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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
46/125

女の敵は女編3 狭いトコで長いモン振りまわすな

 仮にラーニャがマドイの愛人だとしても、なぜ彼女らのために魔導庁を辞めなければならないのだろうか。

もちろんそんな要求飲めるはずがない。


「ふざけんなバカヤロー。どうしてオレが辞めなきゃならねーんだ」

「アンタみたいな貧相な小娘は、殿下の横にいるだけでおこがましいのよ。今すぐ故郷にでも帰りな!」


 ラーニャは答えの変わりに、無言のまま舌を出す。

だが断られても、まだ彼女は余裕たっぷりとばかりに笑みを浮かべていた。


「辞めないなら、こっちにも考えがあるわ」

「あ?」

「ここにいる彼らは騎士見習いなの。彼らに頼んでアンタを裸にして、光魔法式カメラで写真とってばら撒いてやる。こないだの補佐官なんか傑作だったんだから」


 庶民にはとても手が出ない値段の光魔法式カメラを持っているということは、彼女は貴族のお嬢様か。

それとも富豪の娘か。

だがラーニャは彼女の身分よりも、「補佐官」という言葉に反応した。


「おい、こないだの補佐官ってどういう意味だ」

「あのクソマジメ女、庶民出の癖にちょっと頭がいいからってチョーシのってさ。いつも殿下の傍にいてムカつくから、今みたいに呼び出してやったの。それで――」


 ラーニャは話を続けようとする女を制した。

月明かりの下で、彼女の金色の目は爛々と輝いている。

ラーニャは思い切り五人を睨み付けると、唸るように言った。


「それで裸に剥いたってぇのかい?」

「そうよ。この写真バラ巻いてやるって言ったら、明日にはいなくなってたわ」

「……」


 大臣補佐官が急にいなくなったわけが分かった。

彼女はこの女共に酷い目に会わされた挙句脅されて、泣く泣く魔導庁を去ったのだ。


(上等じゃねーか)


 ラーニャは小さな足で大地を踏みしめると、彼女らに向かって牙をむき出した。


「裸に剥くなら剥いてみやがれ、コノヤロウ! オレが相手になってやる!」

「アンタ本気ぃ?」


 厚化粧が傍にいた男たちに目配せすると、彼らはラーニャににじり寄った。

騎士見習いと言うだけあって、彼らの体つきは皆一様にたくましいが、その目は嗜虐と欲望の色に満ち溢れている。


「こんなのが騎士見習いたぁ、世も末だね」


 ラーニャはにやりと笑うと、一番近くにいた男にひじ鉄砲を放った。

男はそれを両手で受け止めるが、彼女の一撃は見た目に反してあまりにも重い。

男は防御の体勢のまま、壁に背中をしたたかに打ちつけた。


「がはっ」


 さらにラーニャは容赦せず、隙が出来た男の腹に蹴りを打ち込む。

彼女を普通の少女だと思って油断だらけだった男は、すぐに雪が残る地面に沈んだ。


「かぁ~、やっぱ油断は一番の敵だな。さ、次は誰が相手になる?」


 残った男たちは一瞬焦りを滲ませたが、すぐにそれを消して腰に差していた長剣を抜いた。

暗闇に光る二振りの長剣。

威圧感有り余る光景だったが、ラーニャはみじんも恐れを見せず、ふんと鼻を鳴らした。


「お前ら馬鹿かぁ?こんな所で長剣抜いてどーすんだよ」

「なんだと?」

「狭いとこで長剣振り回せるはずないだろーが!」


 次の瞬間、ラーニャは何を思ったか、厚化粧女の近くにいた取り巻きの女性の一人を、自分に向かって引き寄せた。


「それに、今ここで暴れたらコイツにも当たっちゃうわよー」

「なんて卑怯な」

「集団で女裸にしたヤローに言われたかねぇよ!」


 ラーニャは剣をかまえた男の一人に向けて、人質を乱暴に突き飛ばす。

彼女を受け止めようと男が慌てた隙に、ラーニャは素早く彼の右顎に回し蹴りを食らわせた。

そして倒れこんだ彼の長剣を奪うと、最後に残った男にそれを向ける。


「さあどうする? 降参するか?」

「何をバカな。狭い所で長剣を使うなといったのはお前の方だろ」

「ははは、ここで剣が使えないのはテメーだけだ。テメーは下手に剣振り回せば味方に当たるが、オレは誰に当たったってかまわんもんね」

「なん……だと?」


 ラーニャが剣を上に振り上げると、そばで見ていた女たちは一斉に逃げ出した。

しかしここは狭い隙間である。

とにかく逃げようとした女たちは無意識のうちに味方の男の方へ向かい、結果彼は彼女らに次々とぶつかられて隙だらけになった。

もちろん、その好機をラーニャが逃すはずがない。


 次の瞬間男の顔には拳がめり込み、彼はそのまま仰向けに倒れた。


「さーて、邪魔なヤツは片付いたな」


 ラーニャはにんまり笑いながら、すっかり怯えている三人の女たちを見る。

するとその中で一番地味な顔をした女が、厚化粧を指差して叫んだ。


「アタシは悪くないんです!この女に誘われてしょうがなく」


 もう一人の何の特徴もない女も叫ぶ。


「そうなんです。みんなコイツに言われて……。あたしたちイヤイヤ仲間に入れられてたんです!」


 そこから先は責任の押し付け合いと醜い罵りあいだった。

「アンタが言いだしっぺだ」「アンタには元々うんざりしてた」「この卑怯者」「地味ブス」――など聞こえてくる悪口はきりがない。

彼女らのあまりに汚い争いにラーニャはうんざりしてため息をついた。


「テメーらの誰が一番悪かろうとも、裸にされた補佐官に取っちゃ一緒だ。落とし前はつけてもらうからな」

「あ、アンタアタシたちを裸にする気?」

「まさか。テメーらと一緒にすんじゃねーよ」


 なにかいい方法アイデアはないか。

ラーニャはしばらく考えていたが、女たちが身につけていた「あるもの」に気付くと、悪魔のような笑顔を浮かべた。

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