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あやかしばかし  作者: 東上春之
第二章 燃ゆる古都、揺れ動く影
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第四十六話 燃ゆる古都、揺れ動く影 その五

更新です。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非検索してみてください。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も書いているので是非

 父はそう言ったが、晴人はそう簡単に彼らを信用する気にはなれなかった。晴人はまだ彼らの人となりを知らない。朱雀から聞いたのは倉宮家の分家には朝倉、高倉、和倉があり、それぞれ倉宮家の目、耳、手足として妖退治に尽力してくれているということ。

 その他にも血縁に関係なく古くから代々倉宮家に仕えてくれている家々や倉宮家に助けられた人間達によって構成されている組織など倉宮家を支える家が多数あるそうだ。

 他の御三家や一条家を初めとした京都九家も分家や仕えている家があり、京都の陰陽塾では結果的に派閥色が出てしまっていて鏡黎館では御三家の縁家と京都九家の縁家とそれ以外で塾生が対立してしまっているらしい。

 対立といっても九家の方が一方的にライバル視しているだけで御三家の方は特に相手にもしていないのだが、傍から見れば両陣営が対立しているようにしか見えないだろう。

 そんなことを朱雀から聞いていた晴人だが、話を聞き終えて一つ疑問が浮かんだ。朱雀はそれらの説明をしている時、一言たりとも心象を語らなかった。

 式神達や同居人である羽月から陰陽の歴史を学んでいく中で御三家が担ってきた役目や御三家が示してきた陰陽家としての在り方について朱雀は頻繁に言及していた。こうしてほしいといったことは口にしなかったが、朱雀の中で確固としたものがあるのだろうと晴人は感じていた。

 だから、晴人は朱雀が京都の陰陽師達に対して情報としての事実のみしか口にしなかったことに引っ掛かりを覚えていた。朱雀がわざとそう思うように誘導しているとは思わないが、少なくとも千年この国を見てきた中で現在の彼らに対して何か思うものがあるとは考えていた。

 まだ出会って一ヶ月も経ってはいないが、晴人は自身の式神達を両親の次に信頼している。彼らはよく自らには感情がないだとか、この身体が持つ熱は単なる作りものだなんて言うが、そんな言葉よりもよっぽど多くの暖かさを貰ってしまっている。

 日々の生活の世話をしてもらっているだけでなく、常に自身の傍にいて一人にしないようにしてくれている。両親と離れ離れになって暮らしていたうくっつとした日々を忘れさせるように彼らから暖かさを貰った。

 彼らからすれば式神として当然のことをしているとしても晴人にとってそれらは、その時間は両親との「日々」に劣らない暖かさを持った「日常」だった。

 晴人がいの一番でこの倉宮本家に向かったのはもちろん両親に会いたかったのもあるのだが、全幅の信頼を置く式神がああもこともなげに説明した彼らとどのようにコミュニケーションを図っていくか直接会って確かめたかったというのが大きい。

 案の定、彼らは羽月を「見た」。陰陽家の跡取りの妻として相応しい陰陽師であるのかと勝手に、不躾に、誰の断りもなく、彼らは見た。

 もしかしたらその考えはこちらの勘違いで単に見慣れない陰陽師を訝しんだだけかもしれない。自分達が仕える家を継ぐであろう陰陽師の近くに見知らぬ者がいたからつい気になっただけかもしれない。

 だが、晴人はそれを好意的に受け入れる気には全くならなかった。悪意の有無などという簡単な話ではない。ただ、彼らが当然のように行っている品定めのような視線に心底腹が立っているだけなのだ。


「別に厳しい顔なんてしてないよ。する必要がない」

「でもその理由はある。そうだろ?」


 父の見透かすような言葉に晴人はそっぽを向いた。

 いつだってそうだ。こうしてへそを曲げていると父はすぐにそれを見透かしてくる。何でも分かっているかのようにこちらの前の椅子を引く。


「なぁ晴人。羽月ちゃんはお前にとってどういう子なんだ?」

「いや、親から異性について質問される子供の気持ちって考えたことある?」

「そう言うな。そういう意味で聞いてるんじゃないってことくらい分かる息子だろ?」


 どうやら簡単には逃がしてくれないようだ。

 晴人は椅子を後ろに押し、身体を横に向けて背もたれに頭を預けた。父の目を横目で少し見て視線を外す。そんな晴人にくすっと笑いながらも晴信はただ息子の言葉を待った。


「・・・守ると約束した。それ以上は言いたくない」


 晴人はぶっきらぼうにそう言った。一条家からの襲撃を退けたあの日、晴人は何があっても守ると羽月と約束を交わした。彼女に降りかかるであろう厄災を払い、敵を退けると誓った。

 それ以上でもそれ以下でもない。少なくとも今は、彼女の騎士であり続けるべきだと晴人は考えていた。彼女にとってのそれ以上になるべきではないと考えていた。

 一条家が倉宮家と争おうとしているという情報は半ば無理やりに羽月から教えてもらったことだ。晴人は自身が抱える秘密を包み隠さず全て羽月に話した。契約している式神や陰陽塾に来た目的など彼女が誰かに漏らせばたちまちに大騒ぎになるような情報を晴人は話した。

 式神達には強く反対されたが、結果として羽月はその瞳の力や彼女の家、そして一条家の気運について話してくれた。羽月が対等を好む性格だと信じた分の悪い、いやそもそも賭けとして成立していないくらいの賭けだったが、彼女は話してくれた。

