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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第三部
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愛の力編1 成金老人との出会い


 題名に「愛」はついていますが、いわゆる恋愛物ではありません。



 ラーニャが魔導庁に入庁してから半年近くが経ち、いよいよ魔法の勉強も実践に移り始めていた。

もちろん最初に習うのは自身が守護を受けている大地系の魔法である。

山を動かし、大地を割るというダイナミックな大地系魔法。

ラーニャは期待しながら実践に挑んだが、始めに修行することになった魔法は非常に地味なものであった。


「え? 始めにやることって、岩を砂に変える魔法なの?」


 がっかりしながらラーニャが聞くと、マドイは大きく頷いた。

最近彼は魔導師たちの更新時期が終わってヒマなのか、よくラーニャの勉強に関わってくる。


「そうです。砂は元々岩ですからね。まずは初級からです」

「え~。つまんねぇ」

「ちょっとなんですか。初級をなめるといたいことになりますよ。大体貴女は――」


 「初級魔法の大切さ」から始まったマドイの説教は、次第にラーニャの勤務態度にまで及んでいった。

勉強を見てくれるのはいいが、すぐ説教してくるし、見られていると落ち着かないし、正直ありがた迷惑である。


「分かったよ。やるから。やるからアッチ行ってくれよ」


 しかしマドイはラーニャのそばからはなれず、やれ「呪文の唱え方が悪い」だの「詠唱の時の足の踏ん張り方がよくない」だの、いちいち文句を言ってきた。

初級魔法とはいえ、始めて魔法を発現して上手くいく者は極少ない。

それを成功させたというのに些細な事をぐちぐち指摘してくるとは、まるで小姑である。


(そんなにヒマなら城に帰れよ)


 もちろんそんな事口に出せるはずもなく、ラーニャは気疲れしながら家路についた。

せわしなく帰宅を急ぐ人々の隙間をすり抜けながら、契約更新を終えたばかりの下宿に向かう。

そのとき、大荷物の召使を従えた老人が急ぎ足で歩いてきたかと思うと、ラーニャに思い切りぶつかってきた。

老人が転ぶことを考えると身を引くわけにも行かず、ラーニャはもろに衝撃を食らう。

恨みがましく見上げると、老人は背広のポケットから小さな袋を取り出してこちらに投げた。


「スマンな坊主。これで許してくれ」


 袋の中を見れば、金貨が五枚ほど詰まっている。


「おい爺ちゃん。受け取れないよ!」


 我に返ったラーニャが叫んだ頃には、老人は既に近くに止めてあった馬車に乗り込んでいた。

追いかける間もなく馬車は走り出す。


(どうしようコレ……)


 「ぶつかり賃」としてはあまりに高額な五枚の金貨を見て、ラーニャは途方にくれた。

だがやがて怒りがこみ上げてくる。

人にぶつかってロクに謝りもせずに金を投げ渡して終わりにするとは、ふてぇ野郎である。

高級そうな背広を着込んでいたから、おそらく大きな商会の主人か何かだろう。


(あの成り金野郎。この金突っ返してやる)


 翌日、ラーニャはマドイにちくちく嫌味を言われながら魔法の修行を終えると、昨日と同じ時間に同じ場所へ向かった。

確実性はなかったが、昨日の老人に会えるかもしれないと思ったのである。


 ラーニャが昨日の通りに行くと、そこには案の定老人がいた。

彼は昨日より増えた大荷物と一緒に、何故か一軒の小さな家の前に立っている。

不思議に思ったラーニャが彼に声をかけようとすると、老人はいきなり声を張り上げた。


「お願いだマロン! 一目でいいから私にその顔を見せておくれ!」


 切実そうな叫び声にぎょっとしていると、さらに彼は続けた。


「この通り贈り物はたくさんある。宝石もドレスも金もある。足りないなら何でも揃えよう。だから私に会ってくれないか!?」


 ラーニャだけでなく、行き交う人々も驚いた様子で老人の方を眺めていた。


「さぁ欲しい物があるなら何でも言ってくれ。たとえ城でも私は買い与えてやるぞ」


 老人は満足するまで家に向かって叫んだあと、ようやくラーニャに気付いた。


「何だお前は。野次馬か」

「違うよ。オレは昨日ぶつかった――」

「ああ昨日の坊主か。金が足りないのか?」


 老人のあまりの物言いに、ラーニャは腹が立って金を投げて返した。

老人は心底意外そうな様子で投げ返された金を受け取る。


「何だ坊主。金が要らないのか?」

「いらねぇよ。ぶつかっただけでこんな大金受け取れるわけがねぇ」


 ラーニャがメンチを切ると、老人は整えられた口髭を動かして小さく笑った。

するとかぶっていた帽子を取って丁寧に頭を下げる。


「これは失礼したな。君という人間を誤解していたようだ」

「誤解も何もオレは……」

「私ほどの金持ちになると、寄ってくるのは皆金目当ての輩ばかり。ついいつもの癖が出てしまったようだ」


 老人は自分で自分を金持ちだと言っていたが、さほど嫌な感じはしなかった。

着ている背広はノリが効いていて生地の光沢も違うし、昨日乗っていた馬車は王室の普段使いの馬車と勝るとも劣らないほどの一級品であった。

ラーニャは日頃王族や貴族と接しているだけあって、それなりに目が肥えているのである。

おそらく彼は彼の言うとおりかなりの金持ちなのだろう。


「まぁ、謝ってくれたんならそれでいいけどよ」


 ラーニャは老人の後ろにある大荷物を眺めた。


「爺さん一つ聞いていいか? こんな家の前でこんな大荷物持って叫んで何やってんだ?」


 ラーニャの質問は下手すれば不躾なものだったが、老人はなぜか嬉しそうに目を輝かせた。


「おお。それを聞いてくれるか坊主」

「ああ。そりゃ気になるよ」


 老人は二三度頷くと、目の前にある小さな石造りの家に目をやった。


「この家はな、私の昔の恋人が住んでいるのだよ」


 彼は遠い目をすると、ラーニャに昔話を語り始めた。

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