第三十四話 出会いと覚醒 三十四
更新です。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非検索してみてください。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も連載しているので是非。
真っ直ぐに見つめる晴人の瞳は羽月は奏と試合をした時の、こちらの持つ尺度では測れない自信を持った、羽月が興味惹かれた倉宮晴人の瞳だった。
(こういうところがずるいの君は)
「ふふっ。晴人君ってそんな恰好つけた言葉を言う人だったっけ?」
気恥ずかしさを紛らわせるようにニヨニヨとした笑みを浮かべながら晴人との距離を詰めた。腕を後ろで組み、下から見上げるように覗いてくる羽月に晴人は顔を逸らした。
「・・・一生懸命考えたんだけど」
からかってくるような羽月の声音に少し唇をとがらせる晴人。だが、横目に映った羽月の耳に朱が灯っており、こうしてからかってくるのは彼女なりの照れ隠しなのだと思うと晴人の口角が少し上がった。
晴人の口角が上がっていることに気が付いた羽月はぷくっと頬を膨らませ、顔を見られないよう晴人の胸に頭を預けた。
「似合ってなくはないけど、らしくはないかな」
「まぁあんまこういうこと言ったことないかららしくはないかも」
「そうだよ。最初からちゃんと言ってくれたら私だってこんなに悲しい思いをしないで済んだんだよ」
羽月はだらんと下ろしていた腕を伸ばし、晴人の背に回した。肩口に顔をうずめ、くぐもった声でそう言った羽月に晴人は抱き締め返すことができなかった。
「それはほんとにごめん」
「許してほしい?」
「もちろん」
そう晴人が言うと羽月は背中に回していた腕を解き、一歩分だけ晴人と距離を取った。ふと視線を奥にずらすと晴人が使用人だと言った女性が何やら電話で連絡を取っていた。彼女は羽月と目が合うと左手の人差し指を唇に押し当てた。
倉宮家の庇護下には入ると宣言したから彼女は関係者に連絡を取ってくれているのだろう。羽月は感謝を目配せで伝え、晴人に向き直った。
「私のことちゃんと守ってくれる?」
「守るよ。絶対に」
絶対に、だ。
「何が起こっても?」
「何が起こっても」
何が起こったとしても、だ。
「婚約者ができたとしても?」
「・・・ん?なんで急に?」
脳内にない単語の出現に晴人は疑問符を大量に浮かべた。何故急に婚約者なんてワードが会話の中に現れたのか、晴人には理解できなかった。どうして彼女はそんなことを言い出したのか。
「だって多分だけど私ってこれから晴人君の「家」でお世話になるんでしょ?」
「そうだな、「うち」で保護することになるからそうなるけど」
羽月と同じことを言っている、はずだ。口にしたことに間違いはないと思う。でもなんだ。この何かが違う、話し合っているけど、話が合っていない。
同じことについて話しているはずなのにボタンを掛け違っているような。
「違うよ。そうじゃなくて、晴人君と一緒に暮らすってこと」
婚約者という言葉を聞いた時以上の衝撃が晴人に走った。一緒に暮らす、つまりは同棲するということ。
「・・・は?え、いや、それは流石に駄目じゃないか?」
「ですが晴人様。彼女は今、帰る家がないのですよ」
確かに状況としてはそうなるだろう。通学し続けることと脅威から守ることを考えれば新たに住居を用意するまでの間は晴人の家で暮らすことになる。
そこまでは状況からなんとなく理解できる。そうすることが羽月にとって良いことで彼女との約束を果たすためにも晴人の家で匿うことの必要性は理解できる。
だが、年頃の男女がひとつ屋根の下で暮らすなんていくら陰陽の家が関わる事態とはいえあまりに受け入れ難い。
「そうなの。横浜に実家はあるけど、青霊堂に通うために今住んでる家は一条家から用意された家だからもうあの家には帰れないの」
「倉宮家の者に彼女の住宅を調べさせましたが、盗聴、監視用の術式や機器がいくつも設置されていました。また持ち物の中に位置情報を発信している物も入っていました。そちらは既に対処しましたが、家の方は放棄するべきだと思います。なので現在彼女は帰る家がないのです」
朱雀の情報を聞いて晴人は状況は既に動き出していると思い知った。そして今自分達がこの話をしている時点で敵からかなりの遅れをとっていることも理解した。
「てことは必然的に羽月を俺の家に住まわせる、と。なるほどね、なるほど?」
だから、朱雀が羽月を守るために晴人に提案したことは提案した内容以上の意味があると晴人は理解した。
「ということです。既に陰陽局に情報を渡したので取り調べは行われません。車は駐車場にあるので晴人様は先に家にお戻りください。真波羽月、あなたは私と買い出しです」
愛することで生まれ変わる




