第六十話 燃ゆる古都、揺れ動く影 その十九
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盛り上がる鏡黎館側に負けじと青霊堂の生徒達も声を張り上げ、晴人を鼓舞する。まだ二戦目だというのに会場のボルテージは留まることを知らず、両生徒の声援で演習場は包み込まれた。
一条もまた晴人に煽られた仕返しと言わんばかりに余裕たっぷりといった顔を晴人に向けた。
そんなクラスメイト達を鼓舞する一条を横目に成坂は二条に声をかけた。
「晃君。倉宮君ってどんな陰陽師なの?」
「僕に聞かないでくださいよ。僕だって直接会ったことはないんですから。響磨が僕らに話してくれたことが全てですよ」
そんなことは成坂も分かってる。この京都で倉宮家の名を聞かなかった日はなかったけれど、倉宮晴人という名を聞いたことは一度もなかった。日本の中心が京都から東京に移ったのと時を同じくして倉宮家は拠点を東に移した。
現当主の倉宮晴信もまた京都で幼少期を過ごし、結婚後、関東での倉宮家の勢力を伸ばすために東京に移ったと聞いている。それくらいしか倉宮家に関する情報を掴むことができなかった。
だから、倉宮晴人の持つ異質さが気になってしょうがなかった。陰陽術を学んでたった二週間だというのに、あの舞台に立っている彼はどの青霊堂の陰陽師よりも強者だと思えてしまう。
「ただ、底が知れない、という印象が強いですね。響磨が負けるとは思いませんが、正直、元樹がああも簡単にやられるとは思いませんでした」
二条の言葉に成坂も頷いた。あの決着はあまりにも早過ぎた。
陰陽師としての直感が倉宮晴人という陰陽師に危険信号を出している。彼にはそう思わせる何かがある。
恐怖とはまた違った不気味な焦燥感が成坂の胸の中を渦巻いていた。
「でも一応、想定通りなんだよね?」
声を抑え、隣に座っている二条にだけ聞こえるように成坂は話しかける。二条も悩む素振りをして口元を手で覆い、成坂の言葉に反応する。
「倉宮晴人が頭から出てくるというイレギュラーはありましたが、計画に支障はないようです」
「介入はどれくらいから?」
「あちらの気分次第ですよ。約定が交わされたのは結果の部分だけですから。過程はこちらが用意しないと。なのでいつでも動ける準備をしておいてください」
そう言うと二条はソファから立ち、控室から出ていった。成坂は携帯の画面を少し確認し、すぐに晴人と向かい合う一条へと視線を移した。
一条は左手に持って掲げていた刀を腰に戻し、晴人を睨みつける。
晴人もまた不敵な笑みを浮かべ、一条に向かい合う。
『両塾代表者の登場を確認しました』
無機質なアナウンスが観客を黙らせる。声を張っていた観客は口を閉じ、席から立っていた者も腰を下ろす。従順に機械音の言葉に従った。
何故なら、彼らはこの数秒後に起こった光景を覚えている。ものの数分前、このアナウンスの数秒後、片方の代表者は壁を背に倒れていた。
皆が分かっている。この時点から試合が始まっているのだと。
気を抜けばまた見逃すかもしれない。一瞬でも別のことに意識を割けばその間に終わっているかもしれない。数刻前の試合は両塾の生徒、そして、この試合を見ている者にそれだけの衝撃を与えていた。
『それでは代表戦第二試合』
誰もが息を呑む。緊張の糸が限界まで引かれ、あらゆる音が静止する。喉を鳴らす音でさえ、誰の耳にも届いていない。見る者もまた、目の前の闘争に引き込まれていた。
一条は刀の柄を握り、両の脚に力を込める。
相対する晴人はその佇まいを変えることなく、ただ正面に立つ人間に身を向ける。けれど、その視線も意識も「敵」に向けられていた。
それが直感的に感じ取れてしまう一条は眉間に皺を寄せ、晴人を更に強く睨んだ。
自身が一条響磨であるが故に、京都九家に生まれたが故に、どこまでも家の歴史とそれを凌駕する陰陽御三家と比較されてきた。
この計画を父から話された時、遂に来たと思った。家を継ぐ者として、何より一人の陰陽師としていつまでも倉宮家の風下に立ち続けることに辟易していた。
父は言っていた。これは四百年の悲願だと。永く終わりの見えない時間を過ごし、その血で世界を染め、理を築いた。
この戦いは始まりの鐘。開戦の狼煙であり、決別の宣言。
『開始してください』




