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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
47/125

女の敵は女編4 ストッキングは顔面破壊兵器

 ものの数十秒で、女たちの顔は見るも無残なものに変形した。

別に暴力を振るったわけではない。

極めて平和的な方法でである。


「うっひゃっ、ストッキングの威力は半端ねーな」


 三人の女は今、揃いもそろって顔にストッキングをかぶせられ――そしてそれを上に引っ張られていた。

もちろんかぶせているストッキングは、彼女達が身につけていたものである。

ラーニャは彼女達がはいていたストッキングを見て、弟がそれを頭にかぶって遊んでいたことを思い出したのだ。


 鼻と唇はめくれ上がり、顔の肉という肉がすべて上に向かっている。

こんな顔を他人に見られることは、女としてどれだけ屈辱だろう。


 ラーニャは厚化粧女が持っていた光魔法式カメラで、三人の無残な姿を写真に収めた。

もちろん一人一人の顔のアップも忘れずにだ。


「明日大臣にホントのこと言わなかったら、この写真バラ巻くからな」


 だがラーニャがその場を立ち去ろうとすると、不意に背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「その必要はないよ、ラーニャ」


 振り向けば、そこにはなぜかミカエルが立っていた。

しかも天使のような笑みを浮かべてご機嫌そうである。


「あー、久しぶりにいい物見ちゃった。嫉妬に狂う女たち、そして醜い言い争い――お芝居でもなかなかないよっ」

「て、テメーなんでここにいるんだ!?」

「ボクは兄上にくっついてきたんだよ」


 ミカエルのさらに後ろには、あろうことか魔導大臣本人が立っていた。

彼も機嫌がいいらしく、その整いきった顔に妖艶な微笑が滲んでいる。


「ふん、期待どおりに行きましたね。なかなか良かったですよ」

「な、なんだ?何の話だ?」

「囮捜査ですよ。最近嫌がらせを受けて仕事がままならない女性職員が多くてですね――」


 ここ数ヶ月、雑務課では書類を隠したり、ゴミを机に入れるなどの陰湿な嫌がらせが流行っていたらしい。

目撃証言で、今日ラーニャをはめようとした女性三人が容疑者に浮かんできたのだが――。


「彼女らは貴族の出でしてね。証拠もないのにクビにしたら後あと厄介だったんですよ」


 彼女らは手が出せないのをいいことに、嫌がらせを次第にエスカレートさせていき、そして大臣補佐官を襲うという事件が起きた。

なんのことはない、マドイは最初から捕佐官が辞めた理由に勘付いていたのだ。

大した実害はないからと彼女らを放置しておいたマドイは責任を感じ、証拠を押さえるために今回の囮調査に踏み切ったという。


「ちょっと待ってくれよ。囮捜査って……。オレと何の関係があるんだよ?」

「分からない子ですねぇ。貴方を囮にしたんですよ」

「え?」

「雑用として大臣室に呼び、四六時中一緒にいる所を見せて、なおかつ公衆の面前でイチャついてみせる――絶対に彼女達の目につくと思いましてね」


 彼女らの嫌がらせの相手は、マドイと接する機会の多い女性ばかりだったという。

だから彼は一計を案じ、あえてラーニャと頻繁に接点を持ったのだ。


「つまりマドイはオレをこの女たちの次のターゲットにするために、オレを近くに寄せたり、抱き上げたりしたのか?」

「やっと分かりましたか。作戦を確実にするために愛人やら何やらの噂を流したりして、結構大変だったんですよ」


 マドイは最後にとんでもないことを言っていたが、今はそんなことどうでも良かった。

ラーニャは怒気をあらわにして、満足そうにしているマドイに詰めよる。


「じゃあテメーはオレがコイツらに襲われるの分かってたのかよ!?」

「もちろん、いざというときは助けるつもりで見守ってましたよ。ただ、貴方があまりに強かったというか――。おかげで証拠が手に入りましたけどね」

「この外道!」


 ラーニャは最初から三人を捕まえる餌として大臣室に呼ばれたのだ。

なぜだか分からないが、無性に悔しさがこみ上げてくる。


「ひょっとして、書類がなくなったのもコイツら仕業かよっ!?」

「ええ。分かってましたが、あえて泳がせておきました」


 知っていたからこそ、マドイはそこまで怒らなかったのだ。

寒空に放り出したのは罰するためではなく、人前でイチャつくきっかけを作るため。


 ラーニャはあまりの怒りと悔しさで顔を真っ赤にしていたが、今回の件に潜んだある重要な点に気付くと、途端に青ざめた。

詰めよるのをやめて、恐る恐るマドイの顔を見上げる。


「なぁマドイ……。今回オレを囮に選んだってのはその……何と言うか……」

「どうしました?」

「今回の囮って、男がやっても意味なかったんだろ?と、いうことはつまり――」


 ラーニャは勇気を振り絞って言った。


「マドイ……オレが女だって知ってた?」


 ラーニャの言葉にマドイはあっさりうなずいた。


「ええ。もちろん知ってますよ」

「いっ、一体いつ気付いたんだよ!?」

「二度目に貴方を魔導庁へ誘ったときです」


(そ、そんな早くから――?)


 一体どうやって気がついたのだろう。

そもそも知っていたのなら言ってくれればよかったのに。

マオ族の女、しかも子供が一人暮らしをするのは厳しいから、まだ男装する必要はあるが、周囲が事情を知っているかいないかは気分的に差がある。


「どーやって分かったんだよ? ミカエルから聞いたのか?」

「あの時、貴方風呂に入ったでしょう?貴方を風呂に入れた侍女から聞いたんです。まぁ小柄だし声が高いし、前から少し怪しんではいましたが」

「そんな……。言ってくれよー」

「言うも何も、魔導庁の通行許可証を見てください。名前の横の性別の欄、どうなってますか?」


 言われたとおり許可証を見ると、性別の欄にはしっかり「女」と記されてあった。


「ああああ。なんてこった」

「今まで気付かなかったこっちもビックリです。やっぱり馬鹿ですか」

「でっ、でも、聖夜の時オレが男なのに柔らかいとか何とか――」

「アレはわざとからかってやっただけですよ。酔っていても男に引っ付く趣味はありませんから」


 そういえばミカエルもラーニャが女だと告白した時、似たようなことを言っていた気がする。


(このむっつりスケベ兄弟め――!)


 ラーニャはマドイへの腹立たしさと同時に、自分の情けなさを痛烈に噛み締めたのだった。


「女の敵は女編」は今回でおしまいです。

楽しんでいただけましたでしょうか。


次回からは「レシピ探し編」が始まります。

ミカエル視点のお話です。

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