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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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聖なる夜には奇跡が起きる?編6 聖夜の奇跡

 激しい閃光と爆発音の後、ラーニャは恐る恐る目を開けた。

だがそこには爆発で消えたはずのやぐらがそのままの形で残っていた。

しかもやぐらの展望部分には、死んだはずの男がポカンと口を開けたまま立ち尽くしている。


「おいマドイ……。爆発しなかったぞ」


 結界を張るのを止めたマドイは、首をかしげて無事だったやぐらを仰ぐ。

良く見れば、やぐらのまん中にはなぜか穴が開いていた。


「爆発しなかったんなら、あの音と光は何だったんでしょうか――?」


 マドイが呟くと同時に、稲妻と雷鳴が辺りに轟いた。

そういえば王都の辺りでは雪が降る前に、雪起こしの雷が鳴ると聞いたことがある。


「雷ですよ。ラーニャ」

「え? 何が?」

「先ほどの音と光です。あれは雷が落ちたんですよ」


 マドイはなぜか朗らかに笑いながらやぐらの下に近付いた。


「なんていうことでしょうね。見てください。ちょうど爆弾が仕掛けられた所に雷が落ちてますよ」

「え?じゃあ――」

「ええ。爆発の瞬間、ちょうど爆弾に雷が落ちて爆弾の機能が失われたんです」


 何という偶然だろうか。

いくら雷が高い所に落ちる習性があるとはいえ、爆発の瞬間に狙い打つように爆弾に命中するなんて、物凄い幸運以外の何物でもない。

しかも横にいた男は無傷のままなのだ。

こんな偶然ありうるのだろうか。


「ありえねぇ。こんなこと本当にあるのかよ……」

「おや貴方、聖夜には奇跡が起きるとか言ってませんでしたっけ?」

「それは……」


 それは男を飲み誘うために言った、ほとんど出任せであった。

まさか本当に奇跡が起こってしまうなんて、言った本人が一番ビックリである。


 二番目にビックリした男はというと、ようやく自分を取り戻してそろそろとやぐらを降りてきた。

地面に降りるなり腰を抜かしてへたり込む彼を、群集は拍手と歓声で出迎える。


「よくやった!」

「お前はヒーローだ!!」

「ヒーロー誕生だ!!」

「ヒーロー万歳! ヒーロー万歳!」


 群集は腰を抜かしている男を担ぎ上げると、示し合わせたように胴上げを始めた。

めでたい掛け声が、新年を向かえた広場に響く。


「バンザーイ! バンザーイ!」


 仕事を失い死を願った男は、年越しの瞬間に勇敢なヒーローとして生まれ変わっていた。


「バンザーイ! バンザーイ!」


 雪がチラホラ降り始める中、男を称える胴上げはいつまでも続いていた。







 ラーニャが新年最初の新聞を見ると、昨夜の事件が一面に載っかっていた。

そこには主に聖夜に起こった奇跡と子供を助けた男のことが書かれており、紙面の中央には彼のプロフィールまでついていた。

記事によると、王宮では自分の命を顧みず子供を救おうとした男に、勲章を授与する話も出ているらしい。


 ほんの数時間前まですべてに絶望して川に飛び込もうとしていたのに、一夜明けたら一躍ヒーローとは、人生分からないものである。

男の活躍を聞きつけたいくつかの工場の事業主が、彼を雇いたいと申し出ているというし、勇敢な彼ならばきっとそのうち優しい恋人も出来るだろう。


 一方、一夜でヒーローになったあの男とは対象的に、彼を雇っていた社長は明け方に軍に身柄を拘束されたそうだった。

罪のない市民を爆弾で無差別に殺害しようとした罪で、良くても終身刑だという。

動機は男が推測していた通り、聖夜の幸せそうなカップルと家族連れが憎かったそうだ。

爆弾の部品は元から工場にある物を使ったり、工場で使うと称して他の所から手に入れ、爆弾そのものの設計は図書館に通って学んだらしい。

新聞によると爆弾の設計はかなり難しいというから、どうしてその情熱を他のことに向けなかったのか、ラーニャには謎だった。


 ちなみに水系魔法と火炎系魔法を使って水蒸気爆発を起こすという魔法技術は、元はと言えばマドイが考え付いたものだったらしい。

そのことを新聞で知ったとき、ラーニャは椅子からひっくり返りそうになった。

そもそもマドイはその魔法技術を考案したことがきっかけで、魔導大臣に推薦されたのだという。

火と水という相反する属性の精霊から守護を受ける彼は、違う属性同士の魔法を掛け合わせて新たな効果を生み出す研究の第一人者だったのだ。


 ラーニャは意外にマドイが優秀だったことに悔しさを覚えつつ、新聞を閉じた。

婚約者に裏切られて酒びたりになっているかと思えば、群集を纏め上げたり、よく分からない男である。

新年早々上司のことを考える自分に嫌気を感じながら、ラーニャは窓を開けて日の出を拝んだ。


 去年の今頃は日の出なんか見る余裕もないほど村で貧しい生活を送っていた。

それが一年足らずの間に、ミカエルとの出会いを経て何やかんやで魔導庁に入るとは、人生とは面白いものである。


 さて、今年はどんなことが起こるだろう。


 このときラーニャはこれから自分の人生を大きく変える出来事が待っていることも、それに今回の爆弾事件が少なからず関わっていることも、まだ知らないのだった。


 「聖なる夜には奇跡が起きる?編」はこれでおしまいです。

 次回からは「女の敵は女編」が始まります。

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NEWVEL

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