第二十九話 出会いと覚醒 二十九
更新です。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非検索してみてください。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も連載しているので是非。
何か違う。出会ってまだ数日しか経っていないが、それでも晴人の様子がおかしいことに気が付かないほど彼に対して無関心であったわけではない。
むしろ、彼女は否定するかもしれないが、現時点での彼女の興味関心は彼だけに向けられてた。つい、数刻前までは。
羽月が晴人の方に振り向いたのはほんの少し、ほんの少しだけ彼女の瞳が晴人の隠蔽努力を上回ったから。羽月の瞳が看破したのは晴人の中で渦巻く彼ならざる黒い呪力。
羽月の瞳には晴人の呪力は清らかなほどに白く、澄んでいた。だが、今の晴人の身体は鈍色に汚れた血のように黒い呪力が身体の中心で燻っている。
どうしてかは分からない。この呪力が何から生まれ、どうしれば消し去ることができるのか。何をすればよいのか全く分からないけれど、晴人を一人にしてはいけないと、それだけは疑いようがないことだった。
「晴人君。昨日話したことを覚えてる?」
頭が割れるように痛い。羽月の言葉が断片的にしか耳に入らない。昨日。話したこと。何だっけ。
「話したことって?」
「私の家、私の立場、そして、私の瞳のこと」
そう言えばそんな話をした気がする。でも、今はそんなことを考えられるほど頭に余裕がない。血液が沸騰して血管が爆発しそうだ。
視界が歪む。眼のふちがひび割れて本能が羽月に向かわせようとしているのが分かってしまう。
「覚えてるよ」
そう応えるので精一杯だった。
駄目だ。これ以上言葉を交わせない。人間としての理性の蓋をケダモノの本能がこじ開けようと爪を立てている。
朱雀や干将が頻繁に身を寄せてくるのはこういうことかと晴人は納得した。
倉宮家の先天術式を抑えているのは同じく倉宮家が開発した呪力を循環させる術式。吸収術式は常に呪力の不足を補おうと周囲の呪力が際限なく吸収する。循環術式は常に体内呪力を循環させ、常に自己での消費と吸収を行っている。
この術式は陰陽具に刻印されたものではなく、刻印符に式神達が常に呪力を注ぐことで術式を発動し、晴人が幼い頃から彼を守ってきた。式神達がつかず離れずの距離で晴人を守護していたのはそういった理由もあった。
晴人の身を護るための最善の行動が結果的に晴人の覚醒を誘発するきっかけを作り続けたというのは彼らにとってどこまでも皮肉な話だった。
「ならわかるでしょ。晴人君が調子悪いの視えてるんだよ。それに晴人君が使用人って言った人は本当はし晴人君の式神なんでしょ?」
失念していた。そして、そんなことが頭から抜けてしまうくらい自分は余裕がなかったのかと晴人は身体を倒した。あまりの間抜けさに頭痛がどこかへ飛んでいき、思わず笑みが零れてしまった。
いっちゃうかもね




