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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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精霊隠し編12 子供たちの帰還

 叫んだまま気絶したラーニャは、気がつくと元の大岩の前に立っていた。

ぼんやりしているのは本人だけで、ミカエルとマドイは突然現れた彼女に慌てふためいている。

取り乱している二人を見て、ようやくラーニャは現実世界に戻ってきたことに気がついた。


(オレ、合格したのかな?)


 光の玉がなくなった両手を見ながらそう思っていると、ふいに辺りが騒がしくなった。

顔をあげて見れば、いなくなった子供たちが大岩の前できょとんとしながら座っている。

どうやら精霊たちは、ラーニャに親の資格ありと認めたらしい。


(まだ親どころか結婚もしてないし、恋人すらいないのに)


 精霊たちも随分段階を飛ばした試験を課したものである。

つい先ほどまで重い光の玉を抱えていた両腕は、今はだるさも疲労感もない。

あれは幻だったのだろうか。


 いきなり消えていきなり戻ってきたラーニャに、そばにいたマドイが興味津々と行った様子で話かけてきた。


「一体何があったのですか? 詳しく聞かせなさい」

「……別にぃ。ちょっと精霊にお願いしただけだよ」


 ラーニャは今はそれ以上答える気になれなかった。

カラッポになった両手を、名残惜しげに眺める。


 ラーニャが手にしていた光の玉。

あれはこれから生まれてくる人間の命だという。


「いつか会えるといいなぁ」


 ラーニャはそびえ立つ巨大な岩を眺めながら呟いた。







 現実世界に戻ってきた子供たちは用意していた馬車に乗せられ、直ちに王都まで送り届けられた。

子供たちの乗せた馬車が王都に入ると、彼らの親たちが待ちわびていた様子で出迎える。


 一緒に王都へ帰ってきたラーニャは、そんな親たちの姿を複雑な気持ちで眺めていた。

果たして彼らには、再び子供たちを育てる資格があるのだろうか。


 子供たちが馬車から降りてくると、親たちは一斉に彼らの方へ走りよった。

子供たちもけなげなもので、自分を散々酷い目にあわせた親の胸に飛び込んで行く。


「エリィ!エリィ!」


 今エリィとエリィの父親は、感動の再開を果たしていた。

エリィは痣の消えた頬を思い切り父親の胸にすりつけている。


「エリィ。 ほら、お母さんよ」


 エリィの母親は一見優しそうな笑みを浮かべながら、エリィを抱き締めようとした。

だが母親の腕は、エリィの体を抱きとめることなく素通りする。


「どういうことなの!」


 我が子の体をすり抜ける腕を見ながら、エリィの母親はわめいた。

周りには、他にも息子や娘の体に触れられず、叫んでいる親たちがいる。

彼らは一心不乱に我が子の体に触れようとしていたが、いくら頑張ってもその腕は空しく中を掴む。


「ど、ど、どういうことなんだこれは!!」


 エリィの父親が驚愕に見開かれた目でラーニャたちを見た。

同じく横にいたマドイもミカエルも、唇を引き結んでいるラーニャを見やる。


「これはどういうことですか? ラーニャ」

「……」


 ラーニャはしばらく黙りこむと、「オレが精霊に頼んだんだ」とだけ言った。

ミカエルが口をポカンと開けたまま彼女に聞く。


「もしかして、エリィのお母さんに通報されたこと根に持ってるの?」

「そんなんじゃねぇよ」

「じゃあどうして?」

「……子供たちのためだよ」


 ラーニャは大地の精霊に子供たちを帰してくれと頼む時、こう提案したのだ。

もし今回自分の子がいなくなったことで、今までの仕打ちを心から反省した親には子供を素直に返す。

そして口先ばかり心配して、同じ過ちを繰り返すだろう親には子供に触れなくしてしまえば良いと。


「もちろん、親以外の人間は子供に触れるよ。触れないのは反省してない親だけだ。そうすれば前みたいに殴ったり出来ないだろ?」

「じゃあ、エリィのお母さんは二度とエリィに触れないの?」

「いんや、心から反省すれば触れるさ。そう精霊たちが判断すればな」


 もし彼らが再び我が子を抱きたいなら、愛情たっぷりに世話をするだけでいい。

当たり前のように食事を出し、話かけ、絵本を読んでやれば良い。

それはとても難しいことだが、それが出来なければ彼らが再び親になる資格はない。


 ラーニャの話を聞いたエリィの母親と、同じく我が子に触れなくなった親たちはその場に崩れ落ちた。

残酷な仕打ちかもしれないが、きちんと心を入れ替えない間に子供を返したら、きっと同じ過ちを繰り返すだろう。


 エリィの母親は、夫の胸に抱かれている我が子に向かって泣き喚いていた。


「ねぇラーニャ。あの親たち、いつになったらまた子供たちに触れると思う?」

「さーな。下手すりゃ一生触れねーぞ。ひょっとしたら孫も抱けないかもな」


 子供たちのためにも、そうはなって欲しくないが。

しかしそれを決めるのは、今も子供たちの周りにいる大地の精霊だけである。


 帰ってきた子供たちは、泣いている親の前で何も知らずにニコニコ笑っていた。



 長かった精霊隠し編ですが、これで終了です。

次回からは「聖なる夜には奇跡が起こる?編」が始まります。

年末年始の話です。

微妙に時期がずれてしまいましたが、どうぞご覧下さい。

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NEWVEL

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