表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
57/125

英雄退治編5 英雄の欲望

 ギルバートが仕事を終えて部屋を出ると、そこにはエリザベスが立っていた。

もう夜遅いのに、お付きの者もつけずにである。


「どうしたんだ、一人で」

「うふふ。せっかくだからギル様に送っていただこうかと思いまして」


 見た目に似合わず大胆な性格をしているエリザベスは、なかなか会えない恋人に対して、思い切った行動に出たのだった。

彼女の性格を知り尽くしているギルバートは、それを軽くたしなめるだけにとどめておく。


 城の廊下を歩きながら、二人は久しぶりの会話を交わした。

冷たい月明かりに照らされた二人の姿は、まるで出来すぎた絵画のようである。


「もうすぐですね。ギル様」

「なにがだ」

「もちろん団長試験に決まっておりますわ。晴れて私たちも――」


 エリザベスが照れたように微笑む。

彼女の笑みは、どんな美人画の女性よりも清らかで美しかった。

だが、そんな微笑みも向こう側からやってきた人物を見て曇る。


 廊下の先には、まるで二人を待ち構えたかのように、グスタフが取り巻きを連れて立っていた。

エリザベスを見るなり、わざとらしく驚いたふりをしてこちらに駆け寄ってくる。


「おお、エリザベス。こんな所で会うとは奇遇だな」

「それはどうも。では、私たちは急いでいるのでこれで」


 失礼なほど冷たくあしらっても、まだグスタフは引かなかった。

彼が自分によこしまな感情を抱いていることは、エリザベス自身もよく知っている。

この容姿ゆえ今まで無数の男たちに言い寄られてきたが、彼ほどしつこい男は他にいなかった。

身分が低ければあしらいようはいくらでもあるのだが、英雄として地位があるだけに始末に悪い。


「夜ももう遅い。ここは私がご自宅まで送って進ぜよう」

「ご心配ありがとうございます。しかし私にはギルバート様がついていて下さるので、大丈夫ですわ」

「この若造が護衛? 冗談じゃない」


 グスタフはギルバートを睨んだが、彼はたじろぐことなく答えた。


「確かに私は頼りない若造ですが、彼女の屋敷はすぐそばですからご心配なく」

「そういうことを言ってるんじゃない! 貴様は年上に譲ることを知らんのか!」


 この男のすぐ恫喝するところが、エリザベスは大嫌いだった。

彼は怒鳴れば皆が言うことを聞くと思っている。


「彼は悪くありませんわ。ギルバート様に護衛を頼んだのはこの私です」

「エリザベスも変わった女性だな。『英雄グスタフ』よりも、この下級貴族の若造が好みとは」

「ギルバート様は身分が低くとも、立派なお方です。騎士としての実力も充分ですわ」


 エリザベスは慇懃に腰を折ると、まだ何か言おうとしているグスタフの横を強引に通り過ぎた。

グスタフは負け惜しみのように、エリザベスたちの背中に叫ぶ。


「私を――この英雄グスタフをないがしろにして、ただで済むと思うなよ! お前の両親も私の味方なのだからな!」


 彼の言うとおり、エリザベスの両親は身分の低いギルバートよりも、地位も名声もあるグスタフを気に入っていた。

グスタフとエリザベスはちょうど年が三十も違うが、貴族の結婚に年齢差は付きものだと、両親は聞く耳を持たない。

しかしエリザベスは、たとえ彼が同い年だろうが年下だろうが、こんな傲慢な男と結婚するのは真っ平ゴメンだった。


 グスタフの姿が完全に見えなくなってから、エリザベスは隣にいる恋人に囁く。


「ギル様、今度の試験、必ずあの男に勝って下さいましね」

「試験は戦い方を見るだけだから、勝たなくても大丈夫さ」

「まぁ、今からそんな弱気でどうなさいますか」


 ギルバートの剣の腕は卓越している。

彼は低い身分に負けないよう、剣術を磨きに磨いて、近衛騎士団の副団長にまで登り詰めたのだ。

一体どれだけ苦労したのか、ギルバートはエリザベスに多くは語らないが、大体の所は察しがつく。

またエリザベスは、人に苦労を自慢しない彼の人柄がとても好きだった。


(絶対に団長になってくださいまし)


 近衛騎士団の団長になることが、エリザベスとギルバートの結婚の条件である。

不安もあったが、彼なら絶対に成し遂げてみせるだろうとエリザベスは信じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
NEWVEL

よろしければ投票お願いします(月1)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