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あやかしばかし  作者: 東上春之
第二章 燃ゆる古都、揺れ動く影
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第五十一話 燃ゆる古都、揺れ動く影 その十

更新です。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非フォローしてください。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も書いているので是非読んでみてください。

 そんな言い訳を頭の中で並べてあの日、羽月の手を引いた。

 羽月の人生を勝手に変えた。その責任を取るために守ると言った。

 だから、彼女が答えを求めているのなら責任をもって答えなければいけないというのに。その言葉を口にすることができない俺はどれだけずるいのだろう。

 自分への言い訳を羽月にも押し付けて、それなのに傲慢にも彼女を縛り付けている。終わりが来る?そうさ、終わらせなきゃいけない。こんな歪で、一方的な関係は。

 何時までもこのままなんてありえない。

 それが分かっていてそれでもわがままにエゴを突き通せてしまっている今の状況。誰のお陰で成立しているかなんて、言われなくても理解している。誰を傷つけて日々を過ごしているのかも。


「俺が羽月と羽月の家族を倉宮家側に引っ張ったのは一条家に利用されると思ったからなんだ。家族を人質に取られたら何をさせられるか分からないと思った。だから、丸ごとこっちに来てもらった。その方が羽月にとっていいと思ったから」


 その考え自体に嘘じゃない。それが全てじゃないだけで。


「人の人生を好き勝手使い捨てるような真似が許せなかった。今思えば感情に任せた、後先を考えてない行動だった。その結果、羽月に負担をかけることになったのは、本当にごめん」


 羽月と敵対したくないのではない。

 羽月を傷つけたくない、羽月に悲しい思いをしてほしくない。羽月の人生を一条家如きに無茶苦茶にさせたくない。

 そんな身勝手で、独善的で、傲慢な思いから彼女の手を掴んだ。どんな綺麗事を並べようとその事実は変わらない。

 晴人は目を伏せ、力なく指を折る両の手に目を向ける。


「でも、」


 両手を力一杯握り、晴人は顔を上げる。


「俺は後悔してない。凄く自分勝手なことだけど羽月の手を離さなかったことは間違ってないと思ってる。羽月が色々悩みを口に出してくれたから俺も話すけど、正直、羽月と手を繋いだり、こうして抱き締められたりするのはめっちゃ心臓が痛い。バクバクすんのが止まんなくてちょっと辛い」


 急に話の流れが変わり、羽月は困惑する。自分から空気を暗くしておいてなんだが、晴人がカラカラと明るい声で悩みを話し出し、スキンシップについての小言を口にし始めた。


「羽月は可愛いから一緒にいるだけで普通に緊張するんだよね。朱雀が羽月をうちで預かるって言い出した時は一瞬頭が真っ白になったし。プライベートな羽月を俺だけが知ってるって特別感は凄いけど、それを隠しながらクラスの人達と関わるのは変に委縮しちゃうし」


 突然の暴露に羽月は顔が赤くなる。今までそんな素振りを見せなかった晴人は自分の見えないところでそんな風に自分のことを思っていたのかと驚きと恥ずかしさが同時に込み上げてくる。


