第10話 『彼と共に』
秋も深まったある夜、王宮全体に緊張が漂っていた。
アルノルト様の話していた「王国を揺るがす陰謀」がいよいよ本格的に動き出している──それを感じさせるように、あたりは重苦しい静寂に包まれていた。
私もどこか落ち着かず、王宮内をそわそわと歩き回ってしまう。
最近、アルノルト様の行動も慌ただしくなり、騎士団員たちと何かを打ち合わせしていることが多かった。
彼は私には詳細を話してくれないけれど、どれだけ大きな責任と覚悟を持って戦おうとしているか、その姿を見ていれば自然と理解できた。
と、そんな中、突然の知らせが私のもとに届いた。
「リリア様、至急こちらへ──アルノルト様が待っておられます!」
私を探しに来た騎士団員が急いで案内してくれた場所は、王宮の外れにある隠された通路。
見たこともない暗い通路に足を踏み入れた瞬間、ただならぬ緊張が全身を駆け巡る。
「リリア、来てくれて助かる」
そこに立っていたのは、鋭い眼差しで私を見つめるアルノルト様だった。
冷静で落ち着いて見えるが、どこかその表情にはいつもよりも張り詰めたものが漂っている。
「アルノルト様、一体何が……?」
彼はしばらく私を見つめたあと、ゆっくりと説明を始めた。
「王宮に潜む裏切り者が、ついに行動を起こした。どうやら、この国を乗っ取るために一部の貴族が結託して、混乱を引き起こそうとしている」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
王国の中にいる貴族たちが結託し、国を混乱に陥れようとしているなんて──アルノルト様が抱えているものの重さを改めて実感する。
彼は続けて、私をじっと見つめて言葉を紡いだ。
「この場所が襲撃される可能性がある。リリア、お前はここにいては危険だ。今すぐ、安全な場所に逃げろ」
彼の真剣な目が、私にそう告げていた。
だが、私の心は動揺とともに、ある決意が揺るぎないものになっていく。
「アルノルト様、私は……私は逃げません」
「何を言っている。お前が巻き込まれる必要はない」
彼の言葉には明らかに私を守りたいという意志が込められていた。
だが、それでも私の心は変わらなかった。
今、この時に彼と一緒に戦うことが、私にとっても大切な意味を持っているのだ。
「アルノルト様……私も、あなたと一緒に戦いたいんです。少しでも、あなたの支えになりたい」
そう言った瞬間、アルノルト様は驚いたように目を見開き、私をじっと見つめた。
彼の瞳には、私が想像もできなかったような複雑な感情が宿っているようだった。
「……本当に、頑固なやつだな」
諦めたようにため息をつきながらも、彼はどこか微笑んでいるようにも見えた。
そして、私に短剣を手渡し、低い声で言った。
「これを持っておけ。敵が近づいたら迷わずに振るえ。いいな?」
その短剣を受け取った時、私は彼の覚悟を肌で感じた。
私をここに残すことは、彼にとっても大きなリスクだということはわかっていた。
それでも、彼は私の決意を尊重してくれたのだ。
「ありがとうございます、アルノルト様」
彼にしっかりと頷き返すと、アルノルト様も短く「行くぞ」とだけ言い、先頭に立って通路の奥へと歩き出した。
私はその背中にしっかりとついていくことを決意し、足を踏み出す。
しばらく進むと、通路の先から小さな明かりが見えた。
奥に潜んでいたのは、先ほどアルノルト様が言っていた反乱を計画している貴族たちの一味だった。
数人の男たちがこちらに気づき、鋭い視線を向けてくる。
「貴様ら、ここで何をしている!」
アルノルト様の凛とした声が響き渡ると、男たちはすぐに武器を構え、戦闘態勢に入った。
私の心臓は激しく鼓動し、手に握った短剣がじんわりと汗で湿るのがわかる。
けれども、私にはアルノルト様がいる──それが何よりも心強かった。
「リリア、俺の後ろに下がれ!」
彼は鋭く指示を出し、私を守るように立ち塞がった。
彼が振るう剣は見事なもので、彼の冷静さと正確さが戦場の中で際立っているのがわかる。
敵が次々と倒されていく様子に、私はただ見惚れていた。
だが、そんな私を狙ってか、後ろから一人の敵が突然飛びかかってきた。
その動きに気づいたアルノルト様が、瞬時に私を庇うようにして振り向く。
「リリア、危ない!」
私を守るようにして身を寄せたアルノルト様が、彼を一瞬で倒し、私の肩を掴んで支えてくれた。
その時、彼の手の温かさが伝わってきて、胸が高鳴るのを感じる。
「……アルノルト様」
「俺がいる限り、お前には指一本触れさせない」
彼の言葉に、胸が熱くなる。
普段は無口で冷たい彼が、今この瞬間だけは私を全力で守ろうとしている──その覚悟が、彼の背中からはっきりと伝わってきた。
私はアルノルト様に守られている安心感と共に、彼に対する想いが一層強くなるのを感じていた。
そして、この危険な戦いの中でも、彼と一緒にいられることが何よりも心強いのだ。




