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激烈出稼ぎ娘  作者: 種子島やつき
第二部
26/125

精霊隠し編1 いざ!魔導庁へ

 第二部突入です。

これからもよろしくお願いします。



 魔導庁は国中の魔法士・魔導師を管理し、また世界でも最先端の魔法研究を行う王立機関である。

ロキシエルが魔法大国として知られているのも、この魔導庁のおかげであると言っても過言ではなく、国内で魔法の道を志すものにとってはまさしく憧れの場所だった。


 数日前のことである。

改めてマドイに魔導庁へ誘われたラーニャは、その話を受けることにした。

勧誘目的が誰かへの嫌がらせではなく純粋な魔法研究のためならば、断る理由はどこにもない。

条件は何とも有難いことに前回と全く同じだった。


 ラーニャは深呼吸すると、改めて目の前にそびえ立つ魔導庁の門を仰いだ。

魔法で栄えるロキシエルを象徴するかのような、巨大な石造りの堅牢な門。

以前来たときにはマオ族だからという理由で門番に追い返され、くぐることさえかなわなかった。

そんなラーニャが魔導大臣直々のスカウトで魔導庁に勤めることになろうとは、人生分からないものである。


 かくしてラーニャは劣悪な労働条件とどぶ底のような街から抜け出し、晴れて魔導庁に入庁することになったのだった。







 ラーニャが魔導庁に入って最初にやったことは、何と学力テストだった。

仕事をする前に、まずはどれだけ魔法の知識があるのか確かめるのだという。

三時間にも及ぶ長い試験をやらされ、ラーニャは工場で働いているときと同じくらいふらふらになった。


「で、何点だったんだよ」


 採点が終わり、結果を知らせに来たマドイにラーニャは聞いた。


「……零点です」

「えっ、マジで?」

「マジですよ!!今まで何やって生きてきたんですか貴方は!」


 マドイはその美しい顔に怒りをあらわにしていた。

そう言われても、できない物はできないのだからしょうがない。


「貴方、十歳の子供でも十点は取れる問題ですよ。こんなにバカだとはさすがに思っていませんでした」

「しょーがねぇだろ。学校通ったこと無いんだから」

「嘘おっしゃい。この国では十二歳まで教育が義務付けられているんですよ」

「……これだからボンボンは」


 ラーニャは偉そうに言うと、ふっとため息をついた。


「世の中にはなぁ、貧乏すぎて学校に通うヒマがないヤツなんかいくらでもいるんだよ。オレの村だってそう。オレを含めた村の子供で学校に通ってたヤツなんか、村長の娘くらいなもんだぜ。あ、ちょっと待てよ。もしかしてバカだと魔導庁入れないのか?」

「そこは一応大丈夫にはなってます。精霊の守護を受ける者は、入庁の時点で無条件に三級魔法士と三級魔導師の資格を与えられますから。……これが入庁の最低条件なので」

「そっかー。でも魔法士と魔導師ってどう違うの?同じじゃね?」


 マドイは何か言いかけたが、諦めたようだった。

ひょっとしたら恵まれない彼女の境遇を哀れんだのかもしれない。


「魔法士は魔法を使う者のこと。魔導師は魔法を研究し、人々に広める者のことです。戦争があった頃は戦力になる魔法士の方が重視されてきましたが、平和な今は魔導師のほうが重要です」


 彼の説明に、ラーニャはもっともらしくうなずいた。


「とにかく、これから貴方にはみっちり勉強してもらいますからね。覚悟しておきなさい」

「はーい」


 ラーニャは気軽に返事をしたが、その後に待ち受けていた勉強生活は、工場に勤めていた時と勝るとも劣らないほど過酷だった。

魔法知識がゼロに等しいラーニャには専属教師が付けられたのだが、その教師が非常に厳しいのだ。

毎日頭から煙が出るほど勉強させられて、新しく越してきた魔導庁近くの下宿に帰ってみれば、たっぷり出された宿題が待っている。

人生始めて勉強というものをするラーニャには辛すぎる生活だったが、それにも何とか慣れてきた頃、ようやく初めての休日がやってきた。


 待ちに待った休日。

同じく休みだというミカエルが連絡をくれたので、ラーニャは久しぶりに彼と会うことにした。


 指定された待ち合わせ場所は、中央の噴水が目を引く美しい広場だった。

王城近くにあるここはたまに祭りなどが開かれるらしいが、今いるのはクレープ売りのワゴンだけである。

それでも訪れている人の数は多く、皆ベンチに腰掛けたり噴水を眺めたりして、思い思いの時間を過ごしていた。


 ラーニャがベンチに座っていると、正午という約束の時間通りミカエルがやってきた。

後ろにはクレープを両手に持ったアーサーがいるが、ひょっとしてあそこのワゴンで買ったのだろうか。


「ラーニャ久しぶり~。元気だった?」

「体は元気だけど、脳みそはしおしおだよ」

「今猛勉強中だってねー。なかなか根を上げなくてつまんないって、兄上が言ってたよっ」

「そりゃどーも」


 マドイの言いそうなことである。

まあ最悪の仲だった兄弟間で、そんな下らない雑談ができるようになっただけでもよしとしよう。


「あ、ラーニャクレープあげる。あそこで買ってきたの」

「アーサーにはいいのか?」 

「めっそうもありません。私はミカエル様にお仕えしている者ですから」

「ふーん。なぁ、前から思ってたけど、お前らって一体どういう関係なのよ」


 ラーニャに聞かれて、ミカエルとアーサーは顔を見合わせた。

そのうちミカエルが、動揺した顔つきになる。


「それってどーゆー意味で聞いてる?まさか母上みたいに美少年美青年同士の恋愛期待してたりする?」

「してねーよバカ!つーか自分で美少年言うな。オレはアーサーがどういう役職でミカエルにくっついてるのか聞いてんだけだよ」


 ラーニャはまだクレープを片手で一つづつ持っているアーサーを指差した。


「何か見てると、お茶入れたりクレープ買ったり、護衛とは到底思えないんだよな。ひょっとして雑用係?」

「失敬な!私はミカエル様の専属護衛騎士です!決してパシリではありません!!」


 彼はよっぽどラーニャのセリフに腹が立ったらしい。

いつもは大人しいアーサーの剣幕にラーニャが動揺していると、突然背中に誰かがぶつかってきた。


 振り返ってみれば、小さな女の子が怯えた様子で立っている。

息を切らしている所を見ると、慌てて走って来てぶつかったのだろうか。


 ラーニャが少女の怪我を心配して様子を伺っていると、涙目の彼女は大きな声で叫んだ。


「お願いです!助けてください!!」

「は?」

「お願い!かくまってください!!」


 唐突過ぎる彼女のセリフは、平和な広場にはまるで似合わないものだった。

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