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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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聖なる夜には奇跡が起きる?編4 聖夜を憎むバカな奴

 小さな町工場に警備がついているはずもなく、三人は簡単に敷地内に侵入することが出来た。

薄汚い工場の中は明りもなく真っ暗で、ひっそりと静まり返っている。

年越しを控えた夜中に人が残っているはずないのだが、酔っ払った三人はそれに気付いていなかった。


「コラー! 社長出てこい!!」


 叫びながら工場内をうろついていたラーニャは、奥の方に「社長室」と書かれた扉を見つけた。

無用心なことに、扉は年の瀬にもかかわらず半開きである。

調子に乗った三人は開いているのをいいことに、部屋の中へ入り込んだ。


 工場自体は汚いが、社長室の中はそれなりに立派だった。

室内を見回していたラーニャは、ふと社長の机に目を留める。

机の上は魔機械の設計図らしいものと、その部品らしきもので散らかっていた。


「おいマドイー、何か机の上に置いてあるぞー」


 マドイは置いてあった設計図を見ると、魔導士の性かそれを熱心に読み始めた。


「なあ、何が書いてあんだよ」

「おだまりなさい」


 今の今まで上機嫌だったのに、随分と冷たい仕打ちである。

ラーニャが口を尖らせていると、マドイが真剣な顔で男に聞いた。


「ここの工場は、普段から爆発物を扱っているのですか?」

「いや……。ただの部品製造ですよ。――どうかしましたか?」


 マドイはもう一度設計図に目を通すと、硬い表情のまま二人に向き直った。


「この設計図……残っている部品から見ても間違いなく、爆弾の設計図です。――それも強力な」


 ラーニャと男はマドイが冗談を言っているのだと思い、顔を見合わせて大笑いした。

だがマドイの紫の瞳は少しも笑っていない。

異変に気がついたラーニャは、彼の顔を覗きこんだ。


「お前……ひょっとして本気で言ってる?」

「ええ。ここに記されているのは魔力を動力源にし、最初に水系魔法を発動させ、それに火炎系魔法を掛け合わせて水蒸気爆発を起こさせるタイプの魔機械を使った爆弾です」

「えーっとよく分かんないけど、ヤバイのか?」

「この設計図を見る限りでは、家十件軽く吹き飛ばせるでしょう」


(なんでそんな物騒なもんがこんな所に!?)


 ここは部品製造業を営む町工場である。

爆弾とは縁もゆかりもないはずだ。


「おいおっさん、こんな物何に使うんだよ」

「しっ知りませんよ! ワタシ十年以上ここに勤めていましたが、爆弾なんて扱ったこと一度もありませんでした」

「じゃあ一体なんで……」


 ラーニャが考え込んでいると、男が急に手を叩いた。


「思い出しました! ワタシ、その設計図と組み立てられた魔機械を見てクビになったんです!!」


 一週間ほど前、男が社長がいると思って無人の社長室に入ると、机の上にその設計図と得体の知れない魔機械が置いてあったという。

そして戻ってきた社長にここにある魔機会について尋ねると、いきなりクビになったそうだ。


「――つまり、オッサンは爆弾を見てクビになったっていうことか」

「見られてはイケないものだったんでしょうねぇ。しかし呑気なこと言ってられませんよ。これが町中に仕掛けられたら、大変なことになります」


 すっかり酔いが覚めたのだろう、マドイは王子の顔になって男の方へ向き直った。

漂う空気も、いつもの妖しさと威厳が入り混じったものに戻っている。


「貴方、この爆弾が何に使われるか手掛りのようなものは思い出せませんか?」

「あっ、そういえば何かやぐらの見取り図みたいなものが隣に置いてありました!」

「やぐらですか?」


 ラーニャはたまらず「広場だ!」と、叫んだ。

聖夜である今夜は、王都の中心街にある広場に展望用のやぐらが立つのだ。


 それを聞いて、マドイの顔色がますます青くなる。


「やぐらが立つ広場と言えば――あそこ毎年三百人は集まるじゃないですか! この爆弾なら広場の半分は余裕で吹き飛ばせますよ!!」

「なんだって!?」


 次の瞬間、三人は例の広場に向かって工場を飛び出していた。

家十件を軽くを吹き飛ばす爆弾。

もしそんなものが広場に仕掛けられたとしたら、最低でも百人は死ぬことになる。


「なんでおっさんトコの社長はそんなモン作ったんだ!?」

「社長はワタシよりも年上なのに、家族どころか恋人すら出来たことがないんです。二人でよく愚痴りあってました。きっと聖夜が憎かったんです!!」

「でも何でよりによって広場に……」

「あそこは毎年カップルと家族連ればかり集まりますから――!」


 男の働いていた所の社長は、自分の惨めさを周りへの攻撃性にすり変えたらしい。

最悪の暴発パターンだと、ラーニャは舌打ちした。


 ラーニャたちが例の広場に駆け込むと、そこは恋人たちと家族連れでいっぱいだった。

並べられたキャンドルにより暖かな光で満たされたその光景は、噂にたがわぬ美しさである。

だが今のラーニャに感動に浸っている余裕はなかった。


「おい! やぐらに急ぐぞ!」


 始めて見た展望用のやぐらは思ったより高さがあり、丈夫そうな丸太で出来ていた。

やぐらを眺めて不審物を探すが、人が多いせいでなかなか見つけることが出来ない。


(何もなきゃないでいいんだけど……)


 だがそんなラーニャの希望はすぐに打ち砕かれた。

よりによって、やぐらの展望部分の床の裏にくくりつけられている爆弾を見つけたからである。


 あれをどうやって回収し、まだどうやって爆弾を解体すれば良いのか。

ラーニャはしばし絶望感にとらわれた。

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