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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第三部
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泥かぶり編7 ラーニャ改造中

 ラーニャは有無を言わさずマドイの宮殿へ連れてこられると、まず風呂にぶち込まれた。

侍女たち五人がかりで体を泡だらけにされ、ごしごしと全身磨きあげられる。

まるで洗濯板の上の靴下のような扱いを受け、ラーニャは目が回りそうになった。


 体を洗っておしまいかと思えば、今度は浴場の片隅にあるサウナに放り込まれる。

侍女曰く、マドイは毎日このサウナで汗を流しているらしい。


(毎日サウナって、この贅沢者――!)


 湿気と熱さでふらふらになりながら出てきたラーニャを次に待っていたのは、侍女三人によるあかすりだった。

「これで余分な角質を落とし、お肌をすべすべにします」とのことだったが、力いっぱいこすられるため、全身が痛い。


 全身をくまなく磨き上げられたところで、やっとラーニャは浴場から開放された。

だがもちろんこれで終わりではない。

浴場を出ると、隣にあるベットだけの簡素な部屋に通された。


「ここでお肌のマッサージをします」


 そう侍女に告げられ、ラーニャはベットの上にうつぶせに寝かされた。

バラの香りのする香油をかけられ、全身にゆっくりと広げられる。

バラの香りとマッサージが気持ちよくて、思わずうたた寝しそうになってしまった。


「マドイの奴、こんないい生活してんのかよ」


 どうりできれいな肌をしているはずである。

マッサージが終わると、手足の爪の手入れをされ、ようやくラーニャは侍女の手から開放された。


 待っていたマドイの所へ通されると、彼は顔を見るなり頬をつついてくる。


「あら、付け焼刃の割には随分良く仕上がってるじゃありませんか。さすが私の侍女たち」

「いやぁ大変だったよ。もうクタクタ」

「何言ってるんですか。これで終わりではありませんよ」


 ラーニャ思わず「げっ」と叫んだ。


「まだなんかあんのかよ」

「当たり前でしょう。せっかく綺麗になったお肌で、いつものボロ布のような服を着るおつもりですか?」

「ボロ布って……」

「そんなの許しませんからね。さあこちらに来なさい」


 マドイに案内された先は、色とりどりの服が下がった衣裳部屋だった。

あるのはざっと見た限り、全部女性ものの服である。


「おい、コレどうしたんだよ」

「貴女に似合いそうな服を服屋から取り寄せたんですよ。本当は仕立てるのが一番なんですけどね」


 まさかラーニャのために、彼はわざわざ服屋に言いつけて衣装を取り寄せたというのか。


「サイズが分からなかったので、良さそうな物を片っ端から持ってこさせました」

「マドイ……お前……」

「なんです。私の美的感性に不安があるとでも?」


 ラーニャは無言で首を振った。


「では他に何か」

「いや、だってほら……」

「別にお金は取りませんよ。買って差し上げるから安心なさい」


 彼の言葉を聞いて、ラーニャは完全に絶句した。

ここにある服たちは、きっとラーニャからしたら目玉が飛びでるくらい高額なはずである。

いやそれ以前に、マドイがラーニャに物を――それも服を与えるとは一体どういった風の吹き回しだろうか。


「テメェ、コレで恩を売って無茶な実験の道具にする気だな」

「失敬な。違いますよ」

「じゃあなんなんだよ」

「私だって、誰かに何かをしてあげたいと思うことくらいあるんです。純粋な気持ちで」


 ラーニャがあんぐりと口を開けている間に、マドイはもう服を選び始めていた。

時折ラーニャの方を振り返りながら、数ある衣装たちを段々と絞っていく。


「貴女の肌は褐色ですからね。鮮やかな色が良く似合う」


 その言葉どおり、彼が選ぶ服はどれも眩しいほど色彩豊かだった。

彼の着ている服自体がレースや刺繍だらけの華美なものである。

選ぶ服が派手なものばかりなのは当然だった。


「こんな派手な服、オレには無理だよ」

「ダサい人間に限って大抵そう言うものですよ。私を信じなさい」


 マドイは手に取った服を合わせながら、ラーニャの瞳をまじまじと見つめた。

妖しいほど美しい彼に見つめられて、ラーニャはつい視線をそらす。


「貴方の瞳は金色ですね。刺し色に金が入った服にしましょう」


 にんまりと微笑むと、マドイはまた衣装探しの旅に出た。

こんなこと侍女に任せればいいのに、自分で選ばないと気がすまないらしい。


「精霊の守護を受けるものは瞳の色が特殊だから、服も合わせがいがあります」

「そういやマドイの目は紫だけど、やっぱり精霊が関係あるの?」

「水の精霊の守護を受けると青。火の精霊の守護を受けると赤。両方合わせて紫色の瞳になるんですよ」

「絵の具みてーだな」


 ラーニャの軽口にもかまわず、マドイは最終的に服を三点まで絞り上げた。

やはりどれも色身が強く、なおかつ金色が使ってある。


「この中から好きなのを選んで、着たら呼びなさい」


 ラーニャはどれが良いのかさっぱり分からなかったが、三点の中で一番無難そうな赤とオレンジのワンピースにした。

服を着終わったラーニャがマドイを呼ぶと、彼は今度は靴とブローチ、髪飾りを選び始める。

小物をあてがわれ、髪の毛を整えられ、今日のラーニャはまるで着せ替え人形のようであった。

一体今自分がどんな風になっているのか、積極的に着飾った経験が無いだけに不安になってくる。


「マドイ、今オレどんな風になってる?」

「後でのお楽しみですよ」


 結局全ての着付けが終わっても、マドイは鏡を見せてくれなかった。

自分の姿を確認で着ないまま、ラーニャはミカエルとおまけのアーサーが待っている客間へ連れて行かれる。


(笑われたらオレ、立ち直れねぇ)


 ラーニャは緊張を覚えながら、客間の扉を開けた。

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