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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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レシピ探し編2 レシピ探し開始!

「えっ、レシピ知らないの? 一つも?」


 厨房でミカエルが驚くと、料理長は何度も頭を下げて謝った。


「すみません。マオ族の郷土料理はなんというかその……見栄えがしない物が多いので、王宮でお出しすることはほとんどないんですよ」

「そうなんだ」


 確かに生まれてこの方、ミカエルはマオ族の郷土料理を口にしたことは一度もなかった。

料理長が申し訳なさそうに頭をかきながらさらに続ける。


「あそこの土地は土が悪くて、取れる野菜が限られているんですよ。だからどうしても彩りが悪くなってしまって」

「たしかに王宮の料理は彩りも大事だもんねー」

「もちろんミカエル様の命とあれば、すぐにでもレシピを手に入れますよ」


 料理長はそう申し出たが、ミカエルは首を横に振った。


「いいよ。ボク自分で探すから」

「しかしミカエル様……」

「誰かに何かしてあげるのに、人任せはイヤだからねっ」


 ラーニャはいつも体を張ってミカエルのことを助けてくれた。

だから恩返しするにはこちらも体を張るのが筋である。


 ミカエルはなんとしてでも郷土料理のレシピを手に入れることに決めた。

王族たるもの、一度決めたことを簡単に翻してはいけないのだ。


 ミカエルは厨房を出ると、そのまま王宮図書館に向かった。

ここは国内一の蔵書を誇る図書館で、古今東西のありとあらゆる本が揃っている。

もちろん料理本も充実しており、マオ族の郷土料理のレシピもここで調べれば分かるはずだった。


「えっ? 無いの? 一冊も?」


 図書館でミカエルが大声を出すと、司書は何度も頭を下げた。


「すみません。文化を研究した書物はありますが、料理までは……。マオ族の料理を作ってみようと思う者自体、まずいないので」

「じゃあマオ族の人はどうやって料理覚えてるの?」

「口伝です。あそこは少し前まで文字自体限られた階級しか使ってませんでしたから」


 マオ族は口伝のみで料理を覚え、外部の者はそもそもマオ族の料理に興味を抱かない。

これでは料理本が生まれるはずがなかった。


「じゃあどうすればレシピ手に入るの?」

「ひょっとしたら、城下町にマオ族の郷土料理を出す店があるかもしれません」

「城下町か……」


 あるか分からない店を探すのはなかなか骨が折れるだろう。

大勢の召使に命ずれば簡単かもしれないが、それでは自力でラーニャのために動いたことにならない。


 翌日、晴れ渡った空の下、ミカエルはアーサーと町へ繰り出した。

一国の王子が街をうろつくのは危険かもしれないが、ミカエルは光の精霊の守護を受けているので、日が出ている間は無敵である。 

光の精霊の守護は制約が多い分、条件が合えば強力な力が得られるのだ。


 観光用に作られた「これで満腹! 王都グルメ案内」というパンフレットを見ながら、ミカエルはそれらしきレストランを巡って行った。

だが他の民族料理を出している店はあっても、マオ族の郷土料理をメニューに加えている所は見つからない。

それどころか、十軒目の店でミカエルがマオ族の郷土料理について尋ねると、何と店主が怒り出した。


「そんな猫のエサなんざウチじゃ置いてないよ。馬鹿にするのもよしてくれ」

「馬鹿になんかしてないよっ。それに猫のエサなんてヒドイや!」

「野良猫共が来ると分かっててエサなんか置いたりしないよ。他の客が逃げちまう」


 ミカエルは頭から湯気を出しながら、十軒目の店を後にした。

それからも数店民族料理屋を回って見たのだが、結局マオ族の郷土料理を出している所は日が暮れるまでに一つも見つからなかった。


 今日は週に一度の家族揃っての夕餉の日。

まだ探したいのは山々だったが、ミカエルは早めに王宮へ戻った。

例の騒ぎがあった後、必ず週に一度は家族揃って食事を取るというルールが生まれ、守らなかったものには罰ゲームがあるのだ。


 時間通りにディナーテーブルについたミカエルは、今日あった出来事を王家の皆に話した。


「マオ族の料理を猫のエサっていうんだよっ! ヒドイと思わない!?」


 未だに腹を立てているミカエルを、ヘンリエッタが嗜める。


「そんなに怒ったままいただくと、消化に悪いですよ」

「でもマオ族のこと野良猫とか言ってさっ。それに王都にもマオ族がたくさんいるのに、料理屋が一つもないなんて変だよ」

「確かにそれはそうですわね」 

「どうしよう。このままじゃレシピが見つからないよー」


 ミカエルは怒りも覚めないうちに落ち込み始めた。

すると今まで黙っていたマドイが食事の手を止めて言う。


「マオ族は料理を口伝で覚えているんでしょう? だったらマオ族に直接聞けばいいではありませんか」

「だけどボク、ラーニャ以外にマオ族の知り合いなんていないよ」

わたくし、明日マオ族が大勢住んでいる地域に行くんですけど、貴方も一緒に行ってそこの人達に聞いてみたらどうです?」

「本当にいいの? 仕事で行くんでしょう?」


 マドイは銀色の髪をきらめかせながら頷いた。


「可愛い弟と彼女のためならば、それくらいの事はしてあげますよ」

「兄上、なんかラーニャのこと気に入ってるみたいだけど――ひょっとしてロリコ……」

「違いますよ。ただ、彼女と一緒にいれば、私が無くした物を取り戻せる気がするんです」

「無くした物?」

「ええ。目には見えない、人として大切なものです」


 そう言ってにやりと笑うマドイからは、たっぷりと妖しさが漂っていた。

一体どんな生活を送っていれば女性顔負けの婀娜あだっぽさが出せるのか、我が兄ながら不思議である。


「マドイ兄上ってさ、動物にたとえるなら女郎蜘蛛だよね」

「なんですかいきなり。失敬な」


 言われたマドイ自身は立腹していたが、他の皆は無言でうなずいていた。

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