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あやかしばかし  作者: 東上春之
第一章 出会いと覚醒
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第十七話 出会いと覚醒 十七

更新です。Twitterでも活動しているので是非。「星降ル夜ノアリアドネ」という作品も連載しているので見てみてください。

 そんな二人に苦笑しつつ、晴人は朱雀にお礼を言い、自室に戻った。

 部屋着を脱ぎ、衣装ラックに掛けてある制服を手に取り、袖を通す。今日も莫邪がアイロンをかけてくれたようで皺一つなく、よく張った綺麗なYシャツだ。

 昨日陰陽塾から貰ったタブレットといくつかの筆記用具の入ったリュックを手に持ち、居間にいなかった酒呑童子にパスを通して声をかけようとすると部屋のドアが開き、莫邪が呼びに来てくれた。

 酒呑童子は既に車を表に回してくれているようでどこまでも主の行動を先回りする式神達に脱帽する晴人だった。

 干将と莫邪も昨日と同じように晴人の中に戻り、朱雀と晴人が車に乗ると酒呑童子はアクセルペダルを踏んだ。


「今日もよろしくな」

「任せておけ。朱雀、京都の様子は主に伝えたのか?」

「これから伝えるところです。晴人様、よろしいですか?」

「うん、お願い」

「現在、京都の陰陽各家で徒党を組もうとする動きが見られたそうです。直接的な原因は不明ですが、主に京都の東側に住んでいる陰陽家が同盟のようなものを組み始めていると倉宮本家から連絡が来ました。今すぐにこちらに何かしらの影響を及ぼすとは考えられませんが、注意しておくに越したことはないと思います」

「何か、色々動いてるな。京都の東側に住んでる人達って京都九家みたいに倉宮家に敵対とかしてるの?」

「いえそういうわけではありませんよ。むしろ、京都の西側に住んでいる京都九家のことは好んでおらず、敵対とまで言わないまでも良好な関係ではないですね。京都では伝統的に大内裏から見て右手つまり、西側は陰陽家として上流階級とされる家が多く居を構えています。倉宮家もその一家ですね。東の家々は三代以上続いてはいますが、比較的新しい家なので家としての力は西側には劣ります。なので、徒党を組み、団結しているのでしょうが」

「具体的な理由は分からない、と。なるほどね、覚えとくよ。他にはあるか?」

「いえ、確定している情報は以上です。不確定な情報としては東側の動きに呼応して三条家の動きが活発になり始めていると報告がありました。ここに来て京都九家が何かしようとしているので倉宮家だけでなく、朝倉家、高倉家、和倉家も対策を講じているとのことです」

「また京都九家?」

「無駄に九つもあるからな。京都九家と言っても正しく直系なのは一、二、四、九条家のみだ。他の家は後から加わったからな、七条奏が家に拘っていたのもそういう背景があるのだろうな」

「どうする?マジで潰した方がいいかな?」

「倉宮家全体で協議する必要がありますが、恐らく反対する家はないでしょうね。晴人様が言うからというのもありますが、かなり前から御三家に対しての対抗心が露骨になってきており、他御三家でも九家に対する不快感は強まっていました。ただ、陰陽家同士の戦争は妖に隙を与えるので、消極的にならざるを得ないというのが現状です」


 なるほど、と晴人が腕を組み、思案していると一件のメッセージがスマホに入った。

 丁度昨日交換した連絡先からメッセージが来た。内容を確認して返信するとタイミング良く、車は陰陽塾へ到着した。

 駐車場に車を停め、朱雀と酒呑童子が晴人の中に戻る。メッセージを確認して車から出ると羽月が待っていた。


「おはよう、晴人君」

「おはよう。もう教室には行った?」

「ううん、ここには直接来たからまだ行っていないよ。今朝は急に連絡してごめんなさい。奏が教室には一人で来ない方がいいって教えてくれて。多分、昨日より悪化してるかも」


