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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第三部
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泥かぶり編4 早とちり

 ご馳走が出来るまではまだ時間がある。

ラーニャはミカエルたちを自分と妹の部屋に案内した。


 一年ぶりに入った自室は、立て直したときに模様替えしたのだろう、少し様子が違っている。

しかしベットや机、幼い頃からある玩具などは変わっていない。

ラーニャは懐かしさを感じながら、土でてきた床にござを引いた。

マオ族には、椅子やテーブルを使う習慣がほとんど無いのだ。


「悪いけど、椅子無いんだ。ござの上に座布団置くから座ってくれ。あ、ニーニャお茶出して」

「随分習慣違うんだね。妹と一緒の部屋なんだ」

「お前にゃ信じられないだろうがな」


 ミカエルはラーニャの家が三個は入りそうな部屋に一人で暮らしている。

もちろん大勢の召使付きではあるが。


「へぇー。ラーニャこんな部屋にすんでたんだねっ。あ、この服可愛い」


 ミカエルは壁にかけてある女物の服を指した。

風通しの良い素材と形を意識して作られた、マオ族の民族衣装である。

レースや刺繍などは無くざっくりとしたデザインだが、褐色の肌に似合うように工夫されているため、とても色彩が鮮やかだ。


「ああ、これは昔オレが着てたヤツだよ。めでたい時だけ着るんだ」

「ラーニャも着飾るときあるんだ。なんか意外っ」


 当たり前だろうとラーニャが答えようとすると、ニーニャが茶を持って部屋に戻ってきた。

彼女はミカエルとアーサーを横目に、嬉々として茶を配る。

妹はミーハーな性質だから、彼らを意識してしまうのも無理なかった。


 ニーニャは茶を配り終えると、目を輝かせながらラーニャに言う。


「ねぇねぇオネェ。ボーっとしてないで王都の話聞かせてよ」

「えー、王都の話って言ってもなぁ」

「魔導庁で働いてるんでしょ? ねぇっ、まさかマドイ殿下にはお会いしたりしたの?」


 ラーニャは茶を飲む手を一瞬止めた。


「えっ、なんでそこにマドイ……殿下の話が出てくるんだよ?」

「そりゃ当たり前じゃない! 女の子たちの憧れだもん!」


(アイツが憧れだぁ?)


 ラーニャは怪訝な表情を作ったが、ニーニャは当然と言ったそぶりで頷いた。


「女性でもかなわない超美形で、瞳は妖しげな紫色……見つめられた女性はみんな虜になっちゃうの。おまけに若くして魔導大臣なんて素敵過ぎるじゃない」

「お前……どこで聞いたんだ。そんな毛玉吐きそうな噂」

「オネェ以外はみんな知ってるわよ。――で、会ったの? 会ってないの?」


 二つ下の妹の勢いにラーニャはたじたじになった。

前から気が強くてぽんぽん物を言う方だったが、一年でさらにそうなった気がする。


「えー、少しぐらいは会ったことあっけど」

「えっ。ウソ。マジで!? どうだった? 噂どおりのお方だった?」

「なんていうかまぁ……。頭突きしたくなるくらい綺麗な顔してたよ」


 今度はニーニャの方が怪訝な顔をしていたが、ラーニャはそ知らぬ顔をして茶をすすった。


 茶を飲んだ後は、互いの近況や今後の予定など、他愛も無い話をして時間を過ごす。

ラニーニャはミカエルを質問攻めにしていたが、彼は動じることなく「お金持ちのお坊ちゃん」を演じ切っていた。


 やがて日が暮れ、待ちに待った馳走の時間になると、ラーニャが帰郷したとのことで、近くに住む親族たちも自宅に集まった。

中には先ほど会ったナータもおり、あまり良くない気分だったが、親戚付き合い上仕方ない。

特大のござを床に引いて、大皿に料理を並べ、夜の宴が始まった。


 マオ族は酒好きが多いから、当然のごとく飲めや歌えの大騒ぎとなる。

あまり酒を飲んで騒ぐのが好きではないラーニャは、主にご馳走を食べつつ、宴の空気に酔っていた。

一方ミカエルとアーサーは、酔っ払いだらけのマオ族の宴の迫力にたじたじである。

自然と隅に行く二人に、ナータの父――母方の伯父が絡んだ。


「これが王都から来た奴らかい。男の癖に、随分可愛い顔してるじゃねーか」

「おいおじさん。あんま絡まないでくれよ」


 ラーニャが間に入ると、伯父は赤らんだ顔を彼女の方に向けた。

それなりに離れているにもかかわらず、強い地酒の匂いが香っている。


「そこの金髪坊ちゃん。なんでも大層な金持ちだそうじゃないか。お前なんかがどうやって捕まえたんだ?」

「捕まえるも何も、魔導庁の関係で知り合っただけだよ」

「フン。魔導庁ね」


 伯父は乱暴に抱えていた酒瓶を置くと、剣呑な視線を投げかけた。


「テメェみたいな泥かぶりが、精霊の守護があるからってチョーシのってエラそうに」

「あ? 何言ってんだよおじさん」

「泥まみれで力仕事しか出来ないくせに、王都で金持ち捕まえやがって。納得いかねぇぞ!」


 何を思ったか、伯父は酒瓶をラーニャに向かってぶん投げた。

が、当然ラーニャに当たるはずもなく、かわされた酒瓶は無残にも壁にぶつかって砕け散る。


「っアブねぇな! 何すんだよ! っていうか言ってる意味がわかんねぇ」

「とぼけんじゃねぇよ。お前そこの金持ちと結婚するんだろ?」


 彼の言葉の意味が分からず、ラーニャはしばらく硬直した。


「はぁ? オレがミカ……ミハイルと結婚するってぇ!?」

「だから連れて帰ったんだろうがよ。 親戚一同に自慢するためによぉ」

「はぁ? んなわけねーだろ!」


 思わずラーニャが辺りを見回すと、皆あっけに取られた顔をしていた。

そのなかで一番年配の母方の祖母が叫ぶ。


「ちょっとラーニャ! アンタ結婚の報告に帰ってきたんじゃなかったんかい!?」

「なっ――。何言ってんだばーちゃん! コイツはただの友達だよ!」


 ラーニャが断言すると、一同はひそひそと何か話し始めた。

今度は母のラニーニャが立ち上がる。


「アンタ、ホントにその人は友達なの?」

「そうだよ。事前に手紙にも書いといたろ。まさか、かーちゃんもミハイルとオレが結婚すると思ってんのか?」


 まさかと思いつつ尋ねたが、彼女の答えは是だった。


「だって――、いくら手紙に書いてあったって、男の子実家に連れてくるって言ったら、誰だってそう思うじゃない」


 ラニーニャはそう言うと、なぜかその場で泣き崩れた。

驚いたことに、彼女はミカエルとラーニャが結婚を報告するために帰ってきたのだと思い込んでいたのである。


「どうするのよ! みんなにアンタが王都のお金持ちと結婚するって言っちゃったじゃないの」

「しらねーよ。勘違いしたのはそっちの方だろ!」

「しょうがないじゃない。――お母さんもう泣きたいわ」


(そんなこと言ったって――)


 泣きたいのはこっちのほうだ、とラーニャは逆切れする母親を見て途方にくれた。

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