連れていって差し上げますわ」


 その言葉と同時に、背後に控えていた見知らぬ男たちが私の前に立ちはだかり、逃げ場をふさいでしまった。


 まさか、彼女がここまでして私を追い詰めるとは思ってもいなかった。


「セシリア様……一体、何をするつもりですか?」


 恐怖に声が震える。

 だが、彼女はその様子を見てさらに愉快そうに笑みを浮かべた。


「別に、危害を加えるつもりはありませんわ。ただ少し、貴女がどれほど無力かを教えて差し上げたいだけです」


 そう言って、男たちに目配せをする。


 すると、男たちは私を無理やり庭園の奥へと連れて行こうとした。

 私は必死に抵抗するが、彼らの腕力にかなうわけもなく、ずるずると引きずられてしまう。


「離してください……!」


 必死にもがくが、男たちは構わず私を引きずり続けた。


 このままでは、どうなってしまうのだろう。どこに連れていかれるのか。

 

 アルノルト様がここにいてくれれば、彼が助けてくれたなら、と思ってしまう自分が悔しかった。


 しかしその時──


「──何をしている!」


 鋭い声が響き渡った。

 その声に、男たちも驚き、動きを止める。

 私も振り返ると、月明かりの中に立っていたのは──険しい表情をしたアルノルトだった。


「アルノルト様!」


 思わず彼の名を呼ぶと、アルノルトは怒りに満ちた視線を男たちに向け、ゆっくりと近づいてくる。

 彼の鋭い眼光に、男たちはすくみ上がり、思わず後ずさりした。


「俺の婚約者に、手を出すとは……覚悟はできているのだろうな」


 彼の冷たい声に、男たちは青ざめ、次々とその場から逃げ出していった。


「くっ……」


 唇をかみながら居心地悪そうにセシリアはその場を後にした。


 私は私を助けてくれるアルノルトを見て、安堵と同時に、彼が私のためにここに駆けつけてくれたことが信じられなくて、涙がにじんできた。

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