 羽月が奏から受け取ったのはクラスメイト、特に男子達が結託して何やら企んでいると教えてくれたらしい。何ともまぁ予想通りな、想像通りな、想定通りな状況だった。想定通りな状況に晴人は頭を抱えていた。

 彼らを刺激するような言葉を口走ったのは自分とは言え、真波羽月という人間が彼らの中でまさしくアイドル的な存在で急に現れた転入生に掻っ攫われたものだから幼く言えば怒っているのだろう。


「それで一緒に行こう、か。まぁ、その方が羽月のためになるか。取り敢えず教室に行こう。流石に教室に入った瞬間、殴り倒されるってわけでもないでしょ」

「ごめんね、迷惑かけて」

「いいよ。俺の方が羽月に迷惑かけてるんだし」

「優しいね」

「優しくないさ。優しくあろうとはするけど」

「なら優しいよ。私に対して優しいならそれ以上求めないわよ。それじゃあ優しい晴人君、私を守ってくれますか?」


 そう言って羽月は右手を晴人に差し出した。勿論、晴人はその手を取ってちょっと格好をつけてこう言った。


「当たり前だ。何があろうと羽月を守るよ」


 晴人は羽月の手を引き、教室へと歩みを進めた。

 その道中、昨日以上に周囲の目線が二人に集まっていることを感じ、昨日のクラスの騒動はどういうわけか塾内全土に広がっていたらしい。

 顔も名前も知らない第三者以上の他人からの刺してくるような視線が、妖を視えるようになったあの日感じた妖のまとわりつくような不快な視線。

 羽月はそんな視線に慣れているようで周囲の他人達を意にも介さず、むしろ彼らに彼女の持つ存在感を存分に放ち、彼らを黙らせた。

 堂々とした羽月の姿勢に、晴人は彼女もまた奏とは違った形で周囲の目と向き合ってきたのだと改めて感心した。

 段々と教室との距離が近づいて、けれど、誰の声も何の音も聞こえてこない自分の教室に晴人は恐怖を隠せなかった。

 おかしい、おかしいのだ。

 既に人がいることは奏のメールから分かっている。晴人は高校生であった頃からの癖というか今までの習慣で早めに登校している。

 時間で言えば、始業の三十分ほど前には学校に着くようにはしていた。

 だから、あの教室には人がいるはずだし、人がいるということは人の活動によって音が発生するはずだ。彼らの話し声や動く足音、椅子の軋む音が聞こえてきても良いはずだ。

 だが、そんな音は聞こえない。聞こえてこないのだ。それが何を意味するのか、分からない晴人でも、羽月でもなかった。


「そろそろ手を離しいいか?」

「ダ・メ。守ってくれるんでしょ?」

「そうは言ったよ。でも、何か教室からオーラみたいなのが見えるんだけど」


 静まり返る教室が晴人には黒いオーラを放つ異空間に見えていた。羽月はそんな晴人の手を更に強く握り、一歩前に足を踏み出した。

 教室のドアに近づくと音もなく扉は開いたはずだが、音など鳴らずにただ開いただけのはずだが、教室中の視線が一点に集中した。


「キッ」


 モ、と最後まで口にしなかった自制心を我ながら褒めてあげたい。

 いくつもの「目」が一同にこちらを見ているこの光景に無意識的に彼らを罵倒する言葉が口から零れ落ちそうなところを何とかすんでのところで関止めた。

 晴人からすれば、クラスメイトから向けられる嫉妬の視線はお門違いも甚だしいわけで、そんな視線を向けてくるぐらいなら最初から羽月にアプローチなり、何なりするべきである。

 羽月の様子から見てクラスメイトの誰かしらからアプローチを受けたり、仲良くしていたり、というわけではなさそうで彼らに対して思う所も思うこともないけれど、彼らからそういう視線やそういう思いを受けてやる義理もない。

 そう思えばこの緊張感も少しは和らいでくる、のか?

