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あやかしばかし  作者: 東上春之
第一章 出会いと覚醒
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第二十話 出会いと覚醒 二十

更新です。思いついた物語を書き紡いでみました。Twitterで「東上春之」と検索していただければ出てくるので是非。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も連載しているので見てみてください。

(まずい)


 恐れてしまったことで距離を取るという選択が遅れた。遅れたせいで懐に入られ、腕を斬り落とされた。

 だが、晴人の追撃は終わらない。

 温羅が消えるまでその攻撃は止まらない。それが倉宮の術式で、それこそが倉宮に与えられた役割で。晴人は倉宮の陰陽師として温羅にとどめを刺そうと斬り上げた刀を振り下ろした。


(晴人様、塾の結界が元に戻りました。ここで奴を祓えば敵の情報が得られなくなります)


 朱雀の声を聞き、晴人は振り下ろした腕を止めた。

 狙われていた羽月を守るという点で言えば温羅を引き離したことでその目的は達成している。祓ってしまうよりも逃げられないようにして情報を聞き出す方が意味はある。

 それに温羅に恨みがあるわけでもない。


「分かった。縛れ」


 晴人は捕縛の簡易符を温羅に使用し、逃げられないように両手足を縛った。片腕を失い、見た目以上に消耗したようで妖としての圧が小さくなっており、晴人が刀を向けると温羅は大人しく地に足を折りたたんだ。

 青霊堂に張られていた結界が機能を回復したが、その結界に付随する警報が鳴らなかった。


「ありがとう、朱雀。お陰で冷静になれたよ」


 晴人は身体強化と捕縛以外の全ての術式を解除し、温羅から数歩離れて腰を下ろした。羽月が無事術式阻害を解除できたのだから侵入者は温羅一人だったのだろう。

 もし、温羅レベルの妖がもう一人いたのならこうもスムーズな解除には至らなかったはずだ。


(いいえ。青霊堂の結界が警報を鳴らさなかったということは温羅は何者かの式神であり、計画された襲撃であることは明らかです。温羅は答えないでしょうが、十分もあれば誰の式神か調べがつきます)

「分かった。朱雀に任せる」

(お任せください。周囲に敵はおりませんから晴人様はお休みください)


 温羅から情報を得るため、朱雀は晴人の身体から姿を現し、晴人の肩に自身が身に付けていたジャケットをかけた。

 朱雀の手から離れたジャケットは色を白く変え、傷ついた晴人の身体を癒していく。鬼の炎は「モノ」を焼くが、朱雀の炎は「モノ」を燃やす。

 それが人間でも妖でも、術式でも負った傷でも朱雀の炎は全てを燃やす。

 それこそが朱雀という妖の最たる特異性だ。誰かを癒す術を持つ妖はごく少数であり、そもそも妖という存在の性質上、癒すことはその性質の逆に当たるため、本来伝承にはならないのだ。

 晴人は暖かな炎に身を任せ、瞳を閉じようとした。目を閉じて朱雀に言われた通りほんの少しだけやすもうとした。

 だが、結果的にそうはしなかった。正しくはそうできなかった。何故なら、


「こいつは回収させてもらう」


 黒いフードを被り、白い面を付けた如何にもな「敵」が現れたからだ。

 気が付かなかった。敵はそこにいる、姿がそこにある。

 だが、存在を感じなかった、今も目では「いる」と認識できているのに感覚ではその存在を感じない。

 そこにいるはずなのに正しく認識することができない。朱雀は判断を間違えなかった、優先順位を間違えなかった。

 温羅を捨て、すぐさま晴人の元に跳び、動けない晴人を屈んで背に入れ、二人の周囲に四重の結界を張った。


「別にそんなに警戒する必要はねぇよ。こっちはこいつを回収しに来ただけだからな。まさかここまでボロボロにされるとはな、何をしてるんだか」


 距離があるから正確な身長は測れないが一八〇cm以上はあるだろう。

 それよりも目を引くのは男が自身よりも二倍近くも大きく見える刀を肩に担いでいることだ。九尺以上もある刀にはこの間合いであれば距離は関係ないだろう。

 警戒してなかったわけではない。晴人を守ることが第一な式神達は常日頃から周囲の警戒を怠っていない。

 にもかかわらず、奴はどこからともなく眼前に現れた。ともすれば、背後から奇襲されていたかもしれない。朱雀は一層警戒心を強くした。


「黙れ、責を問うなら倉宮晴人について碌な情報も得られなかったお前達にある。目的を果たせなかった責を転嫁するな」

「おいおい、そうは言ってないだろ。それにそもそも真波のお嬢ちゃんなんてどうだっていい。その点ではお前は十分役割を果たしてくれたよ、欲しかった情報はあらかた取れた。計画通りだ」


 計画通り?と晴人は疑問に思った。

 温羅は羽月を殺すために送り込まれた式神だと思っていた。奴の話からすると本当の目的は別のものなのか。何が目的だ。


(晴人様は動かないでください。鵺、周囲は?)