「髪はサラサラだし、目は大きいし、顔立ちは美人だし、手足は長くてスラッとしてるし、性格は明るいし」

「ちょちょ、急にどうしたの?というか普段なんともなさそうにしてるけど意外と晴人君って私のことそんな風に思ってくれてたんだ。へぇ」


 赤面した顔を見せないように羽月は晴人の首に回した腕に自然と力がこもる。

 家にいる時、晴人は凄く気を遣ってくれていたが、あれも彼なりの照れ隠しだったのか。そう思うと更に顔が熱くなる。


「まぁそりゃそうでしょ。俺は友達とか知り合いとかそんなに多くないけど羽月より可愛い人は見たことないよ」

「そ、そぉなんだ。へぇ、確かに私は髪も目も他の人達とは違うから目立つことが多かったけど、晴人君は可愛いって思ってくれるんだ」

「そうですよ。可愛い思いますよ」

「えーやけくそになってる。もっとちゃんと言って」

「なんか急に元気になってない?」

「ねぇ言って、可愛いって言って」

「・・・可愛いよ。今まで出会った誰よりも」


 あまりにも格好をつけた言葉に晴人は耐えられず部屋から出ていこうと床に手をつくと制服の背をつままれ、振り返ると左手で口を隠した羽月がこちらを見ていた。

 窓から差し込む陽の光に照らされてその髪が、その瞳が、宝石のように輝いているように見えた。


「晴人君もかっこいいよ。今まで出会ったどんな人よりも」


 その瞬間は絵画のようで、その光景は映画のようで。その表情に、その声音に、俺はまた心を奪われた。

 顔が熱い。心臓がうるさい。そして、彼女の思いを無下にしている自分が憎らしい。

 羽月に無理を押し付けて彼女を縛り付けている。それなのに浮かれているなんて、ありえない。

 すっと心臓に通っていた熱が冷めていくのが分かる。まず頭が最初に冷静になって血の気でも引いたように全身の体温が下がっていく。軽く瞬きをすればほら、もう元通り。

 京都に来た目的を忘れるな。

 やるべきことを果たすためにこの地に足を踏み入れたはずだ。

 晴人は背中を掴む羽月の手を丁寧に外し、制服の内ポケットにしまった封筒の存在を確かめて立ち上がった。


「ちょっと飲み物を取ってくる」

「あ、うん」


 そう言って晴人は部屋を、そして、家を出ていった。

 そうとは知らず部屋に一人残された羽月は五分経っても戻ってこない晴人を不審に思い、階段を降りて居間に向かうとそこには晴人の両親しかいなかった。


「あの、晴人君が来てませんか?」

「ん?来てないわよ」


 楓の言葉を聞き、晴人はどこかに向かったのだと推測した羽月はすぐに踵を返して玄関に向かおうと廊下に出ると白髪褐色肌の丈の短い特徴的な和装をした少女が腰に手を当てて立っていた。

 羽月が足を止めると干将はゆっくりと距離を詰め、彼女の目を真っすぐ見据えた。


「部屋に戻って大人しく待っていて」

「晴人君はどこに向かったの?」

「それを答えないことくらい賢いあなたなら分かっているでしょう?」


 晴人と共に生活するようになって彼と契約している式神を紹介してもらった。朱雀、酒呑童子、干将、莫邪、鵺の五人。いづれも特異な術を使う強力な式神で晴人が懇切丁寧に教えてくれるものだからまた更に秘密にしなければいけない情報が増えた。

 式神達の中で一番話したのは多分、干将だ。彼女は飄々としているようでいつもこちらを気遣ってくれて快適に過ごせるように気を配ってくれた。

 そんな優しい干将だからこそ、こちらを刺すような鋭い視線がその言葉の強さを物語っていた。


「私は、今のままだと足手まといでしかない?」


 干将の雰囲気に気圧され、羽月は悔しそうに手を強く握りしめた。それを見て干将はどこかの誰かと似ているなと頬を緩めた。


「羽月がそこまで考える必要はぁないっ!」


 干将は勢いよく羽月の眉間に指を弾いた。ぱちんとよい音が鳴ると「いたっ」と羽月がおでこを押さえてうずくまり、小柄な干将を涙目で見上げた。


「人にはそれぞれ領分があーる。羽月には羽月の、晴人さまには晴人さまの領分があって、今はそぉいう時間なの。だから、羽月は世界で一番安全なここで帰ってくるのを待つ。分かった?」


 優しく説くように話す干将に羽月は自分に姉がいたらこんな感じなのかなと少し嬉しくなった。確かに干将の言うことの方が正しい。

 晴人は問題解決に向けて彼にできる最大限の努力をしている。その力になるのなら何も隣に固執することはない。今日、晴人は自分がどれだけ疲れているのか把握していなかった。

 客観的に晴人を見ることも力になる方法の一つではないか。晴人が安心して帰ってこれる場所、そこで彼を支えることでも恩に報いることができるはずだ。


「分かった。干将の言うことに従う。でも」

「冷静になって、数十分前の自分の言動がもの凄く恥ずかしぃ。でしょ?」

「見てたの!ってそうか普段から晴人君の中にいるんだっけ」

「そぉ、だから全部見てたしぃ、晴人さまがどぉ思ってたかも知ってる」

「式神って主の心理まで分かっちゃうの?」

「普通はそんなことないけどねぇ。私達は契約の仕方も、その期間も、密度も何もかもが他の陰陽師と違うから。特殊な方だねぇ。羽月が恥ずかしそうにしてるのはちょっと面白かったよ」

「うぅ、だって晴人君に可愛いって言ってもらえて嬉しくて」

「人はいいね。どんなことにも一喜一憂できる。それだけは少しだけ羨ましい」


 羽月はそこに干将という式神の本音を見た気がした。羨ましいと口にした時だけ干将の目が違って見えた。真っすぐこちらを見ているはずなのに、その奥の人間という存在に対して目を向けているように見えた。

 どうしてそんなことを思うのか見当もつかないが、干将が言ってくれた言葉を胸に羽月は膝に手をついて起き上がった。

羽月は周りとは適度な距離感を維持しながら生きてきたのでその距離を自分から近づけようと思ったのは青霊堂では晴人と奏だけだったのですが、流石干将お姉ちゃん。懐の深さと思慮深さに定評があります。

干将は晴人の式神の中で最も和を重んじる子です。だから、羽月が早く馴染めるように常々気にかけています。その理由はいずれ。

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