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あやかしばかし  作者: 東上春之
第一章 出会いと覚醒
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第三十八話 出会いと覚醒 三十八

更新です。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非検索してみてください。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も連載しているので是非。

 晴人は居間から足早に出て寝室に移動し、携帯を起動した。そこには一通、そして一言「京都に動きあり」とのメッセージが表示されていた。このメッセージを目にした瞬間、心臓を握られる感覚が走った。

 あの父がこんなメッセージを送ってくるくらいには京都の情勢は想定外の方向に傾いてしまったのだろう。あくまでも現状得られた情報を、あくまでも個人の感性による推測をするのならば十中八九一条家が京都で倉宮家に対して行動を起こした。

 すぐにそう考えてしまうくらいには晴人の一条家に対する不信感は高まっていた。この青霊堂への襲撃も京都で行動を起こすための布石だったのかもしれない。だが、羽月の考えを信じるのなら彼女が一条家についての情報を晴人に話したことが一条家側に伝わり、襲撃に至ったらしい。

 そうであるならば羽月の口封じは偶発的なものであり、京都での出来事との因果関係はないと言える。だが、晴人にはどうしてもそうは思えなかった。羽月から情報が漏れることすらも想定されていたのではないかと思えてしまう。


(でもこれはどっちだ?玉藻前か、一条家か、もしくはその両方か)


 晴人は考える、父がこの文言でこのメッセージを送ってきた理由を。この形でしか連絡を取れなかった理由、この形でメッセージを送った理由。


(京都で何が?)


 確実に「京都」で何かが起こっている。そしてそれはこちらの出来事と連続して起こっている。温羅を連れ去ったフードの男の一団もこの件に関わっていると考えてよいだろう。彼らには彼らに命令を与える第三者がおり、彼ら以外にも命令を受けて動いている人間がいるはずだ。

 だが、そうだとしてもやはりおかしな、いやおかし過ぎる点が残っている。

 父の言葉を深読みしないなら「京都」を中心に何かしらの問題が動き出したということ。そこに人と妖の区分はない。つまり、陰陽師と妖、このどちらもが倉宮家に対して行動を起こしたということになる。でなければあの父がこんな形のメッセージを送ってくるはずがない。

 もしかしたらメッセージが探知されており、それを避けるために短文で要点だけ伝えたのかもしれない。であればこの家も変えなければなるまい。仮にメッセージが電子的に追跡されているとしたら住居が露見してしまうと格好の餌食になってしまう。


(酒呑童子、俺の中にいるなら状況はもう理解してるよな)

(あぁ。だが今出来ることはないぞ)

(この状況、酒呑童子はどう思う?)

(考えとしては同じだな。鵺の結界は陰陽術でしか突破できないが、並大抵の陰陽術では干渉することすらできない。だからと言って大丈夫だと慢心するのも危険だ。転居も視野に入れておいていいだろうな)

(分かった。朱雀達にも伝えといて)


 晴人は目を閉じ、深く息を吸った。吸って、なんとなしに息を止めて大きく息を吐いた。十秒ほどして目を開けると少し冷静になれた気がした。

 今焦ってもどうしようもない。状況の推察は既に済ませた。父からのメッセージへ返信はしない。

 だが、メッセージに目を通したことは伝わっている。父ならこちらの意図を汲んで別の連絡手段を用意してくれるはずだ。

 晴人は携帯をスリープ状態にし、居間に戻るために部屋を出ると丁度よく朱雀が湯の準備が整ったと知らせに来た。着替えも既に持っていったそうで式神達の周到さに舌を巻く晴人であった。朱雀と話してそのまま洗面所に向かい、服を脱ぎ、浴室に入った。

 シャワーを浴びていると鏡に映る自分と目が合った。


 鏡の中の俺はどんな顔をしていただろう。


 風呂を済ませ、浴室から出る。身体を拭き、服を着終えると当たり前かのように朱雀がドライヤーを持って鏡の前に立っていた。もう何を言おうと朱雀はあのドライヤーから手を離さないだろうなと半ば諦めたように椅子に座った。

