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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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聖なる夜には奇跡が起きる?編2 絡むな酔っ払い

 ワインボトルを一人で空けたマドイは、完全にふらふらになってソファーによりかかっていた。

なのにまだワイングラスを持ちながら、新しいボトルの栓を開けようとしている。


「あーもー。これ以上飲んじゃダメだってば!」

「いいでしょう別に。こんな聖夜飲まなきゃやってられませんよ」


 マドイは止めようとしたラーニャを押しのけると、ワインの栓を引き抜いた。

彼は手酌で注いだ酒をすすりながら、隣に座っているラーニャの顔を覗きこんでくる。

その朱が差した顔には退廃的な色香が漂っていたが、ラーニャはただ気色悪いとしか思わなかった。


「あんまり近よんなよな。気持ち悪い」

「そんなこと言わないで下さいよ。婚約者に騙された可哀想な(わたくし)を慰めてください」

「婚約者婚約者って――オメェさっきからそればっかだな」


 婚約者に騙されていたと言う事実は、やはり彼の心に相当大きな傷を作っていたらしい。

マドイは先ほどから彼女に対する未練や恨みを、ぼやいてばかりいた。


「去年まではずっと、聖夜の夜は彼女と一緒にいたんですよ。それなのになんで今年はこんな子猫と一緒なんですか!」

「子猫で悪かったなぁ。これでも十四だよ」

「嗚呼、精霊祭の町並みを見るとローズのことを思い出す……。飲まなきゃホントやってられませんよ」


 今回の自棄酒も、全ては婚約者に振られたことが原因らしい。

ラーニャは未だ立ち直れていないマドイに同情しつつも、段々酔っ払いの相手をするのが辛くなってきた。

しかし酔った本人がそんなこと気付くはずもなく、それどころか火照った体をますますラーニャに寄せてくる。


「もう女なんて信じられません。周りにも浮気されただのなんだの、そんな話ばっかり。あーあ、貴方が女なら良かったのにねぇ」

「おい、お前酔いすぎだよ」

「ラーニャったら男の癖に、なんか丸っこくて女の子みたいなんですもの……。ほら、この辺りなんて特に」


 マドイは何を思ったのか突然ラーニャの二の腕を掴むと、彼女の体を自分に向かって引き寄せた。


「……やわらかい。暖かくて気持ちいいですねぇ」


 マドイが放った色を含んだ視線に、ラーニャの白い尻尾が大爆発した。

確かにラーニャはマトモになった食生活のおかげで、最近女性らしい丸みを帯びた体つきになってきたが――そういう問題ではない。


「顔もよく見ればなかなか可愛いじゃないですか。ちょうど女性にも飽きてきてたし。ラーニャ、私の愛人になる気は――」

「っざけんなバカヤロウ! 吐きそうなこと言ってんじゃねーよ!! ウオエエェェ!!」


 ラーニャはマドイを突き飛ばすと、喉を押さえながらベロを出した。

もうこれ以上、彼の悪酔いとセクハラには耐えていられない。


「酒なら一人で飲んでろ! オレはもうキャンドル見に行く!! このままテメーの相手してたら年が開けちまう」


 事実、ラーニャがマドイの相手をして絡もう数時間が経過していた。

あんなに高かった日も、もうとっくに暮れてしまっている。


「ラーニャ、行ってしまうのですか?」

「ああ。また来年な」

「――私も行きます!」


 この酔っぱらいは何を考えているのかと、ラーニャは金色の瞳をひん剥いた。

しかし言い出した本人は至ってマジメな表情である。


「ここにいても一人だし、私もキャンドルを見に行きます」

「オメー王宮に帰れよ」

「イヤです。ヘンリエッタ様のBL談義ももう聞き飽きました」


 一体王妃は義理の息子に何を語っているのだろう。

というか一国の王妃の趣味がBL(ボーイズラブ)とは、この国の行く先は大丈夫なのだろうか。


「……それでも帰れ。ミカエルとトランプでもしてろ」

「連れて行ってくれないなら、私一人で行きます。キャンドル見ます」


 マドイはソファーから立ち上がったが、足取りは酒のせいで頼りない。

泥酔した一国の王子を寒空の下に一人で放り出すのは、さすがのラーニャにも抵抗があった。

このまま彼を放っておいたら、人恋しさでまた変な女どころか、男にすら引っかかってしまいそうである。


 結局ラーニャはマドイを連れてキャンドルを見に行くことにした。

道行く人は、まさか子供のマオ族によりかかって歩く男が一国の王子だとは思うまい。


 ラーニャは酔ったマドイを支えながら、毎年キャンドルが一番美しく飾られるという広場に向かった。

そこには精霊祭の時だけやぐらが立てられ、キャンドルが灯った町が一望できるようになるという。


 ラーニャが広場に行くためにマドイを叱咤しながら歩いていると、ふとそばにある石橋の上に男がいるのを見つけた。

それだけなら何ともない光景だが、なぜか男は必死に橋の欄干に向けて足を上げている。


(ありゃダンスの練習か?)


 ラーニャは呑気にその様子を見守っていたが、次第に不審に思って目を凝らした。

良く見てみれば、男はダンスの練習をしているのではなく、足を上げて欄干を乗り越えようとしている。

石橋の下はもちろん川だ。

水深は大したことないが、この寒さで急に飛び込んだら命の危険があることは間違いない。


「おいオッサンなにやってんだ!?」


 ラーニャは支えていたマドイを無情にもその場に放り出すと、今にも飛び込みそうな男に向かって一目散に駆け寄った。

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NEWVEL

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