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あやかしばかし  作者: 東上春之
第一章 出会いと覚醒
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第三十七話 出会いと覚醒 三十七

更新です。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非検索してみてください。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も連載しているので是非。

 今後の方向性を決め終え、朱雀と羽月が買ってきてくれたケーキを食べていると羽月が「そう言えば」とフォークを置き、晴人に向き直った。


「ねぇ晴人君。晴人君が陰陽の世界に足を踏み入れる前の君について教えてくれない?」

「そういえば奏と試合する前に約束してたっけ。でもそんなに面白くないよ」

「面白さなんて求めてないよ。晴人君のことがもっと知りたいの」


 美少女にそんな可愛いことを言われて断れる男がいるだろうか。いや、いない。

 手に持った湯呑をテーブルに置き、晴人は座椅子の背もたれに身体を倒した。奏との試合前に羽月と青霊堂に来る以前の普通の生活について話す約束をした。

 だが、彼女の声音からはあの時とは違う意味がこもっているように思えた。


「じゃあ中学校の時のことでも話すか」


 そこから数時間ほど晴人の学生時代の思い出を話し、干将たちによる茶々を挟みながら語っているといつの間にか夕方が過ぎてしまっていた。


「もうこんな時間か」

「お爺さんみたい」

「そんなにか?」

「冗談だよ。そしたらお風呂を沸かしてくればいいのかな?朱雀さん」

「いえ、今日は疲れているでしょうからゆっくりしていなさい。莫邪、お願いできますか?」

「分かりました」

「干将、私達はこっちです」

「はぁい。晴人さま、待っててね」


 干将らしい独特な間合いでスキンシップをしてくるものだから何度されても慣れないなと晴人は笑みを浮かべた。

 そんな晴人と式神達の関係性を見て羽月は羨ましく、そして異質に見えた。晴人が陰陽師として力を自覚するまで彼らは晴人から認識されなかったと晴人は教えてくれた。その時間を明確に口にはしなかったが、少なくとも五年以上、ともすれば十年以上彼と契約していることになる。

 その期間だけで言えば、伝統的な陰陽家らしい後継者育成だと言える。陰陽御三家、京都九家に代表される歴史のある陰陽家では幼い頃から陰陽師としての教育を施すことはおかしくない。

 おかしな点で言えば晴人が幼い頃から複数の式神と契約し、その繋がりを維持できていたことだ。晴人の話では数日前に妖に襲われ、その日から陰陽師を目指したらしい。つまり、式神や妖、陰陽について知ったのはつい最近ということ。

 それでいて晴人の契約している式神達は名と人の姿を持ち、聞いたこともない術を使っていた。明らかに式神として、いや妖としての格が二段も三段も違っていた。そんな式神との契約を十年以上もしていたとなると倉宮晴人という陰陽師はまだ陰陽術について深く理解していない現時点で青霊堂の誰よりも強い陰陽師なのかもしれない。

 潜在能力で言えば間違いなく晴人に比肩できる者はいないだろう。それはとても魅力的で同時にとても危うい。晴人の正しさの天秤が常に独善性の側に傾かないように周囲が手を握っていなければならない。

 そして羽月もまたそのうちの一人にならなければならない。それが朱雀と交わした誓約であり、晴人の傍にいるための条件。彼の正しさの一助になり、彼が彼であり続けられるように支えること。

 晴人が陰陽師を目指した理由である袂を別った式神との対話。その実現のために彼はこれから力をつけ、前に進み続けるだろう。


 彼の前進のために私は何ができるだろう。むしろ彼の歩みを止めるにはどれだけの壁が必要なのか。そんな壁に対して私にできることはあるのだろうか。いや、そうじゃない。その役割は晴人の式神達が担うのだ。

 私の役割は彼が倒れてしまわないように彼の隣で歩くことなのかもしれない。なんて思っちゃうのはおこがましいにもほどがあるけど、それはこれから少しずつ知っていければいいのかな。


「羽月は何かやりたいこととかないの?」

「やりたいこと?」

「んー陰陽師になっての目標とかしたいこととか」

「ちょっと前までは塾を卒業することだったよ。ある程度資格を取って卒業できれば陰陽局に就職か、力のある家にスカウトされる可能性もあったから」


 陰陽塾を卒業するためには一定の陰陽ライセンス取得と陰陽局からの払魔依頼を一定数達成することが必要だ。その過程で陰陽局や現地で協力する陰陽家から卒業前に個人的に声がかかるということがある。いわゆる青田刈りが陰陽界でも存在するわけだ。

 そうでなくても塾からの推薦など就職ルートはいくつもある。一般的な塾生はそちらが正規の卒業進路になる。晴人や奏のような力のある陰陽家出身の陰陽師は卒業後は実家を継ぐ。

 だが、羽月は違う。羽月の未来は定められてしまっていた。一条家に仕えるとしてもおそらくそれは陰陽師としてではない。諜報員、そして次代を継がせる母としての役割を課されるだろう。明日はあれど未来はない。先細りする人生のせめてもの抵抗として残された七年は好きなように生きようと思っていた。


「今は違うの?」

「んー秘密」


 こればっかりは晴人には教えられない。なぜなら「それ」は今や羽月の生きる指針になってしまったのだから。

 普段よりも物憂げに微笑む羽月に晴人もそれ以上聞かないことにした。今は聞いても答えてくれないような気がした。聞いたとしてもはぐらかされる気がした。

 ふとそんなことを考えているとポケットに入れた携帯が振動した。画面の通知には一件のメッセージが表示されていた。その文言を見て晴人は席を立った。


「そっか。ちょっと席外すわ」

Oh,my,God 愛のネタバレ「別れ」っぽいな

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