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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
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精霊隠し編6 犯人は誰だ

 精霊は単体では姿が見えず、持っている力も少ない。

膨大な数の精霊が集まって一つになれば形も肉眼で確認できるようになるし、力も大きなものになるが、自然の状態でそうなることは滅多にない。

故に魔法を使うときは呪文と魔力で必要な属性の精霊を引き寄せ、その力を借りるのだ。

ちなみに精霊の守護を受ける者が強い魔法力を持つのは、守護する精霊が少ない魔力で寄って来てくれるから――つまり燃費が良く魔法が使えるからである。


「精霊が失踪事件に?そんなまさか!」


 ラーニャは思わずそう叫んだ。

だが他の者達は既に事態を受け入れているようである。


 サリーは珍しく深刻な様子で呟いた。


「精霊隠し……五十年前に一度あったと聞いていますが……。まさか今回の事件も――」

「知ってるんですか先生!?」

「ええ。研究者の間では有名な話です」


 五十年前、ロキシエルの中央にあるリーラ大草原の近くの町で、子供が連続して何人もいなくなったという。

それも大人の目の前で忽然と姿を消す形でだ。

結局集まった風の精霊のいたずらだと判明し、風精の精霊の守護を受ける者の仲介により事件は解決したが、精霊の力を示す貴重なケースだとして今も研究者の間で語り継がれているという。


「そんな事件……ちっとも知らなかった」

「皆無事に帰って来ましたからね。だから一般ではあまり知られていないのでしょう」

「じゃ……今回も風の精霊が?」


 しかしマドイは首を横に振った。


「分かりません。伝説では他の精霊も精霊隠しを行った話がありますし、だからこそ精霊局の人間全員を集めたのですよ」

「でも……ここに全員いなくないか?」


 精霊の種類は全部で光・風・火・大地・水・闇の六種類。

精霊局には現在属性一つにつき、守護を受ける者が一人ずついるが、今大臣室にいるのは四人である。

ラーニャが怪訝な顔をしていると、マドイは思い切りバカにした感じでその艶のある唇を歪めた。


「貴方、発言はきちんと考えてからにして下さい。光と闇、火と水は大剋(だいこく)と言って非常に相性が悪い事は知ってますよね?」

「……はい」

「だからそれらの属性の守護を受ける者が重ならないように、班を二つに分けたのです。精霊が喧嘩すると厄介ですから。というか、精霊局が何で二部屋もあるか知らないんですか?」


 そういえば精霊局には六人しかいないのに、なぜ部屋が二つも取ってあるのか不思議に思ったことがある。

理由を言われて今始めて納得した。


「でも、マド……いや大臣は火と水の精霊両方から守護されているじゃないすか。何で大丈夫なんですか?」


 仕事中は大臣と呼ぶよう厳しく言われているため、ラーニャは慌てて言いなおした。

その質問に、聞かれた本人ではなくサリーが答える。


「相反する精霊に守られているゆえに、大臣の心はとても不安定です。男か女ハッキリしない見た目も、二つの精霊のせいだと私は推測しています」

「サリー、よく本人の前でそんな言い方できますね。私は女性と見紛う程美しいですが、れっきとした男性だし、不安定でもありません!」

「ラーニャ、分かりましたか?」


 全く意に介さないサーリーに、マドイは手元の万年筆を握り締めて震えていた。

心なしか部屋の気温が下がった気がしなくもない。


「とにかく! 貴方たちにはこれから失踪した子供たちの家に行ってもらいます」

「兄上ー。ボクたちが行って何か意味があるんですか?」

「いい質問ですね、ミカエル。精霊の守護を受ける者は自分を守護する精霊の属性に敏感です。全属性の被守護者が現場を辿れば、失踪に関わっている精霊を割り出すことが出来るかもしれない――単純なやり方と言えばそうですが」

「もし誰も何も感じなかったら?」

「そのときは精霊の仕業じゃないということになるでしょうか」


 マドイに命じられ、ラーニャたち精霊局第二班は最初に失踪した子供の家に向かった。

目的地着く前に、ラーニャは始めて見た水色の瞳の少年に話しかける。


「オレはラーニャ。大地の精霊の守護を受けてる。お前は?」

「俺はレン、ケラー。水の精霊の守護を受ける者だ。あと気安く話しかけないでくれ。暑苦しいのは嫌いなんだ」


 彼は若いくせに随分と覚めた性格をしているらしい。

眼光も鋭く、全体的に冷たい雰囲気が漂っている。


(けっ、格好つけ野郎め)


 ラーニャは言われた通り彼から離れて、友人ミカエルの方へ行った。


「ミカエル、お前魔導庁の所属だったんだな」

「光属性はボクしかいないからねっ。兄上と仲が悪かった頃はほとんど行かなかったけど、これからはたまに顔を出すよ」

「しかし王子直々に調査とはねぇ」


 ラーニャはずらりと周りを取り囲む護衛の兵士たちを眺めた。

普段はアーサーしか護衛をつけないくせに、今日は偉く豪勢だ。


「これはボクだけの護衛じゃないよ。精霊の守護を受けてる人間は凄く貴重だから、まとめて動くときはこうして護衛がつくんだ」


 話しているうちに、目的地の最初に失踪した子供の家に到着した。

一般市民の住む住宅街にある、ごく普通のレンガ造りの一軒家である。


 失踪したのはこの家の一人息子、ジェームス。

五歳の彼は夜中いきなり外に出たかと思うと、目の前で突然姿を消したという。


 兵士が扉を叩いて来訪を告げると、中から女性が応対に出てきた。

三十手前の年齢とやつれぶりから、女性が使用人ではなく子供の母親なのだと分かる。

家の中も一応観ることになり、ラーニャが敷居をまたごうとすると、中からいきなり罵声を浴びせられた。


「おい!なんでマオ公がいるんだ!!」


 玄関の手前で、主人らしき大男が仁王立ちをしてラーニャを睨んでいる。

つくづく今日は種族のことで嫌な目に会う日だとラーニャは思った。

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