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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第三部
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泥かぶり編8 ラーニャの大きさ

 ラーニャがミカエルとアーサーの前に出ると、二人は、驚いたように目を見開いていた。

似合わないのかと不安になったが、彼らの四つの瞳は、なぜかラーニャの「ある一点」を眺めている。

ラーニャが首をかしげていると、アーサーがとんでもないことを言い放った。


「ロリ巨乳って、ホントに存在してたんですね」

「は?」


 呟いてから、アーサーははっとしたように口を押さえる。


「す、すみません。ついポロっと」

「……」


 ラーニャは思わず自分の胸元を覗き込んだ。

開いた襟ぐりから僅かに見える二つのふくらみは、確かに体型からしたら大きい方かもしれない。

おまけに体にフィットするタイプのワンピースののせいで、余計に大きさと形が強調されている。

ようやくラーニャは、二人がどこを見つめていたのか悟った。


「お前ら……言うに事欠いてそれか」


 拳を握り締めると、ミカエルが慌てて取り繕った。


「ちっ、違うよ。いやらしい意味じゃなくて、一体どこに隠してたのかな~って」

「どこに隠すってテメェ。オレの乳は手品か」

「だっ、だって、普段はペッたんこじゃないっ」

「さらし巻いてんだよ! 考えたら分かるだろーが!」


 わざわざ着飾って出てきた途端、胸の大きさを指摘されるなんて、バカバカしくて仕方なかった。

おまけにそれが気心の知れた友人からなんて、恥ずかしいにも程がある。

顔を真っ赤にしたラーニャがミカエルとアーサーの頭をはたこうとすると、その前にマドイが声を荒げた。


「このおバカども。少しはデリカシーという物を身に付けなさい! 着飾った女性にいきなり胸がどうのほざくなんて、お下品にも程があります!」


 マドイは本気で怒っているようだった。

意外なことに、彼は女性への気使いというものをそれなりに身につけているらしい。


「全く二人とも、胸だの乳だの言う前に、他に彼女に言うことがあるでしょう」


 マドイは二人に冷たい一瞥をくれると、ラーニャの方に向き直った。

紫の瞳を胸ではなく全身に向け、にっこりと妖しげに微笑む。


「ラーニャ、とっても良く似合ってますよ。綺麗です」

「おっ、おうよ」

「お下品二人組みは放っておいて、鏡を見てみましょう」


 まさか彼に褒められるとは思っておらず、ラーニャは返答に困ってしまった。

良く考えれば、彼自身がラーニャを着飾らせたのだから、褒めるのは当たり前なのだが。

戸惑っている間に、ラーニャの前には大きな姿見が用意される。

そこに移された自分の姿を見て、ラーニャは驚いた。


「スゲェ。これ本当にオレか?」


 鏡に映ったラーニャは、まるで別人のように綺麗になっていた。

滑らかな肌と、艶のある白髪。

太かった眉は整えられ、顔の印象は普段よりずっと柔らかくなっている。

オレンジを基調としたワンピースは、短い髪の毛にも不思議と似合っていた。


「ラーニャ、今すっごく可愛いよっ。従姉妹のナータにも負けてないよっ」

「当たり前でしょう。何せ私が付きっきりで磨き上げたのですからね」


 ラーニャは信じられなくて、しばらく呆然と鏡の前に突っ立っていた。

美容なんてただの気休めだと思っていた数時間前の自分が恥ずかしくなる。


「スッゲー。魔法みたいだ」

「魔法かぁ……。じゃあ兄上はさしずめ『泥かぶり』に出てくる魔法使いだねっ」


 ミカエルに褒められ、マドイは得意げに笑っていた。

ひょっとしたら彼は魔導師よりも美容業界の方が向いているのかもしれない。

マドイはまだ鏡の前で陶然としているラーニャに笑いかける。


「どうですラーニャ。貴女も自分が捨てたもんじゃないと分かったでしょう」

「あ、ああ」

「だったら、見る目の無い親戚共や母親の言ったことなんて忘れておしまい。自分に自信を持って、グダグダ悩むのはおやめなさい」


 ニヤリと笑うマドイの顔を見て、ラーニャは今日の彼の一連の行動の意味が分かった。

風呂に入れて全身を磨かせたのも、服を取り寄せて着飾らせたのも、全てラーニャを元気付けるためだったのだ。

言葉には出さない彼の優しさに、ラーニャは思わず言葉に詰まる。


「マドイ……オレ……」

「お礼はいりません。私に感謝するなら、早く元気になって仕事と勉強をなさい。それに――」


 マドイは横にいるミカエルの方に視線をやった。


「始めにこの提案をしたのはミカエルです、今日は少しデリカシーの無い発言が目立ちましたが、貴女を大事に思ってるのは確かです。礼を言うならまず彼に言いなさい」

「ミカエル……マドイ……」


 ラーニャは目頭がぐっと熱くなっていくのを感じた。

親戚たちに嘲笑われ、母親に罵倒されても、彼らはラーニャのためを思っていてくれていたのだ。

ミカエルとマドイは血の繋がりの無い、しかも身分も天と地ほど離れた人間なのに、それでもラーニャのことを考えていてくれた。

その事実があまりにも有難くて、思わずラーニャは泣きそうになってしまった。


「オレ……お前らに会えてよかった」

「ラーニャ、それじゃ卒業するみたいだよ。でも良かった。喜んでもらえてっ」


 ミカエルは天使のように微笑むと、さらに顔を輝かせながら続けた。


「それでさ、せっかく綺麗になったんだから、ちょっと面白い事してみないっ?」

「え?」

「やられっぱなしじゃ悔しいからさ、ナータや親戚のオジさんたちをギャフンと言わせてみようよ」

「……どうやって?」

「ラーニャが兄上とボクと一緒にいる所を写真にとって送るんだよっ。王家の紋章入りの封筒に入れてっ。絶対おったまげると思うよ~、あの人達」


 ミカエルは無邪気そうな顔で、実に楽しそうに笑っていた。

確かに王家の紋章入りの封筒が、それもラーニャが王子と一緒の写真が入ったそれが届いたら、親戚一同は大騒ぎになるだろう。


「ボクと違って兄上は有名人だからねっ。あの人達も分かると思うよっ」

「だけどいいのかよ、そんなことして」


 そりゃ仕返しにはいいかもしれないが、そんな下らないことに高価な写真や、ましてや王家の名前を使っていいはずが無い。

だがラーニャがマドイの様子を伺うと、彼は首を縦に振った。


「かまいませんよ。面白いではありませんか。むしろぜひやりましょう」


 聖夜の時も思ったのだが、マドイはわりと悪乗りをする性質らしい。

半分しか血がつながっていないとはいえ、そこはミカエルとの共通性を感じさせる所だ。


「どうせなら徹底的にやろうではありませんか」


 マドイはむしろミカエルよりも張り切りながら、仕返しの作戦を考え始めた。

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