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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第一部
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王宮殴りこみ編4 死亡フラグを撃破しろ!!

 ラーニャたちは日が暮れてから行動を開始した。

三人はミハイルの言った王宮に忍び込みやすいという場所――王宮の庭につながっているという林を黙々と進む。


「本当にこの先に王宮の庭があるのか?」

「あ、あ、うん。一度迷って入り込んじゃったことがあるからホントだよ」

「先に言っとくけど、もし俺がはぐれたりしたら探さないで帰れよ。お前らまで巻き添えになることないんだからな」


 その会話を最後に再び三人の間に重苦しい沈黙が広がった。

草木を踏み分ける音だけが響くなか、ラーニャがわざと陽気な声で二人に言う。


「思ったんだけどよ。オレもし無事に帰って来れたら……」

「あっそれ以上は言っちゃダメ!!死亡フラグが立っちゃうよ!」

「死亡フラグ?」

「言ったら九割以上の確率で死に至る呪いの言葉だよ。『俺、戦争から帰ったら……』とか『この事件(ヤマ)が終わったら……』とか、絶対言っちゃダメなの!!死んじゃうからっ」


 ミハイルは頬を真っ赤にして力説していた。

「死亡フラグ」とは、よほど恐ろしい呪いの言葉であるらしい。


「この言葉を言ったせいで、多くの男たちが散っていったんだよ。ね、アーサー?」

「俺、無事に帰れたら母様のミートパイ食べるんだ……」

「おい、お前の護衛死亡フラグ立ったぞ」


 青い顔をするアーサーを無視してしばらく進んでいると、不意に林が明るくなり始めた。

どうやら王宮の庭が近いらしい。


「ラーニャもうすぐだよ。早く行こっ」


 一行が歩くスピードを上げると、すぐに林を抜け、美しく整えられた広大な庭園の前に出た。

すぐ近くには夜空に浮かび上がる、白を基調とした壮麗なロキシエル王宮が見える。

内部では音楽会が開かれているのか、時折軽やかなメロディーが風に乗って聞こえてきた。


「ラーニャ、着いたよ。早く中に――」


 ミハイルが振り向くと、なぜかラーニャの姿は忽然と消えていた。

迷うような所はないはずなのに、一体どうしたことだろうか。

辺りを見渡しても、ラーニャの姿はどこにも見当たらない。


「どうしようアーサー。ラーニャがいなくなっちゃった」

「とにかく探しましょう。一人でいると危険すぎる」


 二人がとりあえず林に引き返そうとすると、上の方から急に光を照らされた。

グズグズし過ぎたせいで見張りの兵士に見つかってしまったらしい。


「どうしようアーサー」

「どうしましょうかねぇ」


 二人は互いに困った表情のまま顔を見合わせた。





 あの二人はもう林に引き返しただろうか。

ミハイルはともかくアーサーはいつまでも庭園にいる危険を分かっているはずだから、きっとそうしただろう。

いや、引き返してもらわなければせっかく一人になった意味がない。


 ラーニャは見張りの兵士に見つからぬよう、なるべく姿勢を低くしながら垣根の横を走りぬけた。

目指すは王宮。

王の間にまで行けるとは思わないが、せめて三人の王子のうち誰かには出会えると信じたかった。


 皇太子でもある第一王子オールは風の精霊の守護を受け、強い信念を持ちながらも臨機応変に物事に対応できる、次代の王にふさわしい人柄だという。

第二王子マドイは非常に珍しいことに、火と水の精霊という相反する二つの精霊の守護を受け、類稀なる魔法の才能と知己に飛んだ頭脳を持つといわれている。

光の精霊の守護を受けた第三王子のミカエルはまだ子供だが、すでに聡明だということで有名だ。


 彼らならば、出会うなり斬りかかったりはしないだろう。

というのがラーニャの希望を含んだ予想だった。

持ち前の度胸と大胆さを発揮して、彼らの前で何のためにここに来たかを訴えれば、とりあえず犬死することはない……はずだ。


 それに精霊の守護を受けるものは、互いに引き合うという。

ラーニャがこの無謀とも言える直訴に挑んだのも、この言い伝えを信じてのことだった。


 庭を駆け、ラーニャが何とか兵士に見つからずに王宮に入り込むと、そこには見たこともないような光景が広がっていた。

どこまでも続く赤いじゅうたんの引かれた廊下、様々な技巧と色彩豊かな天井画の施された天井。 

目に入る全てがまばゆいばかりだ。

それどころか室内中に、どことなくいい香りまで漂っている。


(いけね。見とれてる場合じゃないや)


 気を取り直してラーニャは恐る恐る王宮内を進む。

思ったより中は人がいないらしく、兵士に見つかるどころか人の気配さえしない。

勘を頼りに奥へ奥へと進んで行くと、ふいに王宮内の雰囲気が変わる場所に差しかかった。


 そこから先は今歩いてきた廊下よりもさらに豪奢で過剰ともいえる装飾が施され、暗に侵入者を拒否しているようにも見える。


(この先が王の間か?)


 覚悟をきめて一歩を踏み出そうとすると、急に人の動く気配がした。


「誰だ!?」

「それはこっちのセリフでしょう」


 今まで気配を消していたのだろうか。

鞭を持った長身の男が、柱の影からゆらりと現れた。


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NEWVEL

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