 晴人は朱雀のされるがままに身を任せ、朱雀は満足そうに晴人の世話をした。髪を乾かし終え、整える朱雀の手の動きが止まり、晴人はお礼を言うと椅子から立ち上がり、洗面所を出た。

 居間に戻ると羽月は無表情でニュース番組を見ていた。晴人は座椅子に座りながら羽月に声を掛けた。


「いきなり席外してごめん。ついでにお風呂にも入っちゃったし」

「気にしないで。話の途中でいなくなったこととか、三十分近く一人にしたこととか、何も言わずにお風呂に入ったこととか全然気にしてないから」

(めっちゃ気にしてるじゃん)

「ごめんって。話も途中で抜けちゃったし、三十分近く一人にしちゃったし、何も言わずにお風呂入ってごめんな」

「まぁ半分くらい冗談だよ。けど」

「けど?」

「一人は寂しかったんだよ」


 羽月はテレビの電源を消し、座椅子から身体を乗り出して晴人の胸に手を当てた。

 寂しいと彼女は言った。晴人はその言葉に同情ではなく、むしろ驚きを覚えた。彼女と晴人は同じだ。お互い両親と離れ離れになり、今までとは違う場所で生活をしていく。晴人は一般人から陰陽師に、羽月は監視者から逃亡者に立場を変えた。

 彼らは同じで、でも彼女はどこか晴人と違った。彼女は彼女を認めていなかった。彼女自身を許していなかった。実際に間者として動いてきたのがどれほどか晴人には分からないが、晴人の目には羽月は常に何かを後ろめたく思っているように見えた。

 今の晴人にはそれが何か分かる気がした。その何かが彼女の心を押し潰して彼女を不安定にさせているのだ。

 一人になって不意にそのことを思い返してしまったのだろう。目を逸らして考えないようにしていたそれが今、彼女の瞳を揺らしている。彼女の人形よりも端正な顔立ちが、朱よりも紅い唇が、エメラルドよりも透き通った瞳が歪んでいる。

 羽月はもっと自分の心を表に出さないと思っていた。

 だから、羽月がこんなにも負の感情を表に出すなんて思ってもいなかった。寂しいなんて言うと思っていなかった。

 羽月がこうも自分の心の内を言葉にしてくれたのだ。その言葉を疑うほど晴人は人間不信に陥っていないし、羽月に対してもう晴人は他人以上の感情を抱いていた。


「ごめん、一人して。でもこれからは一人じゃないから。俺もいるし、朱雀だっている。この家が羽月にとっても帰る家になるよう頑張るから羽月も自分の家だと思って過ごしてほしい。あとその、ちゃんと守るから、羽月のこと。約束もあるけど、それ以上に俺がそうしたいから」

「もしかして告白?」

「えっいやそこまでは考えてないんだ、けど」

(羽月の弱みにつけこんでるみたいになっちゃったかな)

「私は告白でもいいんだけどな」

「・・・それがさっき「婚約者ができても」って言ってた理由?」


 その晴人の言葉に初め、羽月は疑問符を浮かべていた。だが、彼女の中で考えがまとまったのか数秒後には肩から力が抜け、晴人の胸に伸ばしていた腕をおろした。


「そう、かもね。私って今凄く不安定だから。いじわる言っちゃった、ごめんなさい」

「謝らないで。羽月が悪いわけじゃないんだし。だからあの時答えなかった答えを言うよ」


 晴人は胡坐をかいていた脚を組み直し、正座に座り直した。


「正直、これから羽月と一緒に暮らすのはめちゃめちゃ変な感じがする。俺は今まで誰かを好きになったりとかお付き合いしたこととかないから羽月とどういう距離感でいればいいのかもまだ上手く掴めてない。婚約者どうこうって話も俺にとっては現実的じゃないから婚約者ができたとして羽月への態度が変わらないって断言は、多分できない」

「だからいつか君を守る役割に終わりが訪れると思う。いつか来るその日まで俺は君を守る。改めてそう誓うよ」

人生のネタバレ「死ぬ」っぽいな

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