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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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レシピ探し編4 ミカエルの剣

 ミカエルがポケットから取り出したのは、短いガラス棒だった。

手のひらから少しはみ出るくらいの大きさのそれは、屈強な男たちと戦うにはあまりに頼りない。


 ミカエルのおかしな行動に、男たちは顔を見合わせると、次の瞬間大爆笑しだした。


「おい坊ちゃん。やめとけ。こんなガラス棒で俺たちにかなうわけねーよ」

「ガラス棒じゃないよっ。ボクの剣だよっ」

「剣? これが?」


 ますます大笑いする男たちを横目に見ながら、ミカエルはそのガラス棒を夕日に向けて掲げてみせる。


「光の精霊よ。ボクに力を貸し給え!」


 ミカエルが叫ぶが早いか、小さなガラス棒に光が集い始めた。

瞬く間に光はガラス棒から溢れんばかりに集まり、やがて一直線に伸びていく。

ミカエルの小さな手から伸びた一筋の光。

それはまさしく光の剣と言って相違ないものだった。


「おい坊ちゃん、なんだその光は」

「これがボクの剣だよ。スゴク良く切れるんだ」


 ミカエルがその光の先で地面を軽くなぞると、石畳がまるでチーズのように切れた。

そればかりか、切り口からは湯気が立ち昇っている。


「これでお肉切ると、表面が炭化しちゃうんだからっ。おじさんたちもそうなりたい?」


 男たちは顔を見合わせると、今度は大爆笑せず、一目散に逃げ出した。

光の剣の恐るべき威力を目の当たりにしたのだ。

ビビッて逃げるのも無理はない。


 ミカエルは光の剣を消して再びガラス棒をポケットにしまいこむと、倒れている少年に手を差し伸べた。


「君、大丈夫?」

「な、何でオレを助けたんだよ! 警備隊につき出すためか!?」

「べっ、別にそんなつもりじゃないよ」

「じゃあ何で助けたんだよ」


 少年は猫耳を伏せ、尻尾を立てて唸っていた。

随分とこちらに警戒しているらしい。


「ひょっとしてお前、人買いの手先か? 『ねこみみまにあ』にオレを売る気だろ!?」

「そんなっ!母上が持ってるBL小説じゃあるまいし、そんなことしないよっ。ボクはただ君を助けたかっただけなんだ」

「信じらんねえ。どうして泥棒を助けたいと思うんだよ」


 彼の黒い目がミカエルを睨む。

ミカエルは彼の視線にたじろぎながら答えた。


「だって……。君はまだ子供だし……。泥棒だからってむやみに蹴られてボコボコにされて良いわけじゃないし……」

「だから助けたのか?そーゆーのを偽善者っていうんだぜ」

「そうなのかなー? 僕の友達は可哀想な人がいると敵でも味方しちゃうけど、偽善者じゃないよ」


 ラーニャの行動は「偽善」だとか「みせかけ」だとか、それ以前の問題である。

ただ「気に食わないから」「こうしたいから」という感情だけで動くのだ。

そこに「偽善」や「みせかけ」が入る隙間も暇もない。


「うん、ボクも理由とかなんとかじゃなくて、ただそうしたかっただけなんだ。君を助けたかったから助けただけだよ」

「お前変なヤツだな。金持ちだからか?」


 少年は口をヘノ字に曲げながら、ミカエルに奪ったブローチを差し出した。


「返すよ。さっきのヤツらからは守ったけど、さすがに助けてもらっといて、ハイさよならとはいかねーし」

「いいよ別に。それ、君にあげる。困ってるんでしょ?」


 だが少年は喜ぶどころか、なぜか逆に怒りだした。

盗んでまで欲しかったブローチなのに、どうしてあげると言われて怒るのか。


「どうして怒るの? 欲しかったんじゃないのっ?」

「確かに欲しかったよ。だから盗んだ。でもオレはお前にそれをもらう理由がない」

「え? 言ってる意味がわかんないよ」

「理由がないのにもらったら、それは恵んでもらったのと同じなんだ。アメ玉一つならまだしも、こんな高そうなブローチ、オレはもらえない。オレは物乞いなんかとは違う」

「泥棒より物乞いの方がイヤなの?」

「イヤだね。オレは手に入れたい物は自分で手に入れるんだ。誰かのお恵みに頼ったりなんかしない」


 言っている意味が分かるような、分からないような感じだった。

ただ彼の眼差しがラーニャと同じように力強いことだけは確かである。


「でも必要だから盗んだんだよねー? なかったら困るんじゃない?」

「困るさ。でも別のヤツからまた盗むから別にいい。金目のものなら何でも構わないから」

「ダメだよ泥棒は。ちゃんと働いて稼ぎなよー」

「働く? どこの誰がマオ族を雇ってくれるんだ?」


 少年に睨まれてミカエルは押し黙った。

ラーニャも魔導庁に来るまでは酷い労働条件で働いていが、それでもマオ族に仕事があるだけマシだと言っていた。

ミカエルと大して変わらない年の彼を雇ってくれる所などあるはずがない。


「マオ族だから仕事にありつけない。だからマオ族は困ってこんな貧しい街に住んで悪さをする。そうすっとますます評判が悪くなってもっと仕事にありつけない――オレたちゃ一体どうするりゃいいんだろうな」

「……ごめん」

「お前が謝ることないだろ。悪いのはこんな状態を放置してる国王や貴族共だ」

「……」


 ミカエルは彼に――そしてすべてのマオ族に申し訳なくて仕方なかった。

自分がこうしている間にも、彼らは飢え、寒さに震えているのだ。


 せめて目の前にいる少年だけでも何かしてあげたい。

いや、しなければならない。

ミカエルはそう思ったが、何をすればいいのか全く分からなかった。

今ここで物や金を渡しても、彼のプライドを傷つけるだけだろう。


(あげる理由があればいいんだろうけど……)


 物をあげる理由。

普通に考えれば労働の対価やお礼である。


(そうだ――!)


 ミカエルはどちらも得する、とてもいいことを思いついた。


 前半で登場したミカエルの剣はほとんどラ*ト・セーバーです。

ちなみに日中しか使えません。



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