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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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英雄退治編2 ロキシエルの英雄

 模擬試合が終わると、ラーニャは大声で副団長に礼を言った。

それに手を振って応える彼の姿は、どこまでも爽やかである。


「まさか君がこんなに出来るなんて、予想以上だ。経験があるのか?」

「一応、父に稽古をつけてもらってました。用心棒みたいな仕事をしていたので」

「なるほど。どおりで覚えが良いわけだ」


 お世辞でも褒めてもらえば気分がよい。


 騎士団で世話になってから一週間あまり。

副団長が褒めて伸ばすタイプだということが分かってきた。


「今日の分の稽古は終わりだ。後はシンたちと一緒に木刀を磨いてくれ」

「分かりました!」


 ラーニャはぺこりと頭を下げると、すぐにシンたちの所へ駆けだした。

移動は基本小走りなのが見習いの決まりなのである。


 ラーニャが来ると、シンとリッキーは木刀から顔を上げた。

こういう時は、まず気が強いリッキーから先に話し出す。

シンはどもりがちのせいか、自分から始めに話すことはほとんどないのだ。


「模擬試合見たぞ。副団長を押してたじゃないか!」

「始めのうちだけだよ。後は全然」

「でもあの副団長をだぜ? 始めだけでも充分だ」


 リッキーの言葉にシンが小さくうなずいて言う。


「そ、そうだよ。先輩たちの中でも、副団長に一撃でやられちゃう人もいるんだから。は、入ったばかりなのに、す、す、す、すごっ――」

「シン、興奮して言葉になってないぞ」

「だだ、だって、あの副隊長をだよ」


 騎士団に入ってからすぐに分かったことだが、副団長であるギルバートへの騎士たちの信頼は非常に厚い。

ギルバートを悪く言うものなど一人もいないし、会話のそこかしこに彼への尊敬と憧れが見え隠れする。


「お前ら、本当に副団長が大好きなんだな」

「当たり前さ! 剣の腕前はピカイチだし、リーダーとしても完璧。おまけにハンサムときたら、憧れない方がおかしいってもんだよ」

「ふ、副団長は下級貴族出身で、本当は近衛騎士団に入れなかったんだけど――皇太子殿下がその腕を見込んで特例で入団したんだ。カッコいいよね」

「最初は馬鹿にされたりして苦労したらしいけど、次第に功績が認められて今は副団長さ。生まれた時から威張ってた上級貴族のボンボンと違って、マジメで優しいんだ」


 すらすらと賞賛の言葉が出てくることからも、二人がどれだけギルバートを慕っているか分かる。

熱く語るあまり木刀を磨く手が止まってしまうのは困ったことだが。


「それに、副団長にはメチャクチャ美人の恋人がいるんだぜ」

「へぇっ」

「ロキシエル三大美女っているだろ?その中のエリザベス様は副団長の恋人なんだ。驚いたろ?」


 ロキシエル三大美女を知らないので、エリザベスがどんな女性か分からなかったが、話を合わせておいた。

しかし騎士たち憧れの副団長の恋人なのだから、さぞかし素敵な女性なのだろう。


 シンはエリザベスを思い出したのか、色白の頬を桃色に染めている。


「え、エリザベス様……素敵だよね。優しそうだし」

「そういえば副団長、今度の団長昇格試験に合格したら、エリザベス様と正式に婚約するらしいぜ」


 リッキーはもはや完全に木刀を放り出し、話に夢中になっていた。


「そりゃめでたいじゃないか」

「エリザベス様のご実家は子爵家だから、父上が下級貴族の副団長との結婚を反対してるんだ。団長に昇格することが結婚の条件なんだってよ」


 身分違いの恋と、それを乗り越えようとする若い二人。

これまた随分とロマンチックな話である。

しかもお互い美男美女ときたら、もはやメロドラマだ。


「なんかお芝居みてーだな」

「笑い事じゃないんだよ。二人の未来がかかってるんだ」

「そりゃま、そうだけど」

「団長の座が空くなんて五年に一回あればいい方だからな。これを逃したら次はないんだよ。騎士団一同応援してるんだ」


 二人の目に力が篭る。

まるで自分が副団長だと言わんばかりの表情だが、それだけ彼を慕っているという良い証拠だろう。

やはり木刀をほったらかしの二人にラーニャは尋ねる。


「で、その昇格試験って、具体的に何するんだ?」

「知らないのか? 英雄グスタフと手合わせするんだよ。それも真剣でな」

「えいゆうぐすたふ?」

「おっ、お前英雄を知らないのか!?」


 リッキーだけでなく、シンも小さな目を丸くして驚いていたが、聞いたことが無いものは仕方がない。

ラーニャは馬鹿ではないが、ずっとど田舎の小さな村で生活していたため、王都での常識を知らないことが多いのだ。


 リッキーは呆れながらも、親切に説明してくれる。


「英雄グスタフはなぁ、三十年前にあったこの国最後の戦争で大活躍した英雄なんだよ。それも二十歳の若さでな」

「そんなにスゴイことしたのか?」

「ああ。なんでもたった一人で百人敵を斬ったとか、あまりの強さに彼を見た敵が次々と泣き出したとか――歌とかで聞いたことないか?」


 ラーニャは首を横に振った。

歌になるほど有名な英雄がこの国にいたなんて、リッキーから聞くまでちっとも知らなかった。

マオ族にも英雄を称える歌はいくつもあるが、その英雄のほとんどは百年以上も前の人物である。


「どんな奴なんだ? デカイのか?」

「明後日の大闘技場演習にいらっしゃるよ。そしたらイヤというほど分かるだろうさ」


 英雄について話しているはずなのに、リッキーの顔はどこか浮かなかった。

それに若干引っかかる物を覚えつつも、ラーニャはまだ見ぬ英雄について思いを馳せる。


 ――英雄。

小さい頃寝る前に、父に英雄の話をせがんで聞かせてもらったことを思い出す。

彼らは話の中で怪物を倒したり、とらわれの姫を助け出したりしていた。

英雄は幼いラーニャの憧れでもある。


 ラーニャは明後日の大闘技場演習が楽しみで待ちきれなくなった。

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