(こいつらだけだ。真波羽月も無事だ)

(酒呑童子)

(万全の状態なら負けはしない)

(分かりました)

「さて、倉宮晴人。俺は主人にこいつを回収して来いと言われててな、大人しくしているのならこちらから手出しはしない。こいつを渡す気はないというのならここで戦闘を再開することになる。賢明なお前はどちらを選ぶ?」

「温羅を連れて帰るなら止めはしない。止められないしな。でも一つ、質問に答えてもらう。お前達の計画は順調か?」

「あぁ順調だとも。じゃあ、失礼する」


 男はポケットから取り出した陰陽符で温羅に張られた捕縛の術式を破壊し、温羅を脇に抱えて太陽を背に西へ跳んで行った。

 数秒改めて周囲を再確認し、結界を解除した朱雀は晴人を背負い、塾へ歩き出した。


「晴人様、お身体の調子は如何ですか?」

「朱雀のお陰で見える傷は消えたかな。ただめっちゃ疲れた」

「初めて倉宮家の術式と晴人様自身の術式を使いましたからね。しかし、晴人様、今後はあんな無茶しないでくださいね。晴人様の肉体はまだあれほど負荷の高い術式を使うことに慣れていません。今回はこれ以上何も言いませんが、今後はあまり無茶をしないでください、お願いいたします」

「分かった。護ってくれてありがとな」

「それが我々の使命ですから」

「本当に助かるよ」


 朱雀の背におぶられながら晴人は陰陽師とは何かと考えていた。

 温羅を持って行った人間は温羅を認識できていることから間違いなく陰陽師であり、朱雀が気が付かなかったということは少なくとも今の晴人以上の力を持つ陰陽師だということ。

 だから、奴の提案を受け入れた。

 満身創痍の今では太刀打ちできないと判断して大人しく温羅を引き渡した。

 それに羽月が狙われたことで温羅を祓うべきだと考えたが、敵の口ぶりから考えるに羽月を殺すことが目的ではなかったので、大した因縁も何もないのだから強引に祓う必要もないと判断した。


「奴らは何がしたかったんだろうな」

「そうですね、真波羽月が狙われたかと思っていましたが、どうやらそれが主目的ではないようですし。予想される目的としては真波羽月個人への襲撃ではなく、青霊堂に対しての襲撃。破壊が目的ではなく、調査もしくは何かを見つけること。または晴人様に対する情報収集。あるいは今後起こす何かへの布石、でしょうか」

「それ、全部かもね。羽月が無事だったのは温羅との戦闘に集中させるため。俺に余裕を持たせて術式を使わせて情報を得たかった。術式妨害は解かれる前提でそっちに注意を向かせて別の場所を探っていた、塾の地下とかね。あの駐車場は多分天井が普通より低い。駐車場より下のフロアに何か隠してるかも。まぁ見当外れかもしれないけどな」

「今度、鵺に調べさせますか?」

「それやったら絶対塾長とかに怒られるだろ。こういうのは父さんに相談した方がいいよ。後で連絡してくれるか?」

「分かりました。お任せください」


 数十分前まであんなに意気揚々と笑みを浮かべて戦っていた主は疲れて、背中でぐったりとしている。

 朱雀は晴人の心臓の音を背中に感じながら生きていることを実感する。規則正しく鳴る心臓が朱雀に温もりを与えていた。

 晴人が青霊堂のエントランスに近づくと来客用のソファに座って休んでいた羽月が晴人の姿に気が付いたが、黒いスーツを着た金髪美人に背負われていることを理解すると眉を顰め、ツカツカとエントランスから歩いてきた。


「朱雀、一旦降ろして」


 羽月の背中から何やら黒いオーラが見えた晴人は急いで朱雀の背から降りたが、温羅に焼かれた左脚がまだ癒えきっておらず、バランスを崩す。

 倒れないように足に力を入れるが、バランスが取れず、支えようとした朱雀の胸に倒れてしまった。


「ごめん、まだ脚が治ってなくて」

「構いませんよ。もう少しこうしていましょうか?」

「いや、視線が痛いから離してほしいんだけど」


 塾から出てきた羽月は何も言わず、じぃっと二人の様子を眺めていた。

 晴人の制服が所々焼け焦げ、左脚の踝付近が黒く爛れていることに気が付いた羽月は口にしようとした言葉を飲み込み、晴人の右側に回り、朱雀が左肩を、羽月が右肩を担いで塾内に歩き出した。

 先刻まで羽月が座っていたソファに腰を下ろさせ、朱雀は膝を曲げて晴人の左足首に手を当てた。


「呪いを燃やせ白日の癒炎」


 妖が術を発動するのに言霊は必要ない。妖は純粋な呪力体であり、肉体を持つ陰陽師と異なり、術の行使に制限がない。

 妖自身のキャパシティを越えた術だとしても相応の代償を払うことで行使することができる。

 肉体的制限がある陰陽師は術式の効率化や陰陽符による代償の代替、そして、言霊によって術式を強化する祝詞を編み出した。

 祝詞を唱えることで術式はより正確に臨んだ結果を集約させる。

 大規模な術式では須らく祝詞が唱えられる。祝詞を唱え、正確に術式を行使する。言霊を必要としない朱雀がそうするのは晴人の身体に関わることだからだ。

 晴人の身体に付いた傷を一つ残らず、そんな傷など初めから無かったものにするために朱雀は祝詞を唱え、白い炎を燃やした。黒く焼けた皮膚が徐々に元の色を取り戻していく。

モタモタしてたら腐っちゃうよギリギリ愛あぶないボーダレス非常識だねまだ加速しているよ

用語:白日はくひ癒炎ゆえん

護ると守るの違いはその対象の違いだと考えています。護るとは対象が一人だけの時に適応される言葉だと考えています。朱雀達にとっては晴人だけに適応される言葉なわけです。

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