 反対に羽月はどこ吹く風といった様子で彼女はこういった状況に慣れているのだろう。羽月の度胸というか確かな芯の強さが晴人には眩しく見えた。

 彼女が彼女のこれまでを聞いた時、彼女が一条家から離反した時、彼女がこちらの味方になってくれると言った時、その声から、その姿勢から、その瞳から彼女の、真波羽月の芯の強さを見た。


「皆おはよう。今日は早いね。何かいいことでもあったの?」


 そう晴人の手を離すことなくそして、臆すことなく羽月は言い放った。すると何故か晴人を睨む男子達ではなく、奏が口火を切った。


「まぁまぁ、羽月。そうは言わずにね。皆気になってるのよ、倉宮君が言ったこともそうだけど、羽月の態度と言い、今日の様子と言い、どうなの?その辺」

「どうもないよ。見たまんま」


 羽月らしからぬぶっきらぼうな言葉遣いに皆が気圧された。


「それは彼らの判断でどんな風にも受け取られちゃうよ」

「そもそも何で奏が話してるの?私達に何か言いたいことがあるならその人が言うべきじゃない?」

「だって、私はここまで。後はお好きに」


 羽月の言葉にこれ以上言えることがなくなったのか、奏はクラスメイト達にお好きにどうぞと主導権を渡し、机に肘をついた。

 奏は目線を横に移してクラスメイト達を一瞥した。頼みの綱にしていた奏が早々に切り上げたものだから彼らの勢いが目に見えて削がれたように晴人は感じた。

 それでもどういうわけか彼らの意思はまだまとまっているように見えた。何かが彼らの意思を統一している、何かに統一されている、そんな印象を受けた。


「だったら何で二人は手を繋いで一緒に登校してきたの?」

「私が誰と登校しようが関係ないよね。どうしてそんなに突っかかってくるのかな?」

「質問に答えてよ」

「ちゃんと答えてるよ」

「今まで特定の他者と関係を築こうとしなかったのにどうして倉宮晴人とだけは関係を築こうとしているんだ?」


 この言葉で教室の雰囲気が大きく変わったのを晴人は感じ取った。何故なら、口を動かしているのは中央の列に座る塾生にもかかわらず、教室中から声が響いているからだ。


(晴人様、彼らは何者かの精神干渉の影響下にあります。部屋の中に刻印があるはずです)

(玉藻前からの攻撃ってこと?)

(違います。この陰陽塾に妖が侵入すればすぐに監視している者が来ます。そうではないのなら相手は)

「陰陽師か」


 陰陽塾は妖を払う陰陽師を育てる施設のため、度々妖の襲撃を受けていた。

 何百年にも及ぶ妖との対立の中で妖達も陰陽師を育てる機関の存在に気が付き、直接的な彼らによる襲撃によって多大なる被害が発生したこともあった。

 そのため、陰陽塾では過去の失敗を基に外的に陰陽塾の所在を隠匿する結界や塾内に妖が侵入した場合にすぐさま検出する結界など二十以上の結界が塾内外に張り巡らされている。

 青霊堂のあるこの都市もまた結界の一つであり、現代結界術に基づいて設計された陰陽都市なのである。

 その点から見ても朱雀と晴人の結論は間違ってはいなかった。

 この結界内でこれほど好き勝手術を行使することのできる妖なんて玉藻前や酒呑童子級の妖くらいなものだ。

 朱雀はこの陰陽都市に足を踏み入れた瞬間からこの街のありとあらゆる場所に刻まれた結界とその術式の内容を把握している。

 この塾に構築された結界は妖と式神を判別できるほどに非常に精密で、妖がこの都市に侵入するだけで陰陽塾が感知し、即座に五、六回生が対処に向かう。

 そうなっていないのであれば、これは同じ人間の、同じ陰陽師の仕業であり、クラスメイト達の標的になっているのは羽月だ。

 横に晴人がいるのに誰一人、羽月から目線を切らない。そして、同口同音でこう言った。


「其方の『願い』は叶わない」

ソコソコ攻めなきゃつまんないやギリギリ愛いけないボーダーライン難易度Gでもすべて壊してみせるキリキリ舞いさらなるGへと

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