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第四章 ランドールとサラ②

 当然の様にランドールの扱いは酷いものだった。

 身の回りの世話は最低限で、王族としての教育も然りだ。

 それでも、自分の出来る範囲で学び、自分のことは自分でするような、そんな子供時代を送っていたランドールだったが、ある日スラムに捨てられていたのだ。

 

 ボロボロない服をに身纏い、寝る場所も、食べる物もない。そんな場所で数日過ごした後、ランドールは自然と理解していた。

 自分が捨てられたという事実に。

 元々王族としてのプライドなどなかったランドールは、ゴミを漁り道端で眠ることに抵抗はなかった。

 不自由な生活ではあったが、自由があった。監視の目もなく、躾という名の折檻もない。

 あるのは、自分の命の責任は自分が取らなければならないということだけ。

 ある意味開き直ったランドールは、スラムでの生活を満喫するようになっていた。

 

 誰も整備などしていないスラムは意外と広かった。ランドールは、スラムを調べ、奥の区画がほとんど人が住みついていないことを知って、そこを拠点にすることに決めたのだが、人がいないということにはそれなりの理由もあったのだ。

 寝床にしてすぐにそれは起こったのだ。

 

 誰かのすすり泣く声。

 そこにはランドールしか居ないはずなのに、聞こえてくる誰かの泣き声に最初は驚いたものだ。

 それでも怪異はそれだけだったのだ。

 ランドールは、「泣き声程度」とすぐにその環境に慣れてしまったのだ。

 特に害がなく、ただ泣き声が聞こえるだけ。そう割り切ったランドールは、謎の泣き声の主と共存の道を選んだのだ。

 

 それでも、一年以上も泣き声を聞き続けていると、いつしかどうして泣いているのか気になってきてしまったのだ。

 一度気になってしまうと、原因を突き止めたくなってしまったランドールは、日々の暮らしの合間で調査に乗り出したのだ。

 

 その結果、泣き声は夜間だけ。恐らく少女だということ。泣き声に混ざって「そんなこと望んでない」という声が聞こえることの三つのことが分かったが、それが分かったからと言って、原因を突き止めることなど出来なかったのだ。

 

 それでも、泣き声を聞き続ければ、やがてその声の主が可哀相に思えてくるもので、いつしかランドールは、声の主を慰めるようなことを言う様になっていたのだ。

 

 慰め続けていると、いつしか泣き声が聞こえる回数は減っていったのだ。

 

 そんなある日、声の主から泣き声でも、いつもの謎の言葉でもない、意志を持った声が聞こえてきた気がしたのだ。

 気がしたというのは、声として聞こえた訳ではなく、そう言われているような気がするといった、感覚的なものだった。

 その声のような何かは、ランドールをどこかに導こうとしているような、そんな感覚だったのだ。

 

 それは、まん丸の美しい月が天中に昇っていた夜のことだ。

 導かれるようにランドールは、スラムの中を進んでいた。

 そして出会ったのだ。

 闇を溶かしたような黒髪の少女と。

 

 

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