 そのせいで羽月を狙い、青霊堂は襲撃された。

 だから、晴人はそれを起こした責任を取る必要があると考え、巻き込んでしまった羽月を守ると約束した。

 その言葉に嘘偽りはなく、何があろうと羽月を守り通す意思と覚悟はある。ただそこに一抹の想いがのってしまっていることもまた事実であった。

 生まれて初めて綺麗だと思える人に出会った。

 それは今まで出会ってきた人々を卑下する意味ではなく、ただ純粋に非現実を現実に体現したような存在に対して綺麗だと思った。確かに彼女は特別だ。浮世離れしたその姿は同居までしているというのに一向に慣れる気配がない。

 力強い碧の瞳は彼女の芯の強さを表し、透き通る黄金の髪は彼女を輝かせ、鈴の音のように澄んだ声で名前を呼ばれる度にこの心臓は際限なく音を立てる。

 だから、この歪な関係は早く終わりにしなければならない。

 本来のあるべき形に戻さなければならない。彼女は家族の元に戻るべきで、いつまでも同い年の異性の家に居させてはいけない。彼女の日常を取り戻し、当たり前の日々を一刻も早く取り返さなければならない。

 そしてそこに、倉宮晴人という人間はいるべきではない。

 真波羽月の日常に、当たり前の日々に倉宮晴人は存在するべきではない。


 俺のせいで巻き込んだ。俺が聞き出したから狙われた。俺が近くにいると、関わると彼女は傷つく。倉宮家を良く思わない存在は一条家だけじゃない。妖だって当然こっちを狙ってくる。これからも厄介事は向こうから舞い込んでくるだろう。


 だから、さよならと言うために彼女を守らなくてはならない。彼女を守りきって、彼女の日常を取り戻して、倉宮晴人は真波羽月の世界からいなくならなくてはいけない。

 それでも羽月と日々を過ごしたいとどうしようもなく思ってしまう愚かな自分が生まれて初めて嫌いになりそうだった。


「そうか」


 晴信はそれだけ言って席を立ち、晴人に「そろそろ客間に行こうか」と声をかけた。晴人も父の後について居間を出た。

 廊下を曲がり、玄関から通った物とは違う大襖を開け、晴人は上座から客間に入った。客間は広さはあるものの長机といくつかの座布団だけの質素な、けれど静かな華やかさを感じさせる趣きで機能性を求める東京の家との違いを改めて感じるものだった。

 先に部屋に入った晴信から入ってすぐのところに置いてある座布団を受け取り、晴人は父の右隣に腰を下ろした。


「さて改めて皆に紹介しよう。息子の晴人だ」

「初めまして、倉宮晴人です。よろしくお願いします」


 父の紹介に合わせて座ったまま軽く会釈をした晴人。来客達は長机の左右に分かれて五人座っており、晴人の挨拶に一同、晴人よりも深く頭を下げた。

 皆が顔を上げたのを見て晴信は客達の説明を始めた。


「まず、右手に座っているのが倉宮家の分家の方々で前から朝倉家当主「朝倉達彦」、高倉家当主「高倉純義」、和倉家当主「和倉佑真」だ。この三家は古くから倉宮家を支えてくれている関係の深い家々だ」


 晴信に紹介され、改めて頭を下げる分家当主達。晴人も「よろしくお願いします」と声をかけた。

 朝倉達彦は少し大きめな眼鏡をかけた中年の男性で普段から着ているのか和装に身を包んでいる。

 その後ろに座るのが高倉純義。短く整えられた前髪が特徴的で大柄なこちらも中年の男性だ。

 そして、晴人から最も遠くに座っているのが和倉佑真である。三人の中では最も若く、と言っても晴信より五つ年上の端正な顔立ちをした男性だ。

 ちなみに晴信は今年で四十一歳になる。御三家の中だけでなく、陰陽界全体で比較しても晴信は特に若くして陰陽家の当主となった。陰陽師として晴信は飛び抜けて優秀だった、彼の父、つまり晴人の祖父である倉宮晴重が早くに家督を継がせたほどに。


「そして左手に座っているのが倉宮補佐家衆代表の「蓮ヶ谷佳乃」と阿座下衆代表の「早天寺涼」だ。倉宮補佐家衆は分家の三家以外に古くから倉宮家に仕えてくれている京都の家々のことだ。阿座下衆は全国にいる協力者達の組織のことだ」


 二人も分家の三人と同じように深々と頭を下げた。

 蓮ヶ谷佳乃は倉宮補佐家衆という倉宮家に仕える家々の共同体、その代表を務める老齢の女性だ。その奥に座るのは早天寺涼。こちらは倉宮家の日本各地での活動を支援する組織、阿座下衆の代表の男性だ。


「今回彼らがうちに集まった理由は晴人、お前がここに来たからだ。概ね情報の共有は終わっている。京都の情勢がこちらにとって不利になりつつある今、我々の行動指針は二つ。先に動くか後に動くか。晴人、お前はどう考える?」

羽月の瞳の色である「碧」は青色ではなく、緑色の方です。作中でも今後恐らく羽月以外に碧の瞳と表現するキャラは出てこないと思います。作者的こだわりポイントかもです。

キャラ名:朝倉達彦あさくらたつひこ高倉純義たかくらすみよし和倉佑真わくらゆうま、蓮ヶはすがや佳乃よしの早天寺涼さてんじりょう

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